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愚者の野望  作者: 森戸玲有
第一章 愚者との出会い
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第一章 参

 細長く広大な越巒(えつらん)大陸を埋め尽くしているのが、(ろう)の国だ。

 下方には、名前の知れない小国が次々と建国されては崩壊していくが、瓏の国も似たようなもので、国土は広いが、その主である国王は次から次へと変わっている。

 先代の国王、叡台王はここ数百年の間で、珍しく在位が長く、前半生は善政を敷いていたものの、晩年は版図拡大を狙った戦争に明け暮れ、国民の生活は貧しくなる一方だった。


「この状況を乗り切るために、()が王になったのだ。まだ玉座を明け渡すつもりはない」

 ……と、鼻息荒く捲くし立てるのは、叡台(えいだい)王の弟で、現在の国王・光逸(こういつ)だった。


 叡台王には子供がいなかったので、光逸が王位を継いだのだが……。


「はあ……」


 法斉(ほうさい)は眠ってしまいそうな目を何度か瞬かせて、辛うじて神妙な面持ちを作る。

 光逸は暗愚ではない。

 まだ玉座に就いて日の浅い光逸だが、やる気は旺盛なのだ。


(今のところ、そのやる気は、見事に空回りしているが、在位が長くなれば、そんなこともなくなるだろう)


 歴代の国王に仕えてきた法斉は、そんなふうにのんびりと考えている。

 だが、憂うべきは、それ以前の問題だった。


 ――「平凡」なのだ。


 光逸のすべてが……。


 叡台王のように身を縮ませるほどの威圧感はいらないが、もう少し他に「何か」かないのだろうか。

  そんなふうに、望んでしまう。

 もしも、人を惹きつける魅力が多少なりとも、この男にあったのなら、言葉通り、難局も乗り越えることが出来るのかもしれないのに……。


(これから、個性を磨くといっても年も年だしなあ)


 光逸は五十を過ぎている。こうなったら光逸の子供に期待したいところだが、皇子はまだ幼く、教育したところで、成果がでるまであと二十年はかかる。

 法斉は心中で深い溜息をつくと、言葉を選びながら、老体を屈めて頭を下げた。


「すぐにでも、偽者は一掃されるでしょう。気を落ち着かせて下さい」

「しかし」


 光逸は二重顎を震わせながら、私室の大きな椅子に巨体を沈めた。


 夜である。


 隠居している法斉は、公務を終えた光逸に呼び出された格好だ。

  光逸よりも二十以上も年上の法斉は、眠たくて仕方ない。


「偽者かどうかなど分からないではないか。兄上は紫天領にも、遠征している。紫天領といったら、先々代の国王が征服した土地でもあるのだ。もしも、本当に兄上の子であったのなら、紫天領が何をしでかすか分からないではないか? 早々に兵を差し向けなければ、手遅れになるぞ」

「陛下、早まりなさるな。要は芳 葉明が消えてしまえば良いのです。私は、葉明のもとに、刺客を送り込んでいます」

「……刺客?」


 怪訝な表情の光逸は、小さな目を細め考えこんでいるようだった。


「以前も、刺客を送ったが駄目だったんだろう。葉明という男が本物だからこそ、兄上のように悪運が強いのではないか?」

「今までは……」


 法斉は、もはや自慢となっている見事な白髪頭を撫でながら、ぽつりと言った。


「今までは、それこそ手練(てだれ)の者を送りこんでいました。おそらく見るからに屈強そうな者だったからこそ、あちらも警戒したのでしょう。しかし、今度の者は違います」

「ほう」


 機嫌を良くしたのか、光逸は従者を呼び、傍らの円卓に南国の果実酒を運ばせた。

 黄色い酒は、極東に突き出した半島の端に位置する王都から、はるかに南の国で作られている希少な品だ。

  庶民の稼ぎでは到底届かない代物である。

 それを一気に飲み干し、満面の笑みを浮かべる光逸に、複雑な気持ちを抱きつつ、法斉は己の描いている今後の成り行きについて簡潔に述べた。


「今度の刺客は、刺客らしからぬ娘なのです」


 光逸は、法斉の作戦に自信を見たのか、私室一杯に響く声で笑った。


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