053
あれから魔獣に襲われながらも1日中歩き続けた結果。ついに町の入口付近に辿り着いた鏡一行は、その町の異変に気付いた。
「何人隠れてますかね?」
「さあな?でも俺達より多いのは確かだ」
「最初の町見たいな、力で成り立っている町かと思って油断してましたが.....これは確実に待ち伏せですよね」
鏡達が油断していたのは、最初の町見たいな治安の悪い町だと思っていたために、町から響いてくる音が喧騒か別の何かだと思っていたからだ。
敵の数に戦慄を覚える。こちらが立ち止まったことでぞろぞろと何処からともなく赤や青や緑と言った色の近親の色の人達が湧いて出てくる。
「音の正体が待ち伏せしていた人達の喋り声とはな」
「この調子だと万は確実にいるんじゃねぇ?」
ツゥーと汗が流れ始めた。視界を埋め尽くす人人人。
その全てが自分達に殺意を向けてくるのだ。
正確に言えば鏡1人に向けられているのだが、近くにいる大雅や凛、晴輝に結衣、フィロスとソフィアにも鏡に向けられている殺気を自分達にも向けられていると錯覚してしまったのだ。
敵は万を超えているのだ。錯覚しても別に可笑しくはない。
恨まれることをしたことは無い。殺されるようなこともしたことがない。なのに目の前の人達は自分達に殺意を向けてくるのだ。
目の前の人達に殺意を向けられて、鏡の肌に無数の殺気が痛いほど突き刺さる。
逃げたい。でも逃げたら背中から万の大群に襲われる。背中は斬られ、手足はもがれ、首を跳ねられ、最後に魂を突かれておしまいだ。
そんな最後は嫌だ!僕はこんな所で死ぬわけにはいかないんだ。
試練を全て攻略して欲しいという風花の強い思いと仲間をこれ以上失って欲しくないという光太郎の強い思いが鏡の意志と混ざり合うことで、鏡と2人の能力が次の段階へと移行していった。
-崖の上-
「何だと!」
「どうしたんだ?」
突然横で大声を上げた風太に炎我が心配そうな表情を向ける。
「何でだ!!何であんな男から風花と同じ力を感じるんだ!!」
「どれどれ?」
「炎我よ.....どう考えてもあそこにいる少年だろうよ?」
怒り狂う風太をよそに、炎我が崖の下を見渡すと、蒼流があれだろ?と風と雷を纏う少年に指を差した。
「あぁ、あれか~って言うかその近くにいるのは晴輝だよな?」
「晴輝って誰だ?炎我の知り合いか?」
「知り合いって程じゃないけど、この前俺が殺してしまった犠牲者の1人として、謝ってただろ?途中で妹探しに行ったから覚えてないのか?」
「あぁ、あの時の赤い奴か、顔までは覚えていなかった」
話が終わったかと移動しようとする風太の腕を炎我が掴んだ。
「おっと、何処に行こうというのかね?」
「妹の力を使う男の所だ」
「殺すつもりか?」
「そうだが何か問題でもあるのか?」
風太の瞳を覗くと、今から殺すと言うのはどうやら本気のようだ。
やれやれ、仕方ないな。この世界の真実を風太にもう一度思い出してもらうか。
「風太だって知っているだろ?この世界で他人の魂を使えるってことは、その魂の能力を使っている人間と魂だけになった人間との間に信頼関係がなければ使えないってこと位は何回か見てきたお前なら知っているだろ?」
「っ!!それは」
「そうだ、もしもあの少年が風太の妹の彼氏だったらどうするんだ?風太は妹を悲しませることを平気で出来るのか?」
「嘘だ!俺のいない間に風花に彼氏が出来たなんて.......そんなの.....」
風太がついに耐えられなくなったのか地面に崩れ落ちた。
「何々?風太が血眼になって妹を探していたって言うのに、妹はあの少年とベッドの中で信頼関係を築いていたって言うのかい?」
「グハッ」
「おい!幻龍!!風太の精神の傷をニヤニヤしながら抉るな!!」
「えぇー、だって楽しんだもん」
風太は、あの少年と妹がベッドの中でイチャイチャしている想像をしてしまい、脳が燃え尽きたのかその場で動きを停止した。
「幻龍!!風太が真っ白に燃え尽きたじゃねぇか!!」
「何言ってんの?風太は元から髪の毛は白いだろ?」
「そういう事を言ったんじゃねぇ!!」
髪の毛を両手で掻き乱す炎我と風太の不幸を満面の笑みで更に傷を抉ろうとする幻龍。
その光景を見ながら「止めるのが遅かったか」ともはや諦めながらも呆れている蒼流がいた。
-赤・青・緑-
「敵さんはやる気満々のようだ」
「..........」コクリ
「そのようですね」
レッド・ボア隊長は敵が既に武器を創造したと言うのに余裕の表情を浮かべる2人に軽口を叩いてやろうと口を開いた。
「2人共死ぬんじゃねぇぞ」
「..........」
「貴方より強い私を心配しているのですか?それと先程伝えた今回の目的をもう忘れてしまったのですか?」
「忘れてねぇよ」
まだ俺よりも少し年上に見えるブルー・シャークになら下に見られても気にもしないが、グリーン・バードの幼い少女に下に見られることや馬鹿にされることで、毎回舌打ちを抑えるのにかなり苦労してしまう。
悔しいことだが、これがこの世界の現実でもあるので、膨れ上がる怒りを抑えるのに必死だ。
力の強きものが頂点であり、この3人の中ではレッド・ボアが一番弱いのもまた事実なのだが、年下に軽口を叱られたように感じて、更に何も言い返せなくなったのであった。
軽口によって静かになった部屋を3人がタイミングでも合わせていたのか、3人が一斉に席を立ち上がった。
3人はそれぞれの部隊に戻り、会議室で話し合った内容を部下に伝えて、今回の最終的な命令を部下達に言い渡すために与えられた隊に向かうのであった。




