052
3つの色が地面を埋め尽くしている光景を空高くから見下ろしている者がいた。
その者は風の音に声を消されていたが、ポツリと何か一言を呟くとその場に更に強い風が吹き荒れて、次の瞬間にはそこには誰もいなかった..........。
「ビュオオオーー!!」と風が人間サイズの竜巻を発生させたかと思えば、次の瞬間には1人の見馴れた少年が立っていた。
「風太、気になった音の正体は見つかったのか?」
「この先に少し進むと1万もの人が集まっていた」
風太は、見てきた方角に人差し指を向けながら正確な位置と数を教えてくれた。
「1万も集まって何をするつもりなんだ?」
「そこまでは分からない」
そうだよな、分かったら逆に凄いか。
「その付近に隠れられそうな場所はあったか?」
「自分達から危険に飛び込むのは感心しない」
「まぁまぁ、俺の殺した2人と風太の妹さんがその中に混ざってるかも知れないだろ?」
「それは......そうかも知れない......」
「だからこそ確認のために見に行こうぜ」
炎我は後ろを振り向くと、何も喋らずに耳だけを傾けていた2人に声をかける。
「ところで幻龍と蒼流はどうするんだ?」
「僕は行っても良いよ。楽しそうだし」
「目を離した隙にお前等が何をするか心配だから俺も一緒に行こう」
「蒼流は俺達の保護者かよ」
蒼流にたいして突っ込みをいれると、風太の方に顔を向ける。
「俺と幻龍が行けば保護者役として蒼流も行くことになるけど風太は1人でお留守番でもしとくか?」
「分かった、行けば良いんだろ?」
風太は渋々頷いたのではなく、炎我の言った通り可能性は低いが、その集団の中にもしかしたら妹がいるのかもしれない。という小さな望みを持っていたからだ。
いや、正確には違うと言える。もし風太が行かずに風太の妹である風花が本当にあの中にいたときに、風花を知らない3人が間違って殺してしまうかも知れないのだ。
いないと分かっていても、もしも知らないうちに風花が巻き込まれて、3人の誰かに殺されたりしたらもう二度と会えなくなるからだ。
そんなことを知ってか知らないのか判断が出来ないが炎我達が妹を間違っても殺さないように行動をしなくてはいけない。
「風太!風太さんや」
「ん?何だよ?」
目の前で手を振りながら名前を呼んでいた炎我に今の今まで考え事をしていたことで炎我の声が聞こえていなかったようだ。
「安全に観戦できるような場所まで案内を頼む」
「分かった」
風太の体から突風が吹き出して、炎我、幻龍、蒼流の体を包み込んだかと思えば、3人がそれぞれの体格にあった風の羽衣を纏っていた。
「遅れるなよ」
風太は呟くと飛び立っていた。その後を見失わないように慌てて3人がそれぞれの速度で追いかけること数秒。
「ここが安全だと思う」
風太が急に止まったことで、速度を完全に殺すことができなくなった炎我がダイナミックに顔面から地面に着地した。
そして、追撃だとでも言うのか、空中で1回転したことで勢いを殺すことに成功したかと思えば、炎我の後頭部に両足を揃えて綺麗な着地を果たした幻龍。
最後尾を追いかけてきた蒼流は、空中で急ブレーキをして一度止まるとそのまま真下に降下していき「スタッ」という音をたてて地面に着地をした。
「いつつ、止まるなら止まると言ってくれよ」
「すまない。次があったら気を付けよう」
「それと幻龍、何故俺の頭に着地した」
「んー、何となくかな?」
考える素振りをしたかと思えば「何となく」だと、何となくで頭を踏むか普通。そして、普通と言えば謝るのが当たり前だろ!
「なぁ幻龍、今から俺が気晴らしにお前の頭を踏むから頭を下げてくれないかな?」
「あー、ごめんごめん次からは何があっても踏まないからさ」
「そうしてくれると嬉しい。だがな『次』は絶対に無いからな」
「了解であります!!」
幻龍を睨むと、かなり慌てながら敬礼を始めた。
ムズムズする顔に手を当てると、擦れたことによって剥がれた皮膚を引っ張って剥がした。剥がされた皮膚の下から新しい皮膚が顔を覆うようにして再生が始まった。
「あー!!ヒリヒリする!!」
「落ち着け、誰かにバレたらどうするんだ」
「はぁ?何が?」
「もう忘れたのか....ここは敵地から近い場所なんだぞ」
イラついていて、ついつい忘れてしまっていたが、ここを観戦に選んだんだよな。
ポリポリと顔をかくと自分達が今立っている場所がどんなところなのかを見渡してみる。
白色よりも灰色に近いだろう岩肌、灰色にちょっとだけ別の色も付け足すかなという程度に緑色の草木が生えている。
手を伸ばせばここからでも雲にまで手が届きそうなほどに、今までで一番空に近い位置だった。
崖の下を覗くと、風太が報告したであろう人達が地面を赤や緑や青で埋め尽くしていた。
この崖から眺める景色は、敵の動きが丸見えだ。
「おぉー、いい眺めだな」
「ねぇねぇ炎我、僕の能力の実験をしてもいい?」
「駄目だ、もしもあの集まりが只のパーティーだったりしたら可哀想だろ?」
「パーティーかー。なら途中参加してもバレないよね?」
「おぃおぃ、俺が幻龍にパーティーに参加しろなんて命令出来るわけないだろ?そんなことをしたら超怖い蒼流の槍が俺に投げられてしまうだろ?」
チラッと視線を向けた先には凄い形相で睨んでいる蒼流の姿があった。
それを見た幻龍は納得をすると「じゃあ」と続けた。
「じゃあ、踊りが始まってから、踊ってくれるパートナーがいない可哀想に一人で俯いている子がいたら、僕がその子のパートナー役をしてきてもいい?」
「そんなことなら、許可を取らなくても参加してきて良いに決まってるじゃないか」
幻龍と炎我は顔に笑みを浮かべると、蒼流が手を額に当てて「それなら」と続けた。
「それなら、私も一緒に参りましょう」
幻龍と炎我と蒼流の言葉の意味を理解している風太はジト目を3人に向けていた。
幻龍の言葉は「戦闘が始まってから、仲間の援護を受けられずに孤立している人がいたら、助けに入ってもいい?」ということだ。
そんな言葉は嘘だと風太は知っている。その言葉は只の暴れる為の口実だと言うことも。
突如として、第3者から襲われた相手が文句を言ったとしたら、思ってもないことを正論のように言うんだろうな。
今までのことを思い出して、崖の下に集まる人達に哀れみの視線を風太は向けるのであった。




