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-鏡視点-
僕達は、大雅を先頭に次の町に向かっていた。
後方を振り向くと、緑豊かで物静かな森がポツンと米粒のように小さく見えていた。
前方を振り向くと、ポツンと米粒のような小さな町がここから見えていた。
距離にしたらどの程度離れているのだろうか?
まだまだ結構な距離があるにもかかわらず色々な音が空気を震わせながら聞こえてくる。
遥か遠くから聞こえてくる町の音に、次はどんな町なんだろう?と今から町の想像をしながら楽しんでいた。
もしも鏡がのんびりとしたピクニック気分で次の町に思いを馳せながら向かっていたら、それは良かったのだろう。
しかしだ、この世界に安全で楽な旅は存在しないのだ。
「ガルルル」
突如周囲から響くように聞こえてくる獣のうなり声。
岩の裏側や自由に伸びた草の中というありとあらゆる障害物の中から、縄張りに侵入してきた鏡達の死角をついた嫌らしい攻撃。
いつ襲ってくるのかも分からずに、気の緩むことのできない緊張感の中で、己の武器を創り戦いはじめるのだった。
-数分後-
「ガォーッ!!」
死角から牙を剥き出しにして、噛みつこうと接近してくる1匹の狼型の魔獣に鏡は「雷装脚」で、脚に雷を纏うと、周囲の風を切り裂きながら回し蹴りを狼の頭に炸裂させた。
「ガルルル」
「見~つけた!.....ストーム!」
「ガゥッ!!」
遠距離で鏡のスキが生じる機会を待ち受けていた狼は、ついにそのタイミングを完全に失い暴風に身を包まれて、バラバラに崩れていった。
遠距離には、風花の風を使い。近距離には、光太郎の雷を使って、迫りくる魔獣達を蹴散らしていた。
「いつ見てもすげぇーな!」
「あぁ、鏡がどんどん俺よりも強くなっていく気がする」
「晴輝そろそろ諦めろ、鏡は既に俺よりも強いのだからな」
フィロスと晴輝と大雅は、鏡1人であの狼型の獣を蹴散らしている現状にどうすれば良いのかすら分からなくなっていた。
男性陣から少し離れた所では、ソフィアが凛さんを護衛に無理矢理連れて、結衣さんから異性への愛についての講義を受けていた。
「だからこそ◯◯◯が◯◯するから◯◯◯と言う風に◯◯◯◯すれば良いのよ」
「な、なるほど」
結衣さんの言った言葉を想像したのか、顔を赤面させながらも頷いている。
ソフィアに言ってやりたい。結衣さんの話しは絶対にためになら無いと言うことを今すぐ伝えたい。
そして、凛さんまで巻き込むなと叱りたい。
でも、ソフィアにとっては、チームの女性陣のみが知っている秘密のお話しだと思っているのだろう。
現に2人ともヒソヒソと話しているのがその証拠だ。
でもたまに、興奮しているのか、声が駄々漏れしていることがあるんだよな。本人は話しに夢中になっていて気付いていないのかも知れないけどね。
それに、男の僕が口出ししたら盗み聞きしたのかと変な目で見られそうだから、最終的には聞かなかったことにするのだ。
「戦闘中に見える範囲が広がったのは良いんだけど......正直僕1人が頑張るのは間違っているんだよな。っといたいた、ストーム!」
最近の鏡は、目が良くなったり、耳が良くなったり、気配を感知しやすくなったことに苦笑いを浮かべながら「まるで、数人分の感覚を共有している見たいだ」何て呟くと、次の獲物の位置を捉えた。
「ストーム!」
それからも奇襲してくる狼の数は計り知れないが、鏡に傷を負わせるような個体はいなかった。
「ふぅ、終った終った」
狼型の魔獣を殲滅したことによって、この辺一帯の魔獣の気配が無くなったことを感じ取ったのか、フィロスが子犬のように駆け付けてきた。
「兄貴!!お疲れさまです」
「その兄貴って呼び方やめてくれないか?」
「兄貴は兄貴っす」
フィロスの言葉にまだ馴れない鏡は、苦笑いを浮かべると、フィロスを無視して前方に見えるまだ見たことのない町に向かうのであった。




