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パンドラゲーム  作者: 香村 サキト
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047

記憶を全て失ったことで、ここに来る前の人格に戻った男の第一声が「ここは何処?私は太郎。覚えてる」だった。


「ここは何処で君は誰なの?そして、あの少女は何でこっちを見て怖がってるの?」

「うるさいよお前」

「何でそんなに威圧的なんだい?」


消すなら消すで全ての記憶を消せばよかったか?

不快に感じた記憶だけじゃなくこれからは性格まで消した方が良いのか?

そんな事を考えながら男に真実を話した。


「お前があの少女を襲ったから怖がってんだよ」

「は?俺が?少女を??何で?」

「お前の好みなんか知るかよ」


ノトは答えると同時に、掌全体で男の顔面を鷲掴みにすると、親指と中指に握力を集中させて、締め上げる。圧迫によるダメージを脳に与えることにより男の顔は徐々に激痛に耐えられなくなったのか顔に力を入れたことによって皺ができる。


「あだだだだ、痛い痛いからそれ止めて」

「誰がテメェの言うことなんか聞くかよ。メモリー・リロード」


ノトは再度男の頭から飛び出してきた記憶のフィルムを眺めると、見付けた隙間に能力を発動させた。


「ファンタスティック・ドリーム。お前の記憶を改竄する」


能力の発動が終わると同時に、男にかけていたアイアンクローを外した。

ドサッと地面に尻餅をついた男。


これ以上の記憶を消さずに、新しい記憶をいれられただけなのだから、男の態度が急に変わるのは仕方がないことだ。


「ノト様先程の御無礼をお許しください」


男は足を折り曲げて、胴体を倒し、両手は頭の少し前の地面に付けて、額を地面に擦り付けた。つまり土下座だ。


「今回だけは許すが、これからはこういったことが無いように俺の為にしっかりと働けよ」

「ははーっ」


そんな光景を遠くから見ていた少女は、もう何が何やら訳が分からなくなって、混乱していた。


「さてと、後はあの少女の記憶だけだな」


ノトは、足の力が無くなっているのかぺたりと地面に崩れ落ちている少女に視線を向けて呟くと、少女の元に近付いていく。


少女は、近付いてくる青年を見て、私は助かったの?それともこの青年も私に酷いことをするの?と内心不安になっていた。


ノトは、腰が抜けて立ち上がれない少女の前に立ち止まると、手を伸ばした。伸ばされた手は、一度も止まることなく少女の頭の上に乗せられる。


青年に触られたことによって、少女の体が「ビクッ」と一瞬だけ震える。


「怖いことは何もしないから安心して」

「なななな何をする気ですか!!」

「怖い思いをした君に今からおまじないをかけるだけですよ」


少女に対して優しく囁くような声と微笑む青年の顔を見て、このままでは心臓が張り裂けるのでは?と思わずにはいられないほどに鼓動のリズムがスピードが音量が1秒ごとに激しさを増していく。


(怖い思いをした私におまじない?おまじないってま、まさかキッ、キスのこと?よく見たらこのおにいさんイケメンだし、おじさんに奪われたファーストキスを忘れられるような優しいキスでもしてくれるのかな.....。って私のバカバカバカ!!私みたいな普通の顔のそれもおじさんに初めてを奪われた中古品がこんなイケメンのおにいさんとそんな関係になれないことは分かりきっていることでしょ、夢を見るな私)


少女は頭から妄想混じりの想いを振り払おうとして、頭を左右に振る。


(でっでも、もしもおまじないがキスだったらその先まで進んでも良いのよね?私にはその先に進む権利があるよね?ね?ね?)


僅か数秒然れど数秒、夢見る乙女の妄想は膨れ上がり爆発寸前まで加速していく。

だがこんなところで妄想を爆発などさせたりしない。

少女は、この人にだけは絶対に引かれたくないという思いだけで、感情を押さえ込んだのだ。


「目を瞑って、力を抜いてください」

(キタァァァァァー!!)


青年の声を聞いた少女は、目を瞑ると気付かれないだろうギリギリのところまで唇をつきだした。

そして、キスを期待していた少女を裏切り青年は呟いた。


「メモリー・リロード」


その言葉が引き金となったのか、少女の頭から無数のフィルムが飛び出した。そのフィルムを見たであろう青年は「ブフォ」と吹き出してしまった。


気になった少女は恐る恐る目を開く。そこに合ったのは、少女の頭の中から伸びる長いフィルム。

もしも少女の頭から飛び出だしてきたフィルムが只の記憶によるものならば問題は無かっただろう。


しかし、少女の頭の中から出てきたフィルムは、つい先程まで少女が妄想していた青年とのキスのその先の性的行為がフィルムから溢れていたのだ。


少女の顔が一瞬で沸騰したように熱くなる。もしかしたら本当に沸騰したのかもしれない。少女の顔は恥ずかしさのあまり真っ赤に染まった。


「キャァァァァァー!!!止めて!!!」


恥ずかしくて泣きたくなるような表情に活をいれて立ち上がると、青年にフィルムを止めるように叫びながらポカポカと叩き始めた。


「消すから落ち着け」


青年は少女の頭の上に乗せていた手を退ける。するとフィルムが少女の頭の中に戻り始めた。


「あーそのー何だ......ごめん」


絶対に見てはいけない物を見てしまったような表情を浮かべる青年に少女は約束を取り決めた。


「私の想いを知ったからには、責任をとってくださいね」

「わ、分かった.....」


青年は、いやノトはその少女の剣幕に断るという選択が出来なかったのだった。

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