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パンドラゲーム  作者: 香村 サキト
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-3日前-


謎の集団が準備の為にそれぞれの目的の場所に向かい始めた頃。


ボスと呼ばれていた男は町の裏路地を歩いていた。

そこは狭くて、薄暗く、人通りは無く、周囲に人の気配が全く無い場所だった。

ここが本当にこの町の一部なのかと疑ってしまうほどにこの裏路地と町との枠組みは違っていた。


歩くこと数分でボスは目的の扉の前にたどり着いた。

緊張のためか呼吸が荒くなるのが遠目から見ても分かる。

キョロキョロと周辺を見渡して誰も自分を見ていないことを確認すると、意を決したように扉を数回ノックする。


「開いてるよ」


中から聞こえてきたのは若い男の声だった。


ボスはゆっくりと扉を開け中に入る。この部屋に入ってまず最初に目につくのはこんな世界だというのに机の上にのせられた本の山。


そして机の後ろ側には、背景とでもいうつもりなのか壁側に3つの本棚が設置されている。

狭いこの部屋では本棚によって壁が見えない。

そんな狭い部屋であっても本棚に並べられた本の数は何百冊~何千冊位はあるのだろうか。


机の上には本以外にも紙やペンなど様々な物がある。

一瞬何処の国の言葉なのか分からなかったがその紙には書きなぐったように書かれた日本語だったがくちゃぐちゃに書かれていて何を書いているのか分からない。


ペンにいたっては鳥の羽根のような物で、その先っちょを黒いインクで満たされたツボに付けるとまた紙に文字を書きなぐる。


ペンを片手に文字を書いているのは、綺麗に整えられた黄緑色の短い髪に全体を黒い色が多くを占めているローブとその下には実用性重視の見るからに動きやすそうな服を着込んでいた。


ボスと呼ばれていた男は目の前の青年の邪魔にならないように直立不動の体勢で静かに眺める。


「ふぅ、終わった終わった」


少年が持っていた羽根ペンをケースにいれ一息吐くとボスの方に視線を動かす。


「やぁボス、お山の大将になった気分はどうだい」

「はっ!ノト様から頂いたこの地位に嬉しさのあまり感動して言葉に表せません」

「そうかそうか、そんなに嬉しいか」


ノトと呼ばれる青年は足を組み、ノトに忠誠を誓うボスを見下ろすように眺め始めた。


ボスは年下のノトに格下と見られることにたいして、全然気にした様子は無い。

むしろ心の底から幸せそうに満面の笑みを浮かべている。


「数日見ない間に強くなったか?」

「はい!ノト様から授かったお力のおかげで、数日でこれほどの数の魂を集めることができました。是非懐におおさめください」


ボスは懐から取り出した袋の紐をほどくとノトに中が見えるように見せる。

その袋の中には様々な色の魂があり、1つとして同じ色が無かった。


「ほぉ、ここまで集められたのか。ならこれからも更なる精進をすることに期待して、褒美としてボスに力を授けようではないか」

「ありがたき幸せ」


ボスは少年に平身低頭の勢いで、体を地面に近付けようとしたが、青年が手で止めるようにしてからこっちに来るように手招きをする。

ボスは地面につけようとしていた頭を持ち上げてノトの元に歩いて近づいていく。


充分に近づいたボスは頭を垂れて、ノトの手が充分に届きやすい位置で頭を固定した。

そこにノトの手がポンと置かれる。


「メモリー・リロード」


ノトの手を中心にボスの頭から写真のフィルムのような物が飛び出してきた。


そのフィルムにはボスが殺したのであろう様々な人と戦っている姿から消え行く瞬間までが映されている。

他にもこれから襲おうと計画をたてているのか白髪の少年が能力を発動してから町に帰るまでの物が最後にでてきた。


「確かに面白い能力を使う少年がいたものだな。これは見たところ影の系統に入るのかな?少し惜しいが今はボスに褒美をやらねばいけないから後で調べるとするか。」


ノトはボスの記憶のフィルムを眺めてから手を動かし始めた。


「この記憶はいらないな。メモリー・ブレイク」


消そうと思った記憶のフィルムに向かって呟くとフィルムがバラバラに崩れ落ちて、消えた隙間を埋めるように左右のフィルムがくっついた。


その後も同じようにノトが必要ないと判断した記憶を次々と消していった。


「さてと、次はお約束の力を授けようじゃないか」


ノトは顔に笑顔を作り出した。

その笑顔はこの世界に来たことによって、好き勝手にできることになった人体の....能力によっての記憶の改竄。つまるところは記憶の操作であり、自分の都合の良い記憶をもった人間の創造であり、最終的にはノト専用の人形である。


「ファンタスティック・ドリーム」


空白の白い空間にノトは能力で創られたペンで絵や文字を書き込む。

この空白には本来起こるはずの無いことを書き込んだ。

ファンタスティック・ドリーム言葉の通り幻想的な夢であり、イメージで様々な物が創れるような世界なのだ。だったら思考を、経験を、記憶を上書き出来たとするならどうだろうか?


もしそんなことが出来るのだとしたら、性格を自分好みにできるのではないか?


もしそんなことが出来るのだとしたら、苦手な物を無理矢理克服できるのではないか?


もしそんなことが出来るのだとしたら、赤の他人の過去に無かったはずの物語(人生)を創作して、困ったことがあっても自分に罪を擦り付けない親友や何があっても自分を絶対に裏切らないような理想の恋人など創れるのではないだろうか?


そんな能力は普通の人生を歩んできた人では手に入れられない次元だろう。

だがノトは違った。いや生前のノトを歪めるような存在に出会えていなければ普通の人生を歩めていたことだろう。


でもノトは運が悪かったのかそれとも良かったのか出会ってしまった。


その時までは親友だと思っていた人に親友が犯してしまった罪をノトは擦り付けられ、恋人だと思っていた女は冤罪で捕まったノトをみかぎり、無罪になった親友だった人の元に行ってしまった。


ノトは自分が歩んできた人生を上書きしてまで忘れたいとは思っていない。

何故ならこんなに素晴らしい能力を元親友と元彼女に貰ったように思っているからなのか、それとも記憶を消したら能力も一緒に消えてしまいそうでそっちの方が怖いと思っているからなのかは本人でも分からない。

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