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パンドラゲーム  作者: 香村 サキト
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第1の町-②-

赤髪の少年の背中を追いかけて騒がしい場所に向かっていると徐々に人の動きが緩やかになってきた。


前方に見えるのは人の壁。あまりの密集度に壁であると錯覚してしまうほどに人が多い。

そんな場所に鏡が辿り着くと、持ち前の小さい体を使ってスルリスルリと人混みを掻き分けていく。


途中自分と同じように人混みを掻き分けながら進んでいた人達も何人か確認したが、その中でも2~3名の不幸な者達が痴漢と間違われて周りから叩かれているのを目撃した。


いかんせん、痴漢と間違われているのが小太りなサラリーマン風の格好をした男性なのだ。御愁傷様と念じる他無い。


そんな大人達を横目に見ながら更に進むこと数分。痴漢と間違われることもなく無事に人の壁を通り抜けることに成功した。


大音量の中心にて何が起こっているのかを確認するために前方に視線を向けると、そこには男2人と女1人が円形の舞台のような所で演説をしていた。


「我等の力を見よ!」


3人の中で、リーダーと思われる男の体が突如燃え上がる。

能力を発動した男の体には、皮も肉も骨も一切存在しない。

ただそこにあるのは人の形をした炎の塊。


男は炎のみで構成された右手を掲げると更に激しく燃え上がる。燃え上がった炎は形を変え、螺旋を描くようにしながら空に向かって伸びていく。

振り回すのに問題ない一定の長さまで伸びると炎は燃え上がるのを止め、剣の姿に変わった。


もう1人の男は、両足を肩幅に開くと、全身に力をいれる。

一瞬の内に一回りも二回りも大きく盛り上がる筋肉。それを覆う鎧のように全身の肌の色が茶色に変わると、岩のような姿に変わった。


最後の女は、世界を一瞬の内に凍らせた。地面はスケートリンクのように氷が張り巡らされ、空気中には氷の粒を散りばめて近付くものを全て切り刻むように女の周りを回り続けている。


リーダーと思われる男は、剣を城に向ける。


「勇気ある者よ!我等に続け!共に試練を成功させ、元の世界に帰ろうぞ!」


男が腹の中から声を出すと、近くにいた人達がその声に感染したのか叫び声をあげた。

更にそれは、人から人へと波のように広がり、大音量が広場の一ヶ所から更に遠くへと響き渡る。


「行くぞ!!」


3人を先頭にゾロゾロと興味を持った大勢の人達が城を目指して歩きだしていく。


(演説は終わったのか。最初から見てないから何とも言えないが、試練を攻略するという気持ちに嘘があるとは思えない。ここは取り敢えず付いていってみるか?)


隣を見ると赤髪の少年がチラチラとこちらをうかがっている。

その視線には「試練に行きたいけど、人探しを手伝ってくれた人を置いて自分だけ行ってもいいのか?」と悩んでいるのがまるで隠せていなかった。


「試練を受けたいのか?」

「あぁ、僕はどうしても元の世界に戻らなきゃいけないんだ」


少年の表情を観察する。


キリッとしてて、最初に会った時のような俯いた暗い表情とは一変して前を向いていた。

試練を受けるという覚悟は既に決まっているようだ。


なら赤髪の少年の言葉と覚悟と視線に対する答えは決まったような物だ。


「そういえばお互いに名前を名乗ってなかったな。俺の名前は一之瀬鏡。君の名前は?」


突然の自己紹介にキョトンとした表情を浮かべる少年。

言葉を付け足すか迷ってしまう。


「え、あぁ、僕は南雲晴輝、晴輝で良いよ」


自己紹介をした鏡に不思議そうな表情を浮かべる晴輝。

とりあえず名前を教えてくれたのだから自らも名乗るべきだろうと判断しての事だろう。

それでも、名乗るのが少しだけ遅れた事を気にしているのか少しだけソワソワしている。


そして、再度こちらに不思議そうな視線を向けてくる。

何故に今更になって自己紹介をしたのか?という言葉が込められた視線。

そんな視線で見られるとそこはかとなくむず痒くなる。それを全て押さえ込むのは簡単なことではなかった。


不思議そうに見つめてくる晴輝に、何故名乗った意味が通じなかったのか逆に不思議になってきた。

鏡は何となく痒く感じた頭をかきむしる。


「お互いの目的は一緒なんだ、なら一緒に行動するにあたって名前を知らないのは不憫だろ?」

「一緒に来てくれるのか!?」

「当たり前だろ、元の世界に帰りたがっているのはなにも晴輝だけじゃ無いんだぜ?それにどうやらお互いの目的も同じようだしさ、仲良くして行こうじゃないか」


鏡は言葉には出さなかったが、晴輝になら上下関係の必要性も無く仲良くできるような気がしていた。


これは鏡自身も薄々気付いていたことだが、右も左もわからない謎の世界では、一人でいるよりは年齢が近い人と一緒に行動した方が少しは気が楽になるのだ。


心理的な物は人間である鏡には克服できない。それにするつもりもない。

怖いところには一人で近付きたくないし、寂しくなるような孤独な旅や不安になるような場所に一人で挑むこともしたくない。


登山だってそうだ。初めて登る山で遭難するかもしれないのに案内人を付けずに一人で挑もうなど誰も思わない。

それに1人で登るより複数人で登ったほうが気持ち的には楽にもなる。


そう考えるとここで晴輝と別れる必要はない。これも何かの縁だと思って仲良くやっていけば良いのだ。


鏡は右手を伸ばす。鏡の伸ばした手の意味を理解した晴輝が力強く握り返してきた。


「これからよろしくな」

「あぁ、これからも頼りにしているぜ相棒」


鏡と晴輝。この世界に来て始めて人と人が握手を交わした瞬間になるのであった。

[テッテレーテレーテッテレー](by.BGM

晴輝がパーティーに入りました。

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