修行
剣と刀がぶつかりあう。それらがふれあったのはその一度だけ。
力の均衡はすぐに崩れた。
目の前から消える師匠。瞬間背後から訪れる衝撃に振り向くと再び背後から衝撃が訪れる。
前後左右ならぬ後左右から襲いかかる師匠の攻撃になす統べなくダメージを蓄積され、あえなく手合わせは一時中止となった。
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「師匠、もしかして、師匠がこの町の試練を終わらせたんですか?」
傷だらけの痛む体を休ませながらふと思い出した疑問をぶつけてみた。実のところ誰が終わらせたのか謎のままなのだ。
「ワシじゃないぞ」
「そうなんですか、師匠の実力なら簡単に試練を乗り越えられると思ったんですがね」
師匠は強い。手合わせしたことでより強く確信した。空間認識力による瞬間移動が可能な師匠の戦いかたは人によっては卑怯と罵声を浴びせられかねない。
だが、師匠の話を聞く限りでは、瞬間移動とは名ばかりで、空間を認識し、移動したい空間に自分がいると強く念じることで可能としているそうだ。
この説明を聞いて理解できるとおり、常人にとって師匠式瞬間移動を行うのは自殺行為である。戦いの最中にそれを実行するのはもはや至難の技と言えよう。
なんせ、悪く言ってしまえば敵を目の前にして余所見をし、移動するのだ。注意力が途切れた瞬間に移動不可能となり、敵の刃が己を切り裂き死に至るのだから。
師匠が強いのは、それを実行する精神力の強さにあるのかもしれない。
だからこそ俺はこの町の試練は師匠がクリアしたものと思ってしまったし、師匠なら他の試練も案外簡単に終わらせてしまえるのではないかとも思ったわけだ。
「それはどうかのう?」
「師匠、そんなに強いなら何で試練を終わらせようとしないんですか?」
「それはきっとワシに未練がないからかのう」
「じゃあ未練があったら頑張るんですか?」
「さての、生き返ったところで老い先の短いワシからしたら何とも言えんのぉ」
師匠は顎を擦りながら遠くの空を眺めていた。




