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パンドラゲーム  作者: 香村 サキト
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灰色の町

俺達は次の町にたどり着いた。その町は全体的に灰色だった。火山が噴火した後の地元を思い起こす色をしている。懐かしいと思うと共にまだこの世界に来てから3日しかたっていないと思うと、本当に色々なことが起こったと実感した。


それにしても、不思議なことにこの町の試練は何者かによってすでに攻略された後のようで、俺達よりも先に到着した人がいることに驚いた。そんなわけで、他にも頑張っている人達がいると知った俺達は試練のことを一旦忘れて疲れた心を休めるためにこの町でしばらくの間だだけ休憩することにする。


叶うことなら大雅さんが追い付いてくることを願いながら。


・・・

・・


この町は灰色だ。地元のような安心感がある。でもこの町には地元のようなにぎやかな気配などなく、人気が少ない。


この町の景色を見ていると無性に帰りたいという欲求が強く刺激される。すでに何度も帰りたいと願いもした。


願うだけで帰れるはずもなく、ただ、時間だけが過ぎていく。そんな時間の流れのなか、俺は一人で町を歩いていた。


所々で見つかる地元との違い。当たり前だ、ここは住んでいた世界とは違うのだから。建物が違えば、漁師のおっちゃんもいない。噴火後の灰を箒ではわく住民がいなければ灰置場すらないのだから。


そうして町の中を見渡しているとあることに気付いた。この町で見かける人々は怯えている。何に怯えているとか考えなくてもわかってしまう。それはきっと、闇人から逃げてきた者達だからだ。


すこしの足音に過剰に反応し、すこしでも嫌なことがあれば耳を塞ぐ。


怖いのだ。俺だけじゃない。皆も怖いのだ。


第1の町で起こった集団による闇人の暴力。奴等がこの町に辿り着いたらまた誰かが死んでしまう。


強くなりたいと願うだけで、強くなれないのはわかっている。けど、どうすれば強くなれるのかがわからない。


嫌なのだ、弱いままでまた誰かを犠牲にして逃げるのは嫌なのだ。自分の見ていない知らないところで知ってる誰かが死ぬのは嫌なのだ。


またもグルグルと回り始めた渦に思考が囚われる。


考えながら町のなかを徘徊していると視界の端に奇妙な老人をとらえた。


その老人は大の大人が座れる程の大きさの岩の上に座禅を組んでいた。その老人は目を瞑りながら微動だにしない。


老人は静寂だ。背景に溶け込むように存在感を消している。しかし、よくよく観察すると老人の全身には魔力が漲っているかのように薄く、肌に密着するように張り巡らされている。


静寂の中の一瞬。老人の姿が消えた。


何が起こったのかがわからなかった。消えた老人が気になって首を巡らせる。


「あんな所に.....」


老人を見つけたときには空にいた。空中に留まるように見下ろす老人は、俺の姿をとらえると空から老人だけを切り取ったかのように一瞬にして目の前に現れた。


「ほっほっほ、そこの若いの、どうかしたのかの?」


顎髭を擦りながら問いかけてきた老人。


「今、何をしたんですか?」


震えそうになる声を必死に抑えながら「見つけた」と核心めいたのを感じる。


「簡単なことよ、空を飛んでみたいと思っただけじゃ。人の技術に頼った飛びかたでなく、ワシの身一つで飛ぼうとしただけのこと」


何でもないように放たれた老人の言葉に俺はどれ程の衝撃を受けたことだろうか?


「しかし、地面から飛ぼうとしたはずなのに何故か気付いたら空に浮いているのが不思議でならないのじゃよ」


等と老人は簡単に飛んだというのに不思議なことを言っている。そもそも空も飛べぬ人にとって、空を飛ぶといういう想像は中々できないのではなかろうか?


そのために瞬間移動のようなことができたのか?

まぁ、それを考えるのは今は良いか。


「ところで、...貴方は何者なんですか?」


「ワシか?」


コクリとうなずき、続きを促す。


「そうじゃのぉ、何者かと言われると、縁側で猫とのんびりしながら茶を嗜むのが生き甲斐だった老人としか言えんのぅ」

「...そうですか」


暫し考える。


この人は強い、それは空を飛んでいたのを見たときから確信している。そんな人物が縁側でのんびりしているだけなのか?答えは否だ。なら迷うことなどないというものだ。


「師匠、貴方の弟子にしてください」

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