第3の試練-終-
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。連載から逃げて短編を書いてちゃダメだ。ってなわけで遅くなってしまい誠に申し訳ございません。終わりの部分の改稿が終わるのにものっそい時間を要してしまいました。
魚を倒すと同時に現れた道を進む、進んでいくと先程よりも広い広場に繋がっていた。
そこには洞窟独特の自然な姿は淘汰され、人の手が加えられたかのような地面には磨かれた綺麗な物が敷き詰められていた。そんな地面には1つの玉座が備え付けられている。
そこに座るのは1人の何か。角と翼と尻尾が生えていることから人ならざる存在だろうことはよく分かる。
赤黒い肌に隆起した筋肉。鋭い角に薄い翼。目は黒く縦に割れた瞳は赤。ゴツゴツの指先から伸びる爪は刀の如く長く、足の爪は耕運機の刃のように丸みを帯びていた。
「へ~、こんなところでリュウジン種に出会えるなんて面白いことがあるんだね」
「リュウジン?それって龍の人と書いて龍人?それとも神と書いて龍神?それとも見た目からして刃と書いて龍刃?」
「あぁそうか、火崎さんの世界では龍種は存在しないんだったね。あれは人と書いて龍人だよ。それと神格化した龍は人々から神龍って呼ばれてるんだ」
神龍の下りでニヤニヤとした表情を浮かべる幻龍に気付いた。そしてふと気付く。色は違うが、幻龍の瞳と龍人と呼ばれる種族の瞳の形が似ていることに。
「なぁ、幻龍、お前ってもしかして...」
「火崎さん、それ以上は終わってからにしてください」
「あ、はい」
幻龍のにこやかな表情に冷たい汗が流れる。その笑顔に見られているだけで心臓の当たりがギュッと握られているように苦しい。
「それでは火崎さん、頑張って龍人種を倒してきてください」
「はぁあ!?」
「さぁ、さぁ、遠慮なさらずに」
ニヤニヤが止まらない幻龍に背中をグイグイと押されて龍人の前に連れ出される。
「いや、いや、人が龍に勝てるわけないだろ!?」
「何言ってんですか?龍じゃなくて龍人ですよ?別に1人で倒せなんて言ってるんじゃないんですから頑張ってくださいよ」
幻龍に背中を押され、一定の距離に近付くと龍人は動き出した。
「だぁぁぁぁ!!チクショウ、殺ってやんよ」
右手を後ろに向け空気を掴むと放り投げる。放物線を描きながら炎の線が移動した。
炎の線が龍人の体に触れると、炎が膨張し爆炎が吹き荒れる。
瞬間5本の線が爆炎を切り裂くと、風圧が炎我の頬、肩、手甲、太股、足首を切り裂いた。
「ちぃ、痛てぇ!!」
怒りにまかせて手の中に荒れ狂う炎を解き放つ。
業火。
それは名が示すように目の前の敵を苦しめて殺すようなドロドロとした黒い色の混じる地獄の炎。
胸の中心部の魂が濁る。それと同時に炎我の髪の一部が黒く染まり、指のドクロが輝きを増した。
「おっと、いけねぇ。俺様としたことが冷静を欠いてしまった」
落ち着け俺。と一言呟くだけで、黒く染まりかけた髪の毛が元の明るい赤色に染まる。
「炎我、少し下がれ」
その言葉に従い下がると、炎我の立っていた位置に右斜め後方から鋭い水の槍が手元から解き放たれたように目の前を通りすぎていく。
しかし、水の槍は龍人の刀のような爪に切り裂かれる。
「おいおい、蒼流。威力足りねぇんじゃねぇの?」
「炎我こそ最速で傷を負ってビビってんじゃないだろうな?」
軽口を叩きながらもお互いに余裕のある表情を浮かべる。
炎我の手の中には生み出された炎が、蒼流の手に握られるのは蒼き龍の槍。
得意な戦闘スタイルをイメージした2人は迫り来る龍人に構えをとった。
炎我は掌の炎を握りしめるように拳をつくると、揺らめいていた炎を拳に纏う。
「先に行かせてもらうからな」
蒼流の言葉を待たず、迫り来る龍人に拳のみで立ち向かう。
炎我の燃える拳と龍人の刀のような鋭く長い爪がぶつかり合う。
拳を切り裂く。普通ならそんな感覚を味わっただろう強烈な切り裂きに炎我は火力を一瞬だけ底上げすることで爆発を起こし逆に龍人の手を払い除けた。
「あまり、1人で突っ走らないでほしいものだな」
蒼流は蒼き龍の槍を両手で回す、槍の回転数に合わせて刃から溢れる水の量が増えていく。
水が円を描く。その量は先の刃にのみ集めていた時よりも更に多く。
回していた槍を握る。刃先を龍人に向けて突きを放った。
水と水がぶつかり合う音を響かせながらも円は1本の線となる。その線は形を変え1匹の龍を象る。
水の龍は炎我によって体勢を崩した龍人の脇腹に鋭い水の牙を突き立てた。
龍人の脇腹から吹き出す灰。その灰を浴びた水の龍はまるで御馳走にありつけたかのように、龍人から漏れでる灰を貪り喰らう。
灰を喰らう水龍の水量は灰を喰らうごとに増していく。
灰。又の名を魔力と一部の人間に呼ばれている不思議物質は、死んだ人間の肉体を構成するのに不可欠なものであり、肉体の損傷部分を補うのにも必要なものであるのだが、イメージした器に流しこむことによって、武器の姿を形取ることもできるという優れもの。
そんな蒼流が放った水龍も見目は違うものの、イメージの器に魔力を流して構成されたもの。魔力で構成された存在は、こめられた魔力の量によって存在している時間が大きく変わる。そして、仕組みさえ知っていれば誰もが出来る方法。敵の魔力を喰らい続けることで、技の消滅までの時間を長らえさせるという裏技。
蒼流が行ったのはそういう領域の技であった。
水龍の鋭い牙が龍人の皮膚を突き破り、漏れた灰を貪る。
龍人の皮膚が再生したと思えば更に別のところを食い破る。そうして、外に漏れた魔力を取り込むことで、半永久的に敵を攻撃し続けることが可能となっている。
しかし、そんなうまい話が長く続くはずがなかった。
龍人は皮膚を突き破る牙を気にもせずに雄叫びをあげた。
震動。龍人の雄叫びを浴びて水龍の形が定まらなくなった。
破裂。水風船が割れるように水が周囲に散らばった。
しかし、龍人の雄叫びは止まらない。
大気がふるえ、地が裂ける。
地響き。地面の下から何かが近付いてきているのか揺れが少しずつ激しくなっていく。
龍人の足下にはマグマの朱とはまた違った紅が浮かび上がる。そして、地面を突き破って空に打ち上げられた弾丸はマグマを撒き散らしながら翼を広げた。
「~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」
咆哮。何とも表現しづらい爆音に全身を包まれ、まるで船の上にでもいるかのように全身が揺れる。
地中から現れた竜による音の攻撃に船酔いのような感覚の気持ち悪さが炎我を襲う。
「やべ、吐き気が...」
込み上がる吐き気を必死に抑えようとする前にキュッと引き締まり治まった。
原因としては竜の口回りに起因する。
竜の口回りから炎が漏れでたかと思えば、次の瞬間には眩しい光と共に炎が視界を埋め尽くしたのだから。
「炎は俺には効かね、ってうぉ!!」
炎我には確かに炎によってのダメージは微弱なものであった。しかし、竜の口から吐き出された息は暴風の如く勢いで炎我の体を吹き飛ばす。
後ろに控えていた風太と幻龍は、炎我という唯一の盾を失い炎に呑み込まれた。
「クソ、油断した。お前らは大丈夫か!?」
振り向けばそこにはプスプスと髪の毛が燃える風太と、ほとんど...というか無傷の状態に限り無く近い幻龍がいた。
「大丈夫...そうだな」
「俺は大丈夫じゃない」
プスプスと燃えていた火だねは、酸素を求めるように風太の全身に広がり、勢いを増していく。
炎を消すために風の鎧を纏い更に悪化する。その姿は火だるまの如く、現実なら最早生存は絶望的な状況だ。
「風太、少し冷たいかもだが、我慢しろよ」
蒼流の水球が風太の頭上に形成される。水球は風船をつついたかのように破裂し、風太に無害な水を浴びせて消火する。
「助かった、蒼流は誰かと違って役に立つ」
「そりゃどうも」
「つーか毒吐いてる暇あんなら少しは戦えよ」
炎を吐き終わった竜による突進を拳で迎え撃った炎我の拳にヒビが走る。傷口から漏れだす魔力が炎我から力を奪い去る。
しかし、炎我は笑う。カタカタと嗤う。
それは炎我から聞こえてくるものの炎我の口はニヤリと笑うのみ、実際に笑い、嗤うのは銀のドクロ。
「来たぜ、来たぜ、来たぜ!俺の炎に巻き込まれたく無ければ離れやがれ」
炎我の宣言と共に、ドクロの瞳が蒼炎を吹き出した。カタカタと震動する口の中では蒼炎が外に吐き出されるように燃え盛る。
ドクロの内部に溜め込まれた炎我の魔力が暴れ狂う。
暴発しそうな限界ギリギリの状況で、炎我は拳と拳を打ち鳴らした。
右と左にはめたドクロの指輪が共鳴し、内部に蓄積された炎我の魔力が鎖の形をとって放出される。鎖が炎我を縛るように包み込む。鎖によって、グルグル巻きに覆われた後の姿は、一種の卵のように見えなくもない。
そんな悪趣味な卵の殻を突き破って顕現したのは火崎炎我ではなく、人の形をした蒼炎の化物。一言で表すならそれは『悪』である。
燃え盛る極悪の面に消し炭となった服が隠していた要所を炎で覆う。
それは肉体という概念から解き放たれた蒼炎。
蒼炎となった化物はこの世界では不自然なことに、ある物が欠けていた。それは燃え盛る炎の中であっても、本来なら存在するべきもの。それは己の魂である楕円形の宝石。それが見当たらなかった。
極悪の面が笑みで歪む。
歪められた口から吐き出された熱が周囲を陽炎のごとく歪めていく。
蒼炎の姿ががぶれる。
竜の顔面に拳で殴られたような焦げ後が残る。
竜の牙が蒼炎を噛み砕く。
蒼炎は幻であったかのように炎を散らし、消えていく。
竜は首を傾げた。蒼炎のバケモノは見た目から強者の雰囲気を醸し出していたにも関わらず、その実、攻撃力があまりにも弱すぎたのだから。しかし、竜にとっても、口の中に噛み砕いたという感覚が一切なく、ただ、空気を噛んだとしか言い様のない虚しさだけが残るばかり。
そんな中、火崎炎我は舌打ちをしたい気分になっていた。内容としては
(こんな環境で生きていける生物が炎に弱いわけねぇじゃねぇか!)
である。
「火崎さん、火崎さん、息巻いて突撃したのは良いのですが倒せる見込あります?」
俺の炎にうんたらかんたら、巻き込まれたく無ければうんたらかんたら、とまるで火崎炎我のモノマネをしているのか、幻龍がキメ顔で台詞を叫ぶのが耳にはいり、更に舌打ちの後押しとなる。
「んだよ、人に任せといてそれか?」
「いやぁ~悪かったと思いますよ」
ニコニコ笑顔を幼顔に浮かべる幻龍。その態度は余裕からなのか、目の前の危機に嬉々として挑んでいた。
そんな、緊張感の欠片もない空間に火線が通る。
火炎に包まれた2人、しかし一瞬あとには幻龍の手によって、炎はふたてに裂かれた。
「ぬるいですね、火崎さんがあれを倒しきれないのは相性の問題でしょうか?それとも、水無月のサポートに回らずに独走したからでしょうか?」
幻龍の言葉の中に隠れるトゲが心に突き刺さる。
幻龍が言ってることは、すなわち何故あの場面で指輪の力を開放したのか?ということだ。
あそこで開放していなければ蒼流が離れることもなく戦えてたはずであり、サポートにさえ専念していれば竜に噛まれて魔力をゴッソリ削られるという悪手をとることも無かったのだから。
「火崎さん、良いですか?戦いというものは己の欲を満たす行為ではないのですよ、そこにあるのはただの生きるか死ぬかの殺し合い。確かに欲を満たすために他の生物を殺すのもいるでしょう。しかし、それには前提条件として殺す生物よりも己が強くなくてはならないのです。獲物の特徴もしらず、弱点さえも気付かない程度ではこの先命がいくつあっても足りないですよ?」
幻龍は笑う、そして、お手本ですよ?と言わんばかりに竜に向かって歩き始めた。
近付いてくる敵に竜は突進する。その質量からの突進であれば、小柄な幻龍を軽く挽き肉に変えることなど造作もないはずだった。しかし、そうはならない。幻龍にとって、竜の突進とは、片手で受けとめ、更には頭を掴み棍棒の如く持ち上げ地面に叩きつけることさえできたのだから。
叩きつけられた竜によって地面にヒビが走る。所々でマグマが吹き上がり、周辺を赤く染めるも幻龍はお構い無しに竜を持ち上げる。再び叩きつけようとしてふと気付いた。持ち上げた竜の頭は文字どおり頭だけとなっていたのだから。
胴体とお別れした頭を他所へ放り投げるとピクピクと痙攣しつつも再生を始めた胴体に蹴りを放った。
剥がれる鱗、凹む肉体。魔力を噴き出しながら転がっていく胴体。
圧倒していた。相性が良くも悪くもない炎我の攻撃さえも通さなかった鎧のような鱗さえも幻龍の一蹴りで剥がれ落ちる。
人の姿でやるからこそ感じる異常性。しかし、正体に感ずきはじめた炎我にとって、幻龍の内なる狂暴性は別の存在を主張する。
龍種。もしくはそれに通ずる何かである。
幻龍の瞳は竜にまたがっていた龍人の瞳とあまりにも似ていた。今思うと神龍なる神格化した龍の話をする幻龍はあまりにも誇らしげだった。
「あいつ、やっぱりそうなのか?」
炎我の言葉に反応を示すものはこの場にはいなかった。
いやはや、幻龍って大雅より強いんでね?とか思い始めた今日この頃。炎我はまぁ、鎖(枷)をはずしたら大雅とも良い勝負ができそうやな。...風太がいるから鏡達とは敵対しないだろうけど炎我達は4人全員が強いな。うん、今更気にしちゃ負けやな。
てなわけで次回は短めの話をやったら大雅を失った後の鏡視点でお送りいたします。やっと主人公が強くなりそうな予感。