第2の町-終-
第2の試練を無事に終了した。
第1の試練同様に現れた扉から外に出ると、物々しい雰囲気に緩みきった心を引き締める。
試練を攻略したことによって、町の中心から湖まで根を伸ばしていた巨大な大木が2の数字を刻んだ鍵に変わり大雅の右手に握られる。
一面更地になったことで、物々しい雰囲気を放つ存在が眼下に陰のように広がりだした。
その存在は闇。人の心が産み出した黒い感情の発露。
「闇を纏う人/感情を制御できない人」
呼び方は人それぞれだ。だがここではあえてこう言おう。
「闇人/ヤミト」と。
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「なんて数だ!」
そう叫びたくなるほどにワラワラと群がる闇人に舌打ちしたくなる。
現在鏡達は木の上にいる。そして、木の下。つまり、次の町に向かうのならば一度は下りなければいけないそんな場所に闇が広がっていた。
闇人は木に上らない。まるで下りてくる獲物を逃がさないように。木の上に上ったところで手薄になったところから逃げられないようにするかの如く。ジッと闇に染まっていない者達を地面から見上げている。
その視線には俺達1人1人に対して、それぞれの気持ちが込められてあった。
大雅に向けられるのは怒り。顔は違うが強姦魔に似た体格というだけの理不尽な理由での殺意にも似た怒り。
凛に向けられるのは嫉妬。自分達は見ず知らずの男達に心も体も汚されたのに、綺麗なままで便りになりそうなダンディな男とアイドルのようなイケメン男子と少年のようなカワイイ系男子に囲まれて守られていることに対しての嫉妬。
風花に向けられるのは欲望。その細い腰を持ち上げて下から突き上げたときに幼子独特の無邪気な顔がどんな風に歪むのかを下から眺めたいという歪んだ欲望。
晴輝に向けられるのは憤怒。アイドルのような綺麗な顔をタコ殴りにして不細工に歪めたいというモテない男達の憤怒。...しかし、女性側の反応というと不細工に無理矢理押し倒された過去を上書きするために押し倒して無茶苦茶にしてやる。そんな感じに欲望の眼光をギンギンに輝かしていた。
そして鏡に向けられるのは独占欲。少年少女と呼べる子供達が何者かの手によって第1の町から消えた現在。少年と呼べる存在には希少価値があった。
ここで話が戻るがそういう理由で風花に歪んだ欲望を抱く男達がいるのだ。
眼下の闇から遠慮無く向けられる視線の数々に体が震える。
殺意を諸に浴びせられているのだから人間よりも鋭い感覚を持つ大雅さんは獣化した状態で逆立った体毛が印象的だ。
凛さんは刀を何時でも抜けるように手を添えるだけで静かに立っている。
風花にいたっては、
「上ってこないよね?上ってこないよね?」
とガタガタと震えながら繰返し喋り続けている。
そして、鏡と晴輝は御姉様方の視線を浴びせられてぶわっと溢れてきた冷や汗が止まりそうにない。
晴輝は右手で冷や汗を拭う。
「重力がここだけ増したかのような圧力。大雅さん早くここから移動しましょう!」
「賛成です、私もここから去りたいです」
「わかった。だが、ここから離れて何処に行く?」
「「それは...」」
そこで言葉が途切れる。
闇人から逃げるためには木から下りなければならない。しかし、木から下りるということは下りている最中に妨害される恐れがあるということだ。
そして無事に下りられたとしても次の町まで逃げれるはずがない。絶対に闇人に付いてこられる。
闇人は地面から木の上を見上げるだけ。下りてくるのを待つだけだ。木の上なら安全である。今のところの話だが。
闇人がどれだけ待ってくれるかわからない。我慢の限界で大群が押し寄せてこないとも言い切れないのだから。
「ひとまずこの町の出口近くに行ってから考えよ?」
鏡の提案に試練のあった湖を見渡せる側から右に向かって移動を開始した。
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たどり着いたそこから地面を見下ろすと、目測で100メートル先まで闇人がいた。
その数凡そ50。
「俺が先陣を切る、3人はできるだけ立ち止まらずに着いてこい。凛は俺が討ち漏らした敵を任す」
1人当たり10人の数。しかし、大雅はそれを言わなかった。
「行くぞ!」
大雅は大木から飛び降りると雄叫びをあげた。
顔の横にあった耳が頭の天辺に生えたかと思えば、犬のような頭に変わり、ギザギザの牙が生える。
肉体は人間の頃よりも一回り筋肉が盛り上がり、手足が細長く伸びると指先からは鋭い爪が形成される。
全身の体毛が銀色に生え変わり、尾骨からふさふさの尻尾を生やした。
速度重視の戦闘特化型の狼男。それが大神大雅の真骨頂である。
着地すると同時に大雅は駆け出した。1人、2人、3人。近くにいた闇人を瞬く間に切り裂いた。
「風花は鏡を、私は晴輝を」
唐突に呟かれた凛の言葉に「え?」と反応した晴輝は次の瞬間凛に首根っこを捕まれて地面へとダイブしにいった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
急な行動に晴輝の叫び声が響き渡る。
「鏡さん、私たちも行きます?」
「そうだな」
晴輝の叫びを見下ろしていると、風花の声に反応して頷く。瞬間背中に体温を感じて後ろを振り向くと、背中にしがみつくように抱きつく風花がいた。
「鏡さん、風のクッションを作りますから飛び降りてください」
「え?あぁ、わかった」
ぴょんと軽い感じで木から飛び降りるとぎゅっと風花のしがみつく力が強くなる。
イメージを鮮明にするために集中している姿に小動物のような可愛らしさが伺える。
そんな事を考えている間に、ふわりとした柔らかい感触をおぼえた。落下の速度が緩やかになったことを確認すると、そのまま地面に足をつける。
「ありがとう、とりあえずこのまま走るからね」
大雅に言われた立ち止まらずに着いてこい。という言葉に風花を背中から下ろすこともせずに駆け出した。
凛とへとへとの晴輝はすでに大雅の近く。鏡も追い付けるように足を速める。
「え、え?えぇぇぇ!?」
突然背中から聞こえてくる叫び声に振り向くと町を埋め尽くす勢いでいた闇人が、集団で町の中から噴出されるような勢いで駆け出しているところだった。
木の上にいるのを見上げていたのだから地面に下りた獲物が次の町に到着する前に追いかけてくることは予想ができたはずだ。
何故風花は叫んだのかがわからない。あの中に特別目立つような者がいるのかはわからないが、パッと見では気付かないレベルだ。
風花がパニックを起こしているというわけでもない。背中にしがみつきながら、いつの日にか見た彩夏のように顔を真っ赤に染めている。
(風邪?でも風邪だと叫べないよな?)
恥ずかしがり屋なのかな?お年頃だし。と鏡はそう思うことにした。
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黒炎、黒雷、黒水、黒風、黒葉。
黒剣、黒拳、黒槍、黒矢、黒弾。
黒犬、黒猿、黒雉、黒狐、黒蛇。
次々に背後から迫る魔法と武器と召喚獣。
その全てが黒を基調色とした物であり、それ以外の色は存在しない。
魔法の命中率としては、この町に来る前の鏡の投擲の命中率同様にゼロに近い。しかしながら、少しずつ誤差を修正してきているのだから侮れない。
次に武器を構えている闇人だが、基本的に剣や拳で戦う奴等はその武器に纏わせた魔力を飛ばしてくる。そして闇人の中身があれだからなのか必殺と名付けられそうな大技ばかりを放ってきていた。必然的に損耗が激しい。少し耐えれば何とかなるだろう。
厄介なのが弓や銃を構える奴等だ。弾丸や矢を魔力で補っているのだから魔力切れを起こさない限り止むことがない。さっきから真横を通りすぎていく弾丸と頭上から降り注ぐ矢の雨が心臓に悪すぎる。
最後に召喚獣だが、術者の影響を受けているからなのか細部まで細かく描かれていない。フォルムを見たら何となくだが「これなんだろうな」と分かりはするものの「あの動物ってこんなんだっけ?」と首を傾げたくなる。
色以外は本物と少し構造が違うが、デキの良いぬいぐるみと思えば結構良い姿をしている。そんな感じだ。
そんな考察を走りながらしている内に、大雅が最後の1人を切り裂いた。
「お前らはそのまま真っ直ぐ走れ!」
「って、大雅さんはどうするんですか!?」
振り返って闇人溢れる町を睨み付けた大雅の横を通りすぎてから急ブレーキをかけてしまった鏡は叫んだ。
「決まってるだろ、奴等はあの町からこの町に来た。だったら次の町にも当然来る。そしたらまた逃げるのか?」
大雅の問い。それは否定のできない類いのものだ。でもだ、闇人の総数は万を越える。
魔法を放つ者、武器を構える者、獣を従える者。
回数が増えるごとに命中率や効率が良くなってきている。闇人は確実に成長しているのだ。第2の試練で特攻してきた奴等とは違って、元々人間である闇人は頭を使っているのだ。
そんな闇人集団にたった1人で勝てるはずがない。
例え5人でやったとしても勝ち目が見えない。
「追いかけてくる奴等をほっといて次の町に行ったとして、そんな状態で試練をできると思ってるのか?」
「だったら、俺も残って戦いますよ!」
「馬鹿野郎!!」
大雅の叫びに全身を振動が駆け抜けていった。
直接面と向かって言われたわけでは無い。それなのにその後ろ姿から伝えられた言葉に鏡の動きが鈍った。
「お前らはまだ弱い。だからこそ足手纏いを守りながらじゃ本気で戦えない」
その言葉に鏡は何も言えなくなった。
たしかに瞬間的な攻撃力なら鏡は大雅よりも威力の高い攻撃を発動させることができる。だが、それも2~3回程度。戦闘が長引いてしまえば判断を誤り、泥の鎧の砲弾で傷だらけになったように動けなくなってしまうとお荷物でしかなかった。
鏡は俯き、邪魔にならないように大雅に背中を向ける。向かう先は次の町。
「お前らはまだ弱い、だから強くなれ。強くなって俺を越えて見せろ。今はそれだけでいい」
大雅の最後になるかもしれない言葉に鏡の頬に一筋の涙が流れたような気がした。
-後書きという名の身近な人達からされた指摘-
注・この下に書かれている物は直接ストーリーに係わるような会話では御座いません。読まなくても大丈夫ですので暇だな~って人だけテキトーに斜め読みしてください。
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センパイ「最近思ったんだけどさ、この小説のジャンルってファンタジーであってんの?」
サキト「え?ファンタジーじゃないですか?...ですよね?」
コウハイ「サキトさん、センパイが言いたいのは多分ファンタジーなのにエルフとかドワーフはでないのか?とかの話だと思いますよ」
サキト「たしかに今のところエルフとドワーフは出てきてないけど、大雅さんは狼男だし...それに第3の町で活躍する予定の幻龍は◯人って設定で書くつもりだし」
センパイ「まぁ、たしかにエルフとドワーフは思ったけど世界観が異世界転生とか異世界召喚ってより冥界送りな気がしてな。それにファンタジーと思って読んだ読者が主人公の弱さにストレスマッハだろうしな、そして個人的にはパニックが読みたい。もっと、それらしい要素を悪意なり何なり取り入れろ」
コウハイ「そんなことっすか?まぁたしかになろうにはそういうのがTHE・ファンタジーって感じはするっすね」
サキト「でもなぁ、俺からしたらこの作品にエルフ(癒し)は無いだろって思うんですよ。エルフがいなくても癒し要員の風花がいますし」
コウハイ「ま、エルフを出す機会があればエルフじゃなく、エ◯フを登場させてくださいね」
サキト「それ15指定じゃ載せられんだろ」
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注・上記の会話は前フリでは御座いません。
エルフもしくはエ◯フは期待しないでください。