第2の試練-①-
晴輝が合流してから俺達は目的地へと移動を開始した。辿り着いたそこは不思議生物蔓延るジャングルだった。
「木の上にいたはずなのに足下に地面があるとか何なんですかね?」
「町の中と試練の中は次元が違うんだろ」
そんな会話をしながら周囲を見渡すと、つぶらな瞳とギザギザな歯をした丸っこい肉体に翼のような腕で地面を叩きながら走ってくる不思議生物が群れ単位で押し寄せてきた。
「あれって友好的な生物じゃないですよね」
「うん、あの目は僕達をエサだと思ってるよ...きっと」
そうこう言ってる内に近付いていた不思議生物にたいして、当たり前のようにバットをイメージしながら魔力を流し込む。
握られたバットを構え、鏡を補食しようと突進してきた生物に対して、鏡は躊躇う事なくフルスイングした。
「ホームラーン!!」
丸っこい体の生物は鏡のフルスイングに肉体をへこませながらも青空に向けて飛び立っていった。もちろん物理的な意味でだが。
「ふう、これで当面の危機は去った」
「やりすぎだと思うよ」
「やりすぎってのは俺じゃなくて大雅さんと凛さんに言うべき言葉だよ」
そういって指差した方向には、不思議生物の脳天に拳サイズの風穴を開けた大雅さんの姿があった。
そして、その隣では不思議生物を日本刀のような刀で、縦に横にと真っ二つに切り裂きながら群れに突撃していく凛さんがいた。
そして鏡は思った。
「それにさ、俺よりも晴輝の方がやりすぎだと思うんだ」
「え?何が?」
本人が気付いていないのかそれとも素なのか、不思議生物を片手で丸焼きにしながら突進を食い止めている晴輝にやりすぎだと言われたくない。
それにトラウマを克服したのは良いことだよ。でもね、全身を焼かれてなお必死に突進してくる不思議生物の頭部を鷲掴みにして、動きを封じた上で焼き殺すのは見ているこっちがトラウマになりそうだよ。
(悲鳴、聴こえないのかな?)
そんなことを思いながらも声には出さず、悲鳴が聴こえてこないように無心になって不思議生物の群れを減らしていった。
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・・・
・
少しだけ離れた位置で不思議生物と戦っていた大雅さんと凛さん。二人は残り少なくなってきた不思議生物にタイミング良く止めをさした。
そして、最後の一匹だろう不思議生物が鏡に向かって走ってきた。目の前にいる2人は鏡を信じて結末を眺めるだけだ。隣では晴輝の炎によって何匹目かの不思議生物が絶命した。
「ラストォーーー!!!」
鏡が叫びながら打ち上げた不思議生物は、頭の打ち所が悪かったのか空中でジタバタする事もなく、自由落下によって地面に落ちてきた。
そして、水風船が地面に落ちて割れるように、不思議生物の肉片が周囲に飛び散った。
「うわ、グロい!」
「ほら、鏡の方がやりすぎなんだよ」
ピクピクと動く不思議生物の残骸に「うわー...」と内心自分が起こした行為のはずなのに目の前の結果に引いてしまう。
少しの時間が過ぎればそんなグロテスクな光景も空に開けられた空間に吸い込まれていった。
・・・・・
・・・
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あの場所から更に奥へと進んでいくと目の前に奇妙な生物がいた。
犬のような顔に昆虫のような触覚。蟻のような胴体に背中には蝙蝠の羽があり、尾にはサソリのような鋭いトゲを持つそんな生物。
それはすでに不思議等ではなく奇妙な。としか浮かばない。そんな生物だ。
大きさとして小さくて腰辺り、大きくて首辺りだろうか?
自分の身長と比べるとそんな感じだ。
そして犬のような顔に気付いた時点で俺達は逃げておくべきだった。俺達が奇妙な生物を視界にとらえてから数秒。奇妙な生物もグリンと顔をこちらに向けてきた。
その数は蟻のように大軍であり、数えるのも馬鹿らしくなる。
そんな大軍のうち何万匹は空を飛び、何万匹は地面を走る。それは津波。見るものによっては気絶してしまいそうなトラウマレベルの津波だ。もちろん犬の顔を除いた昆虫の津波として見るのなら。
全員が即座に襲い来る津波に攻撃をする。晴輝が両手から炎を解き放ち、風花が風の刃を放つ。大雅さんは口に吸い込んだ酸素を魔力で固めて口砲を放ち、凛さんが攻撃網を掻い潜り近付いてきた生物を刀で切り裂いていく。
そして俺は狂魔がやっていたようにダガーを投擲する。いくら命中率に難があっても目の前には的が大量にあるのだ。外すはずがない。だから投げて投げて投げまくる。
ある生物には脳天に突き刺さり、ある生物には胴体に突き刺さり、ある生物には羽に突き刺さる。
何度も何度も投擲していればコツのようなものが掴めてくる物で、千回程繰り返す内にすべてのダガーを狙った部位に確実に突き刺すことができるようになってきた。
そして奇妙な生物が屍の山を築く頃には討伐数No.1は晴輝に決まった。炎で焼き尽くしてるんだから当たり前のような感じなんだけどね。
討伐数は競って無いから数なんて関係無いんだけど大雅さんや凛さんよりも多く倒した晴輝に圧倒的な大差で負けたのが悔しい。火炎放射してた晴輝にダガーをちまちま投げてた自分が勝てるとは思えないから気にしたら負けな気がするんだけどね。
そんな感じで晴輝にライバル心を燃やしながら更に奥へと進んでいく。




