第2の町-③-
「休憩時間を使ってだいぶましな顔になったじゃねぇか」
町の中心地点に辿り着くと嬉しそうな表情の大雅さんと普段通りの凛さんが待っていた。
「ところで、聞きますけど、もしかしてずっとここで待ってました?」
「はっはっは、そんな分けないだろ、人間苦手を克服するのにかかる時間は膨大だ。予定より速かったのは正直計算外だったがな」
「言っておきますけど、落ちるのが怖いのであって、高いところにいるのは平気だったんですよ」
「それでも早かったぞ?」
豪快に笑う大雅さんと正反対の無表情を浮かべる凛さん。
「ところで、待ってなかったのなら何で気付いたんです?」
「ん?前にも言っただろ?俺は鼻が効くって」
あぁ、確かにそんなことを聞いたことが有るような、無いような。
「一度覚えたニオイは遠く離れていても感じられるからな」
「大雅さんは犬か何かですか?」
微妙な表情を浮かべているであろう鏡の態度に大雅は「狼だが、何か?」と気にした様子はみせなかった。
「ところで、晴輝はまだですか?」
この場にいない、晴輝を探しながらキョロキョロと辺りを見渡していると。
「そのうち来るだろ」
と気長に待つような態度をとっていた。
「そういえば、大雅さんって正確な休憩時間を決めてましたっけ?」
鏡のそんな一言に一瞬だが大雅さんの額に汗が流れたような気がした。
「ほら、苦手の克服って時間かかるだろ?」
「それはさっき聞きました」
少しだけ慌てたような態度の大雅さんに鏡は更に問い詰めるように口を開いた。
「大雅さん、計算外って言ってましたけど、何時間の休憩の予定でした?」
「.....1週間」
え?1週間?1日の聞き間違いだよね?流石に1時間の聞き間違いは無いとしても、1週間は長すぎるのではないか?。
「1週間って長すぎじゃないですか?」
「そうか?苦手って一生治せない場合があるから、1週間程度じゃ短すぎると思ったんだが」
そう言われると妥当なのかもしれないと思いはしたが、それならそうと何週間後にここで会おうと一言言ってくれれば良かったのに、とそう思わずにはいられなかった。
「晴輝はいつ頃来ますかね?」
「鏡がそうだったように晴輝もその内来るだろ、それに晴輝の位置も把握してるからいざという時は迎えに行けばいいさ」
やはり大雅さんは、気長に待つようだ。
・・・・・
・・・
・
あれからどの位の時間が過ぎただろうか。
数分前まではボロボロになりながらもそんなことを考える程度には余裕のあった鏡ではあったが、数秒、数分過ぎるごとにその余裕も徐々に薄れつつあった。
「晴輝、速く助けに来てくれ」
晴輝に届けと強く念じるも無駄に終わるとその念じた内容さえも記憶の中から薄れていく。
気を抜けば死ぬ。そう感じてしまうほどに目の前の強者の力をビリビリと肌に感じていた。
「遅い!」
大雅さんが木から木へ止まる事なく移動を続け、鏡の死角から攻めてくる。それに反応することもできずに、獣のような爪を背中に諸に食らい、バランスを崩して太い枝から地面に落下していった。
地面まで後数秒。そんなギリギリの所で木と木を跳躍してきた凛さんに抱えられることによって、再び枝の上に到着。
「0勝5敗」
それだけを告げて、凛さんは離れていった。
「どうする?少し休憩するか?」
「いいえ、1勝するまで休めません」
「ほう、この俺に1勝か、これは楽しみだな」
そして、また修行とは言えないレベルの人死にが出そうな闘いが始まった。
・・・・・
・・・
・
それから更に数時間後。
ゼハゼハ息を切らしながら
(何故こんなことを始めたんだっけ?)
と頭の片隅に浮かんでくるようになってきた。
記憶を辿れば、そういえばこんなことから始まったなと思い出す。
始まりはいたってシンプルであり、大雅さんが平和にのんびりと過ごしていた。けれど、1時間たっても晴輝が帰ってこなかった。だから戻ってくるまで暇だからと体を動かそうって話しになり、色々な過程をすっ飛ばして今に至る。
え?話を飛ばしすぎだって?良いんだよはしょってしまってもさ。
誰にともなく開き直った態度をとった。
因みに現在の戦績は0勝36敗だ。
自分でも負けすぎだと思ってしまう。でも仕方ないじゃないか。大雅さんのスピードに慣れるまでに25敗もして、少しだけ目が慣れたかもと思った頃でも結局避けることも出来なくて、攻撃をバットで防いでも地面から壁を生やしても大雅さんの獣の腕で吹き飛ばされちゃうんだから。
何だろう?俺には何が足りないんだろう?
自分に足りないものを考える。結局その日は何も思い浮かばないままに時間が過ぎていき、晴輝が集合場所へとやって来た。
今回は大雅さんTUEEEの巻きでした。え?いつもの事だって?
はい。ということで修行パートでした。修行といえば体を動かすことも大事ですが、きちんと考えて自分の弱点や苦手を無くしていくことで俺TUEEEに入門できる気がしている作者です。
ですので鏡さんには足りないものを考えてもらってます。
そして、作者も文章を考えています。え?ハショってるだって?気のせいだよ...きっと。
まあ、それは捨て置き、次回第2の試練開始です。