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パンドラゲーム  作者: 香村 サキト
2/55

始まり

気がついた時には視界に写るものは全てが闇だった。そんな目の前に広がる無限の闇によって、自分が今どんな場所に立っているのか、座っているのか、寝転がっているのか、地面に足がついているのか、それとも、空中に浮いているのかさえもわからない。


耳を澄ませても何処からも音は聞こえてこない無音の世界。

周りには自分以外の生命を全く感じられない孤独な空間。


(ここは、何処だ?)


ボーとする頭で、周囲を見渡すがこの場所には闇以外には何も存在しなかった。


(私は誰だ?)


場所の特定が出来ない現状に、取り敢えず名前を忘れていないか心の中で問いかける。


(痛ッッッ!!!)


名前を思い出そうとしただけで、頭をバットで殴られたような痛みに襲われる。


(一之瀬鏡.....覚えてる)


ボソッと呟いた言葉は、痛みが引いてからすっと出た言葉だ。


(車に轢かれて死んだのか?)


徐々に鮮明になっていく意識のなかで、ここに来るまでに何が起こったのかを少しずつ思い出していく。


そんな中で、車に轢かれる瞬間のことを思いだそうとしたが、あまりにも強烈な印象を受けた出来事だったために忘れることもできずにすんなりと思い出してしまう。


(あの少年は何で赤信号なのに渡っていたんだ?それに、不意に見せたあの不気味な笑顔は何だったんだ?)


鏡は彩夏と歩きながら新たに始まる高校生活に向けて色々なことを話していた。

そんなリア充まっしぐらの鏡の人生を突如として終わらせたおばさんの悲鳴。

それを聞いたことで少年が車に轢かれてしまう瞬間を目の当たりにして、脳内で少年の死に近い物をイメージしてしまった。

それからの鏡は、まるで何かに体を操られたかのように足を1歩1歩と動かされ、少年の腕を掴み、安全地帯に投げることはできた。

そんなある意味命の恩人であるはずの鏡が車に轢かれる瞬間に少年が浮かべたのは不気味な笑顔だった。

それは年相応の笑顔ではなく、何か別の、言葉に現すことが困難な程に得たいのしれない不気味で不愉快で気持ち悪い思いになってしまうような笑顔だった。

あんな顔で笑う少年がどこの世界にいると言うのか。

現に鏡が助けた少年がそうだったのだから、世界のどこかには同じような歪んだ精神の少年はいるのだろう。

その笑顔が人の死を喜ぶ顔なのか、助けられたら勝ち、助からなかったら負けのゲーム感覚の顔なのかは鏡にはわからない。


それからも記憶を整理しながら、車に轢かれる前のことを徐々に思い出す。


少年に対して思うところもあるが、一旦忘れて更に記憶をたどっていくと、朝の不思議な出来事を思い出してきた。


(そういえば、朝の占いは何だったんだ?確かラッキーアイテムは赤い服だった気がするけど.....ということはつまり、赤い服を着ていたら制服が血で赤く染まることは無かった、のか?)


それは、砂嵐の後に始まった占い。


妹は確か「こんな時間に占いなんてやってたっけ?」的な感じのことを言っていたはず。


それが正しければ、あの占いこそが未来への分岐点であり、現在の謎の空間(あの世?)に閉じ込められる状態に至るまでに至った原因なのだろう。


それがまさか鏡に死という絶望的な状況になるという結果になるとは朝の占いからは何一つとして想像もしていなかったのだが。


色々と頭の中を整理していたら、我ながら可笑しな発想にたどり着いてしまったと苦笑してしまう。


(朝の占い1つで人が死ぬとか流石に無理があるだろ。だいたい占いの結果は自分の星座である◯◯座が12位だったからだ。世界中に◯◯座が何万人いると思ってんだよ。それにラッキーアイテムが赤い服って、そもそも誰が占い信じて着るんだよ)


考えて、考えて、考え付いた答えがどうしようもなく下らないことで


(何でこんなことを考えてるんだろう?あっそうか何もすることが無いからか)


という投げやりな感じになってきた。


過ぎたことをここまで後悔しても結果は何も変わらないのだ。仕方がないと思うと同時に「ハァ」と溜息が漏れてしまう。


もちろん鏡の溜息に誰かが反応するはずがない。慰めてくれる人もいない。そう思っていたところにその声はしっかりと鏡の耳に聞こえてきた。


「何をそんなに落ち込んでいるんだい?」


突如として、鏡以外に誰もいないはずの暗闇の世界を照らすような優しげな声が聞こえてきた。


「誰かいるのか!」


鏡は声を張り上げて、周りを見渡す。

右を向いても闇ばかり、左を向いても闇ばかり。


声の出所を探すが、暗闇のせいでどの方角にその人物がいるのか。そして、その声の正体は男なのか女なのかもその声だけでは判断できなかった。

幻聴か?と一瞬寂しさのあまりに脳がどっかで聞いたことのある声を再生してしまったのではと思ったが、次の瞬間にはこの声は鏡の幻聴ではなくなった。


「君の後ろだよ」


真後ろから声がした。


鏡は別に軍人でもなければ戦闘民族でも獣でもない、ただの高校生だ。それでも暗闇の何もない、強いて言えば、鏡しかいない空間で突然気配なく背後から声をかけられるのはビックリするし、額から冷や汗が流れそうになるのは普通の反応だろう。

そのままの勢いに任せて、声のした方を振り向いてしまったのも仕方のない事だ。


これがもし訓練された者達なら反応は違ったのだろうか?それとも鏡みたいにビックリして思わず振り返ってしまうのだろうか?普通の人間である鏡には答えがわからなかった。


鏡が振り向くと同時に何もなかった空間にボッと音をたてて、青い火の玉が暗闇を二列で照し始める。

照らす範囲はそれほど広いわけでもないが、暗闇に長い間いたことで火の玉の灯りが、暗闇に馴れかけていた鏡の目には眩しかった。


「うっ」と思わず目を閉じてしまう。


灯りに目を少しでも早く馴らすために薄く目蓋を開くと、火の玉から顔をそらすようにして俯く。

目の前に見える地面には、声をかけてきただろう人物の影がゆらりゆらりと火の玉が揺れるのに合わせて揺れ動く。


それから少しして、目が光に馴れた頃に目蓋を完全に開き顔をゆっくりと上げる。

目の前には見渡していた時にはなかったはずの椅子に声の主が座っていた。


それは正確に言うとすでに人ではなかった。

椅子に座る人物には皮膚が無ければ肉も無かったのだから。

それを何故人物と呼んだのか。それは等身大の全身骨格模型と言えばわかるだろうか?つまるところ目の前に座る元人間と思われる者は、長い年月をかけて白骨化していった骸骨だったのだ。


その骸骨はボロボロになってはいるが、元々は服だったのだろう布のような物を身に纏っている。

その布は所々にハッキリとした大穴が空いていたりして、かなりの範囲に裂けている。

それは既に手遅れだと思うが、縫い直す予定があるのかないのか。


豊かな現代に生きる若者の一人である鏡からしてみれば、目の前の骸骨の見た目には凄く違和感があった。

骸骨の背丈は鏡と同じかそれよりも少し小さく、纏う物に対して言うならば古いと言うよりはむしろ新しいといえるからだ。


「そんなに見つめられると照れるじゃないか」


そんな骸骨が顎を上下に動かしてどうやっているのかカラカラと無音の世界にはっきりと声と分かる音が響き渡る。

そんな音のような声で、耳元で聞いたような優しげな声が聞こえてきた。


「うわぁ!」

「何をそんなに驚いているんだい?」


骸骨は尻餅をついた鏡に、どこか楽しそうな表情を浮かべてカラカラと笑う。

その表情はまるで、幼い少年のような穢れなき笑顔。骨だけど。


「骸骨が喋っていたら誰だって驚くよ」


動く骸骨に驚き、尻餅をついたが流石に驚きすぎたか?と自分でもオーバーリアクションだったことを反省してゆっくりと立ち上がる。


「それはすまなかったね」


カラカラとわざとらしい笑いが暗闇に響く。

その声は何故か優しくて、それでいて何だか懐かしい感覚を覚えてしまう声だった。

聞いたことは無いであろう骸骨の声に、心が落ち着いていくという不思議な感覚に襲われながらも、目の前で自分に起こっていることを整理する。


よし、と覚悟を決めてから骸骨と話しをするまでにさほどの時間はかからなかった。


「聞きたいことがあるんですが良いですか?」

「良いですよ」


骸骨は頷いた。その頷きで骸骨の頭蓋骨が落ちそうになるが骸骨自身に不思議な力が働いているのか落ちそうで落ちないといった感じだ。


骸骨の頷きを見た鏡は、この暗闇の世界に来て最初に感じたことを、頭の中で整理したことの中で一番重要なことを目の前の存在に聞いて確かめることにした。


「やっぱりここは死後の世界なんですよね。もしそうなら天国か地獄のどっちなんですか?」


この質問は一番重要なことだ。

死んだかどうかはいまさら気にすることはないが、天国か地獄かでこれからの鏡の生活が決まるのだ。


生きていた時に良いことも悪いことも特別にしたわけでもない。あえて言うならば悪いことかは分からないが、女の子のスカートをめくる悪戯を小さい頃にしていたくらいだが.....こんな理由で地獄に落とされたら死んでも死にきれねぇー、って既に死んでるけど。


脳内で色々と考えていると骸骨が口を開く。


「その説明をするためにここに来たんですよ」


骸骨はカラカラと笑いながらも人差し指を上に向けて1の形を作ると説明を始める。


「1つ目の死後の世界については半分正解で半分不正解だと答えておきます」


途端に空気が重くなる。骸骨のカラカラと鳴るような笑いが止みどこか真面目な雰囲気が漂い始めた。


(車に轢かれてこの場所に来たけど、もしかして意識が朦朧としているだけで実際にはまだ生と死の狭間を漂っているのか?運が良ければ生き返れるってことがあるのか?)


人間はいつか必ず死ぬ。それがいつなんどき起こるのかは分からない。だからこそ若くして死んだという現状に鏡は諦めていた。

だが希望に近い答えがそこにあれば、希望を抱かずにはいられなくなってしまう。


「僕はまだ生きているのですか?」

「残念だけど今は生きているというよりは死んでいるに近いね」


(今は死んでいる?近い?どう言うことだ?)


言葉の意味を理解しようと考えていると、鏡が答えに辿り着く前に骸骨は答えを話し始める。


「生き返るかは君次第なんですよ」

「生き返るかが自分次第なんですか?」


「自分次第で生き返る」言葉にすると簡単のように聞こえるものの全くもって意味がわからない。

首を傾げる鏡に対して、骸骨が小さく頷いた。


「そうです、ここに来た者には試練を受けてもらい、生き返るのかどうかを決めるのです。1人でやるのもよし、大勢でやるのもよし。試練を全て攻略することができれば、君は元の世界に戻ることができるでしょう。ですが、君の魂が完全に壊れてしまった場合に限り現実には二度と戻れなくなります。もちろん試練を諦めて現実の肉体が腐るのをこの世界で待つのも選択の1つです」


骸骨はまたカラカラと笑いながら


「肉体が腐ってもここでの存在が消えるわけではありませんので」


と付け足した。


さっきまでの重かった空気は無くなり、緊張感は無くなった。


「最後の天国か?地獄か?にはどちらでもないと答えておきましょう」

「どっちでもないのですか?」

「これは私が答えなくてもこの世界に来た者は必ず自分自身の答えを見つけますからね」


(自分自身で答えを見つけられるのなら無理に聞かなくても良いか。それにしても現実の肉体が腐るまでに全ての試練を攻略すれば帰れるって何のゲームだよ)


鏡は頭の中で盛大にツッコミをいれる。


学生である鏡にとって、人間の体が腐るまでの正確な時間なんて知らないことは置いておく。


(この世界が天国なら試練は何だろうか?全く想像出来ないが、心の悪を祓う物だろうか?でも心に悪を持っている人間が天国に行けるものなのだろうか?

もしもこの世界が地獄なら針山を裸足で歩くとか血の海を泳ぐとか沸騰した湯に浸けられるとかだろうか?閻魔様に舌を引っこ抜かれるとかは流石に無いよな?)


元の世界で伝えられている地獄を想像してしまい恐怖でぶるっと震えてしまう。


「試練って具体的にどのような物なんです?」

「君はゲームをする前に攻略本を見るタイプですか?」


呆れたような声で言われてしまった。

この様子だと自分の目で実際に見るか、他にいるであろう人に情報を聞いて集めないといけないようだ。


色々と不安を拭えない所で、骸骨は思い出したように話しを続ける。


「そうそう最後に伝え忘れていたことがありました」

「試練について教えてくれるのですね?」

「そんなことより自分の胸の中心を見て下さい」


(そんなことですか)


色々と思うところはあるが、今は言われた通りに自分の胸の中心を見るために、着ていた学ランを脱いで中に着ていたシャツを脱ぐ。


乳頭と乳頭を繋ぐ線の中心。そこに楕円形の白い宝石みたいな綺麗な石が埋まっていた。


「これはなんですか?」


恐る恐るといった表情で自分の胸に埋まっている石をツンツンとつついてみたり、ナデナデと擦ってみたりして触ってみる。これが何なのかはついに分からなかった。


「あんまり弄らない方が良いですよ」

「この宝石みたいなのは何ですか?」

「君の世界の言葉で言うのなら魂ですかね」

「魂?」


骸骨の言葉に宝石に触れていた手を止める。


「そうですよ、その宝石が君の魂であり、この世界に存在し続けるための命。つまり心臓でもあります。そしてこの世界では使い方によっては強力な武器にもなります。その宝石が誰かの手によって2度壊された場合君の存在は消滅します。1度目は肉体を維持できなくなり、2度目は存在を維持できなくなります。つまり死ぬ事になりますね。もちろん壊れないように細心の注意をしていれば大丈夫ですよ」


「ほら、何でもないでしょう?」って感じにカラカラと笑う骸骨。


「そういう重要なことは真っ先に言ってほしかったよ!」


鏡は怒りを含んだ声で、骸骨に向かって叫ぶ。


危なかった。意外と綺麗な宝石だけど胸に埋まっていて正直気持ち悪かったから取り除こうとしたが、まさか自分の魂だったのか。取らなくて良かった。


「ほっ」と一安心したことで骸骨の少し前の言葉を思い出す。


(もしかして魂が壊れるってこれが壊されたらゲームオーバーって事なのか?もしも一発でこの魂が壊されたりでもしたら死ぬとかどんな鬼畜ゲーだよ!)


そこでさらに思い出したように気になる単語が脳裏に浮かび骸骨に訪ねる。


「武器になるってどういうことですか?」

「君は妄想は好きかい?」

「もっ妄想ッて」


真面目な問いかけのつもりなのに、骸骨がこれまた真面目な表情(?)で妄想という単語を口にする。

聞き間違いか?と思ったがあまりの不意打ちに一瞬脳裏にピンク色の想像を浮かべたのを隠そうとして口ごもる。


「君、今卑猥なこと考えてたでしょ?」

「考えてねぇよ!」

「全力で否定することは肯定することと同義だよ?」


やれやれ、って感じで骸骨は鏡を見る。


「あぁもう分かりましたよ、武器と妄想が好きかにはどのような繋がりがあるんですか!」

「何をそんなに睨んで、まぁ良いや」


骸骨は何かを諦めたような表情(?)をして、この世界での力の使い方についての説明を始めた。


-数十分後-


骸骨に聞かされた内容を簡単にまとめてみると、妄想(イメージ)という容器に魔力という水を流すような感じらしい。


現代風に例えると溶かしたチョコを型に流して固めるようなことを想像すれば良いのだろう。

そんな感じでイメージするだけで、様々な武器を作ることが出きるということらしい。


それだけのことなのだがやはり何事にも例外というものが存在する。それは一言で言うと才能である。


妄想なら頭を柔らかくして考えれば誰にでもできることだが、魔力量は努力ではどうすることも出来ないのだ。


この世界では魔力と妄想(イメージ)の両方が強ければ強いほど思い描いたものが完璧に再現される。

そのため、現実ではあり得ないような、SF映画とかで見るフィクションの存在であった超火力兵器も実現できるのは確実だ。


逆に妄想も出来ないような頭の堅い者が、魔力だけを持ってたとしても宝の持ち腐れになる可能性だってあるのだ。


更に付け足すと魔力とイメージの両方が強ければ数秒で妄想したものを作ることができるが、逆に魔力とイメージが弱すぎると妄想したものを作るのに数分はかかる。


これに偏りのある場合だと、魔力があってもイメージが弱ければ武器を作れず、強いイメージがあっても魔力が弱ければ武器の形を保てないと言うことだ。


これから先のことは誰にだって当てはまることだが、自分の妄想で作る物だからこそ敵を欺くことができるのだ。

それはつまり、既存の形であったとしても、その機能は全くの別物の可能性だってあるのだ。


極端な例えで言うと、刀だと思っていたものがスナイパーライフルであったり、アサルトライフルだと思っていたものがトンファーであったり、鉛筆と思っていたものが実はロケットランチャーであったりと兎に角予測不可能な妄想をする者だっている可能性があるのだ。


「大事なことも伝えることができたしそろそろお別れの時間だよ」

「お別れって言われてもここにはその試練関係の建物が1つも見えないのですが?」

「それなら大丈夫だよ」


骸骨が右手でパチンと鳴らした途端に骸骨の目の前の空間が揺らめいた。

それは鏡の後ろ側であり、歪んだ空間に発生したのは1つの黒塗りの扉。


「そこから外に出られるからね」

「他に説明し忘れてることとか流石にないですよね?」


最終確認をする。

この骸骨はどこか抜けている気がするからだ。

骨になった段階で脳をどこかに置いていったのかも知れないが、そのことはこれ以上考えないことにした


「もう何もないよ。あるとしたら、その扉は両手で押さないと開かないくらいかな?」


骸骨は右手の人差し指を扉に向けると、両手を使って扉を押すようなジェスチャーをする。


「見れば分かりますよ」


鏡は呟き、後ろにある扉に向きをかえる。


その扉は、大勢の人間を固めて作ったような、恐竜の化石のように人骨が扉のあちこちにデザインなのか本物の骨なのかはわからないが不気味な扉だった。


(ここは死者の世界かもしれないんだ。こういうのがあっても不思議じゃないよな。そうだ、うん、そうだよな)


鏡は頭の中でそう思うことにした。


扉に手を当て、力を込める。次の瞬間扉の大きさに似合う重量が負荷として両腕両肩にかかる。

最初は重く感じた扉も次第に重さを無くし、暗闇だった空間にはゴォゴォゴォッという人骨の化石型扉が地面を削りながら押し開けられる音が響く。


スムーズとはいかないがゆっくりと開かれるそんな中で、鏡は子供の頃にやっていたRPG系のゲームのBGMを自然と脳内で再生していた。


子供を助けてこの世界に来たことには今更後悔しても遅いが、元の世界には幼馴染みという心残りがある。


生き返るチャンスを与えられたからには、精一杯頑張るつもりだが、まさか自分のような人種が物語のような不思議な世界に足を踏み入れることになるとは思いもしなかった。


鏡は苦笑しながらもワクワクを隠すつもりは一切なく、扉が開かれ見えてくるであろう景色を思い浮かべながら、両手にこめる力を徐々に増していく。


隙間から射し込む眩しい光に目を瞑る。


(死者の国はどんな所なんだろう?)


(試練はどんなことをするのかな?)


(信頼できる仲間はできるのかな?)


鏡は考える。


もし、無事に帰ることができたら、こういう体験を好きそうな友達に話してみるのも悪くないかもしれない。


男友達に話している光景を想像し、楽しそうな自然な笑みを浮かべながら、光の中に消えていった。

始まりはいつだってチュートリアル。

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