第2の町-①-
第2の町に辿り着いた。
そこは、鬱蒼と生い茂る森であった。しかし目の前のそれは森であっても森だけではなく、町であった。木の上ではあるが一階建ての建物が広々と建てられていたからである。そして、横に伸びた太い枝が道となり別の木の上にある建物まで行けるようになっていた。
「とりあえず木の上に登りはしたものの、二度と地面に下りられない気がする」
「鏡さん大丈夫ですよ、いざというときは私の風で下まで運びますから」
「そうだぞ鏡、お前の身長程度なら抱えて飛び降りることも簡単にできるぞ」
木の上の町から地面を見下ろすと、その高さに恐怖し、身体が萎縮する。普段通りに動かない身体。そんな状態で横に伸びた枝を歩いたらどうなるだろうか?そんな風に歩いている自身の姿を頭の中に思い浮かべると、歩いている最中に足が滑って落ちるんじゃないか。そういう不安が脳裏をよぎり怖くて一歩も動けなくなる。
そんな状態の鏡を励ますように風花が風で運ぶと言い、大雅が肩に担ぐような動作をした。
「大雅さん、風花ちゃん。ありがとう」
でもそれは、最終手段として残しておこう。女の子に頼るのはもちろんのこと、おじさんに抱えられるのは何だかすごく恥ずかしい。
「ところで、大雅さん。これからどうするんですか?」
「ん?今から自由行動だが?」
話題転換に行動方針を聞くも、自由行動が当たり前だと思っていたのか大雅さんが質問に首を傾げながらも答えた。
「自由行動ですか?」
「あぁ、どうせ試練に向かったところで、今のお前を見ていると何も出来そうにないからな、それに、あの町と違って敵対するような奴はこの辺にはいなそうだ。まぁ、木の上を歩く事に慣れるまでの休憩時間と思え」
そう言うが早く、「集合場所は中心の一際大きな木の近く」と言い残して大雅は走り去って言った。そして、追いかけるように凛さんも。
大雅さんの何もできないという言葉が胸に突き刺さる。でも、仕方ないじゃないか。高いところはそこまで怖いわけじゃない。けど、それは前提条件として安全でなくてはならない。柵やガラスが無ければ地面に一直線の森の中で普段通りに過ごせというのがそもそも間違っているのだ。
「晴輝はどうすんの?」
「鏡には悪いが知的好奇心を刺激されてな、ちょっと建物を見て回るよ」
裏切り者ぉー!、と心の中で泣き叫ぶも晴輝は高さにはそれほど恐怖しないようだ。そのまま背中を向けて手をヒラヒラ振りながら視界から消えていった。
「風花ちゃんはどうするの?」
「私ですか?もちろん鏡さんと一緒にいますよ」
「あ、ありがとう」
残ってくれるのは嬉しいのだけれど、そんなにベッタリとくっついていないと落ち着かないのかな?
怖い思いをしたのは始まりの町の雰囲気と風花の顔色でわかるのだけれども、兄に似ているからといって知り合ったばっかりの男にここまでくっついているのは女の子としてダメだと思うんだ。いつか止めさせないと。
でも、その前に木の上で安全に過ごせるようにしないといけないな。そのためには落ちても良いように空中での移動方々もとい飛べるようにしなきゃ。
あのとき探すのを諦めてしまった空を翔る馬を見逃したのがここで痛手になるとは思いもよらなかった。
「ところで、風花ちゃんはどうやって空を飛んでたの?」
「それはですね、足に風を纏わせてるんですよ」
つまり、足下に風を発生させることによって、上昇する風が風花ちゃんを持ち上げて飛んでいるのか?それなら、飛ぶときのスカート着用の禁止をしなければ色々と大変なことになりそうだ。
鏡は、べたべたとくっつく風花を眺めながら心配そうな視線を未来の光景に向けていた。
・・・・・
・・・
・
「気を取り直して、イメージするか」
足元で見えない風を回す。そんなイメージ。頭の中に浮かんだイメージの器に魔力を流し、発動。
瞬間訪れるのは無重力のような軽くなった身体がフワッと浮くような、エレベーターで上層から下層に移動するような感覚。
つまり落下だ。
足元には木がちゃんとあるのだが、イメージでつくられた風が枝を切り落としてしまったようだ。
(ハハハ、終わった。この高さだと流石に助からないだろ)
近付く地面に涙目になりながら、二度目の死が近付いてくる。
木が地面に落下し、激しい音を森の中に響かせた。訪れた落下は、木を砕き、あれの上に乗っていたらと想像するとゾッとする。
そして、鏡の死は遠退いた。理由は簡単だ。風花を背負っていたからだ。
ベタベタと甘えるように抱きついていた風花に命を救われた。本来なら止めさせるべきなんだろうが、助けられた手前無下に扱うのも失礼である。
足元にある風のクッションの感触を楽しみながら上昇し、建物のあるエリアにまで到着した。
「助かったよありがとう」
「これで、木から下りるときも安心して私に頼れますよね」
キラキラした笑顔で役に立った?役に立った?と尻尾があったらぶんぶんと振られていただろう風花を眺めながらのそうだなと頭を撫でる。
・・・・・
・・・
・
「鏡さん、鏡さん。片足上げてさっきのをもう一度やってみてください」
撫でられたのがそんなに嬉しかったのかキラキラした目で見つめてくる風花に、右足だけ上げて風を回すイメージを浮かべると、そこに魔力を流しこむ。
右足を中心に回りだした魔力は暴力的に回転数を増していく。
そんな風をしゃがんだ姿勢で見つめる風花は風の中に何かを見つけたのか呟いた。
「ガラスの破片?ですかね。それが風の中に混じっています」
そんな呟きに目を細めて右足を見ると、ガラスの破片の他に鏡のように周目の景色を反射する欠片を見つけた。
(そういえば鏡の作り方を単純に言ってしまえば、ガラスの片面に銀を薄く塗ることで、金属の光る性質を利用することだったような)
自分の名前である鏡の由来を調べている最中にネットで見つけた鏡の作り方を眺めていたのを思い出した鏡は、ガラスの破片ではなく鏡の破片だとあたりをつける。
「それにしても破片で枝が切れるとか」
「それをいうなら、ガラスの破片で人は死にますよ」
うーん、確かに探偵物や刑事物のドラマでザックリ刺されて何てものは良くあることではあるが、木と人の固さは違うだろう?
そこでふと思い付く。飛べないなら蹴れば良いのでは?と。両足に纏ったとしても片足で纏ったにしても飛ぶ気配すら感じられないのなら武器にしてしまおう。ということである。
思い付いたら即実行。近場の木(適当)に蹴りを入れてみた。ガリガリと削れていく木。
それを見た鏡は思った。
「人を蹴るのを躊躇われる光景だな」
ドリルで削ったかのようにぽっかりと空いた丸い穴を覗いて、出来立てホヤホヤの技を封印することにした。だって、人に向けて放った後を想像しただけでグロいじゃん。
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・・・
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「空を飛べない、木から落ちたらどうしよう」
はぁ、と溜め息混じりに呟くと予想外の台詞が風花ちゃんからもたらされた。
「人はそもそも飛べませんよ?」
はっ!と今更ながらに思い出した。 いやでも仕方ないじゃん。風花ちゃんは風で空を飛べるし、大雅さんは身体能力でジャンプ力が100メートルを越えるし、凛さんは壁を走れるし、木を忍者のようにスタタタっと登れるし。
「そうか、俺は人間だったのか」
なんでだろう。当たり前なのに周りにできる人達がいると悲しくなるこれは何なのだろう。.....羨ましい。
「それに、気にしなくても大丈夫ですよ。私が鏡さんと(末永く)一緒に行動していれば、良いだけなんですから」
キッパリと言ってくれる風花に
(この娘本当に年下?というか、俺より男前じゃないですか)
と遠い目を遥か彼方にそびえる大木に向けるのであった。
-後書きという名の作者の愚痴-
注意
人によっては、共感できる出来事かも知れませんが、それでも人の愚痴を聞いて、共感出来そうにない人やただ単にうぜぇと思ってしまう読者様にはいい思いになりませんので飛ばしてください。
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イベントも無事に終わり、後片付けで一人の怪我人(脚立から落っこちた)が出たものの何事もなく.....。うん、ナニもなかった。
帰りに現地(日本)の某本屋をカーナビで発見したので、先輩&後輩と立ち寄ることにした。
自動ドアを潜り、涼しい風を全身に浴びながら足早に本棚を見歩いて早数分。そしたら地元には置いていなかった某作者の某漫画が本棚に並んでいたので一冊の漫画を手に取って近くにいた先輩に話しかけた。
サ「これ探してたんだよね」
先「なら、ネットで注文すりゃ良いじゃん」
サ「ふっ、書店で買うからいいんだろ」
先「そういうもんか?」
と先輩は興味の無さそうな態度で某人気少年コミックを数冊手に取っ手いた。
先「そろそろレジ行ってくるわ、とりあえず1時間後に出発するから後輩にも伝えといて」
サ「了解」
先輩はそのままレジへ直行していった。
サ「とりま、この作者の全8巻買うか」
8冊という大量の本を手に取り、レジに向かおうとしたその時。作者の視界にある文字が入り込んできた。
【コミック・文庫同時購入でお得】
【5冊でポイント5倍。10冊でポイント10倍】
サ「これは後2冊買いだな」
そして、8冊の本を抱えたまま残りの2冊を探し、そういえば、とアニメ化が決まった某コミック2冊を8冊の上に積み上げてレジに急行。
お客は少なく、自分の順番がすぐに来た。カウンターに漫画を載せるとピッピッとバーコードを店員さんが読み込んだ。
店「こちら10点で5500円となります」
鞄から財布を取りだし、ポイントカードを先に手渡すとすぐさまスライドされて返される。現金で5500円丁度で払うと、先にレシートを手渡され、店員さんは漫画を包装しているビニールを破り出した。
そして、ここまでは何気ない日常だった。
そして、この後に事件は起こった。
包装を破いて積み上げられたコミックは全部で8冊に差し掛かった頃。
9冊目を積み上げた瞬間ぐらりと傾いた9冊の漫画はそのまま重力に引かれ地面に落下してしまった。
折れまがる表紙、慌てた店員に踏まれた漫画、そして、何事も無かったかのように積み直されて袋にいれられた10冊のコミック。
最後の一冊は無事だったものの、表紙の曲がった4冊の漫画と店員に踏まれた1冊の漫画。「今すぐお取り替えいたします」という言葉もなく。
店「大変、申し訳ございませんでした」という一言のみ。
そして
店「ありがとうございましたぁ」
と、あんまりな店員の対応に固まっていた自分の後ろに、並んでいた他のお客およそ2人がいたために店を後にすることになった。
そして、車に戻ると
先「後輩には伝えたか?」
サ「忘れてました、今すぐ伝えてきます」
車内に漫画を残して再び店内へ。
後輩を探していると本棚には何処にも見つからず、CD,DVDレンタルコーナーに向かうも後輩は見つからず、最後に探してない所はもう1つしか無いとアダルトコーナーを潜り中に入るとそこには物色する後輩の姿があった。
サ「そろそろ、帰るぞ」
後「わぁー、ビックリした。そんなに怒ってどうしたんですか?」
サ「あぁ、すまん、ちょっと店員の対応にイラついてたのをお前にあたってしまった」
後「そうですか、それは仕方ないですね」
AV片手に笑う後輩。その光景に苦笑した。
その後後輩は某雑誌を買うためにレジに向かい、レジで後輩を待つ間後輩の後ろで待っていると。
店「お客様こちらのレジが空きました」
サ「あ、コイツを待ってるので大丈夫ですよ」
店「あぁ、そうでしたか」
ペコリとお辞儀した店員を眺めて俺は思ってしまった。
お客様の購入した漫画を落として折りまげてしまったことや漫画を踏みつけてしまったことを忘れたのか、そもそもお客の顔をいちいち覚えていないのか、せめて失敗したときはお客の顔を覚えて何かしらの対応をしろよ。と内心で毒づいた。
その後先輩の待つ車に戻って地元に帰った。
・・・・・
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【後書きのコーナー】
イベントも終わり、ストレスから解放されたのに一冊550円の新品の漫画を5冊も台無しにされて本屋の店員に軽く殺意を覚えた作者です。
せめて、店員のミスなのだから「取り替えます」の一言があれば良かったのに.....やっぱり新品取扱店では、店員のミスでも取り替えって無理なのかな?
一冊の本を万引きされて潰れたって本屋があるくらいだし。そこんところどうなんでしょうか?
そもそもの話し10冊まとめ買いのイベントしてるんだから店員さんも10冊積み上げても崩れないように特訓しとけやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!(# ゜Д゜)
取り合えず表紙が折れ曲がった4冊は適当なコミックを重りのように積み上げて何とかさわり心地が悪いけどましな状態にはなりました。そして、表紙に足跡のようなものが付いている一冊だけ中のページが破れていたので先輩の言葉にしたがってその本だけネットで新品を注文しました。
p.s.
新品の漫画を、それも同じ巻を再び買うことになるとか作者の人生で思いもよらなかったよ。