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パンドラゲーム  作者: 香村 サキト
14/55

風花の兄探し

風花と書いて「ふうか」と読みます。

「もう、我慢ならねぇ」


ピンクの髪を乱雑に伸ばしている大柄の男が両手を広げ、襲ってくる姿はある意味恐怖を感じてしまう。


怖さのあまり、脳内変換で森の熊さんにしたら少しは和らぐのかもしれないが、そう考えるとのほほんとした空気になり、足が止まるとまた、別の意味で怖くなる。


「ひぃぃぃぃぃぃっ!!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


全速力で逃げだす銀色の髪の少女は、なりふり構う程の余裕もなく、大声で助けを求めていた。


逃げれば逃げるほど人通りの少ない道に追い込まれているのだが、パニックになっているために気付かない。


「お嬢様ちゃん、一発。そう一発で良いからヤらせろよ」

「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!!!」


欲望の眼差しに寒気を感じながらも叫ぶ少女は逃げ惑う。


何でこんなことになったんだろう?と涙目になりながら数時間前の出来事を少女は思い出していた。


-数時間前-


「おにぃーちゃーん、風太おにいちゃーん!!」


独りぼっちの少女。風切風花は兄を探していた。


この世界に連れてこられる前、最後に兄を見たのは、台風直撃する荒れた海で、サーフボードで波に乗っている姿だった。


・・・・・

・・・


「おにぃちゃん、スゴーイ」


荒波すらも乗りこなす兄は、いつもより楽しそうにキラキラと笑っていた。私は波に乗る兄の姿を見るのが好きだった。でも、今日の荒れた波に乗る兄の姿はいつもより輝いて見えた。


わざわざ強風吹き付ける危険な世界に足を踏み入れたかいがあったものだ。


でも強風というものは色々な危険な物を運んでしまうの。


サーフィンを楽しんでいた兄の後頭部には近所のサーフィン仲間の小倉さんのサーフボードが、堤防で兄を見ていた私には屋根から解き放たれた瓦が。


それぞれが頭に致命傷となる傷をおい、強風の中助けを求めることも、助けが来ることもなく。


2人は誰かが気付く事もなくその命を失ったのであった。


・・・・・

・・・


(うぅ、台風の中外に出て死ぬ人は死神様に呼ばれているのよ、っていう言い伝えを無視しなければ良かった。けど、お兄ちゃんのカッコいい姿が見れたから良いかな)


ぽわわんとした温かい表情を浮かべる。


そんな表情を浮かべていた風花に近付いてくる人物がいた。


「君だよね、向こうで君を呼んでいる人がいたよ」

「ほ、本当ですか?」


その人は濃いピンクの髪を短く切り揃えており、服装は白のTシャツに黒のジーパン。

そして、魂を守るように2つの巨大な爆弾をぶら下げていた。


「うん、コッチ、コッチ」


私の手を引っぱりながら鼻歌を歌う女性。


無理やり引っ張られてちょっと手が痛い。けど、もうすぐお兄ちゃんに会えるんだと思うと私の足も速くなる。


女性に引っ張られて道を右に左に曲がって奥に奥にと進んでいく。


「1名様追加でーす」


そうして連れてこられた場所には数十名の仲睦まじい男女がいた。それだけならまだ良かったのだろう。しかしだ、目の前にいる男女は上半身裸だったり、下半身を露出していたり、衣服を一切纏っていなかったりと目のやり場に困る。


「な、何でしゅかこれ」


視界を埋め尽くす情報に口が上手く動かせない。


「え?何って私言ったじゃない。君みたいな可愛い女の子を呼んでいた人達よ?」


こんなの聞いてない。


「お、まだ幼いが中々可愛いじゃん」

「おいおい、大丈夫か?処女膜も再生するからといってこんなチビッ子が耐えられるのか?」

「皆がヤらないなら俺が貰うぞ?」

「かーわーいーいー、ねぇねぇお姉さんと良いことしない?」


目の前の光景に頭の中の情報を整理する。


ぐるぐると回り続ける情報が許容範囲を越えているためにぐるぐると目を回してショート寸前になる。


駄目だ、早くここから逃げないと。


私は回れ右して走り出した。後ろをチラリと見ると上半身裸の男が追いかけてくる。


怖い。怖い。怖い。


そして、冒頭に戻る。


・・・・・

・・・


走っても走っても男から逃げ切れることが出来ないでいた。やはり、身長の差は大きくでるもので、足の長さで男の一歩と風花の一歩が明らかに違ったのだから。


逃げ切れない現状に風花はパニックになりそうな心を必死に抑え込む。なんせ捕まったが最後。何をされるのか分からない鬼ごっこを強制的に参加させられたのだから無理もない。


(ふぇぇぇーん、お兄ちゃん、助けてぇよぉ)


涙声で祈るように何処にいるかもわからないお兄ちゃんに助けを求めるが祈りが叶う事もなく、風花はひたすら必死に走り続けることしかできなかった。


「待てぇ、待てぇ、待てぇ」


デュフフと笑う男の視線に背中に鳥肌が立つ。


(何で、何で、何でなの!?私が何をしたというの)


逃げて、逃げて、逃げ続ける最中に曲がり角を曲がると似たような境遇の少年少女がいた。2人を助けようとしたのか1人の青年が5人の黒髪の男にボコボコに殴られ蹴られ、折れて潰れて、抉られ千切られ、悲鳴も叫ぶこともできずに涙を流しながら髪の色を黒く変色していった。


「お兄ちゃんをいじめないでよ!」

「兄ちゃんをいじめんな!」


泣き叫ぶ少女と少女の肩を抑えて前に立つ少年。


「うるせぇ!」


立ち上がった少年の腹に蹴りを入れて黙らせる黒髪の男。


そんな光景に後ろを一瞬だけ振り返って「ごめん」と呟いて少年少女から離れるように風花は別の曲がり角に体の向きを変えた。


涙が溢れそうになり目を瞑りながら走っていたせいで、目の前の何かにぶつかってしまった。


「キャッ」


尻餅をついて、目を開けると目の前には闇が広がっていた。


その闇はただ尻餅を付いた風花を闇の中にある二つの瞳で見下ろすだけ。


後ろからピンク色の髪の男が追い付いてきたけど、風花は後ろを振り向くことができなかった。目の前の闇に見下されているだけで足が震え、歯もガチガチと鳴り響き、筋肉が痙攣しているかのように動けなくなっていたのだから。


「クッヒヒヒ、やっと逃げるのを諦めたか」


背後に迫る厭らしい笑みを浮かべているであろうピンク色の髪をした男には一切の視線を向けれなかった。


それほどまでに目の前の闇が怖いのだ。


「いっただっきぃまぁーす」


ピンク髪の男の手が風花の肩を掴んで勢い良く胸元まで引き寄せた。


肌と肌が密着したことで私が震えていることを感じ取ったピンク髪の男もついに私の視線を辿って目の前の闇に気付いてしまった。


「あぁん!!てめぇ、何者だぁ?俺様の楽しみを邪魔するたぁいい度胸じゃねぇか」


ピンク髪の男が闇に吠える。その目は不良同士でするようなメンチ切りだ。


「てめぇ、シカトしてんじゃねぇぞ」

「ハエの分際で五月蝿いなぁ。少しは黙っててくれないかなぁ」


闇が口を開いた。耳に聞こえてくるのは、若い男の声。


「ハエだぁ?」


楽しみの邪魔をされ、見ず知らずの男にハエ呼ばわりされたピンク髪の男は、元から沸点の低い容量が限界を突き破り殺意を表した。


「闇で姿を隠すヤドカリみてぇな野郎にだけは言われたくねぇよ」


脳みそをフル回転して考えた例えで反撃を試みるピンク髪の男。


「何だ、そんな事か。人の姿じゃないと怖くてガクブル震えちゃうんだったら最初から言ったら良かったのに」


目の前の闇が霧散していく。闇が晴れ、姿を表したのは黒髪の青年だった。


闇が無くなったからこそ分かるその威圧感。その冷たい眼差しで見下されているだけで、まるで見えない蛇に全身を締め付けられているような圧迫感で身体中が悲鳴をあげる。


逃げなきゃ


でも体は言うことを聞かない。


逃げなきゃ


黒髪の青年が一歩を踏み出した。


逃げなきゃ


青年が目の前に迫る。


逃げな.....え?


青年が真横を通りすぎていく。バクンバクンと恐怖で高鳴る心臓の音を止めながら背後を振り返る。

黒髪の青年は、風花の背後にいたピンク髪の男と対峙していた。


「死ねやぁゴラァ!!」


先に動き出したのはピンク髪の男。その拳が青年の顔に迫る。青年は動かない。


「がぁっ!」


拳が青年の顔に触れたと思ったその時。痛みに叫んだのはピンク髪の男だった。


何が起こったのか地面にしなだれている風花には分からなかった。確かにピンク髪の男の拳が黒髪の青年の顔を殴ったはずなのだ。それなのに傷付いたのはピンク髪の男の拳だった。その拳が、刃物で切り裂かれたような、硝子を拳で殴って出来たような傷ができていた。


「てめぇ、何をした」

「あぁ?んなこと敵に聞くのかぁ?ふざけるのも大概にしろよ」


黒髪の青年の冷たい眼差しがよりいっそう冷たく鋭さを増していく。


ザクッ


その瞬間ピンク髪の男の脇腹に黒色の刃物が突き刺さっていた。


「!?!?!?!?」

「何が起こったのか分からないって表情だなぁ」


ザシュ


ピンク髪の男の右足の脛に切り傷を付けた。


「おぃおぃ、まだ2本目だぜぇ?そんな死にそうな顔をするんじゃねぇよぉ」


ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュザクッ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザクッ


連続で突き刺さる黒色の刃物がピンク髪の男の体を浮かせる。


「終わりといこうか」


建物の壁に貼り付けにされた男に黒髪の青年の近くをふよふよと浮かんでいたダガーのような刃物がピタリと止まり、魂目掛けて直進していった。


パリィーン


硝子の割れるような音を響かして壁に貼り付けにされた男の体が灰となり崩れていく。


黒髪の青年はピンク髪の男にたいしての興味を失い振り返る。その瞳が私を見ていた。


近付いてくる。その手には黒色のダガーが握られている。


目の前で立ち止まり、見下ろしてくる。


「やぁ、大丈夫だったかい?」

「えっ、あっ、はい」


不気味な笑顔と優しげな声で一瞬何を言われたのか分からなかった風花。


「男に追いかけられて怖かったよね?」

「怖かったです」


貴方の方がもっと怖いだなんて言えない。


「なら、その恐怖を晴らしてあげよう」


瞬間黒髪の男の右手がぶれる。魂を両断するべく振るわれた右手は風を切り裂いた。


「そんな芸当ができるのなら、あんな男からはすぐに逃げられただろうに」


少女の座っていた場所から風が上空に向かって吹いていた。青年はそれを見て笑っていた。

黒髪の青年のイメージ力がレベルアップしました。

・・

やべぇ、鏡さんのライバル候補がTUEEEEEです。勝てねぇです。

早く何とかせねば.....てなわけで次回は主人公視点を1話いれてからヒロイン視点を書きたいと思います。


それにしても自由(法の無い世界)とは物騒な世界ですな。

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