狂魔の爪痕
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男は重い足取りで人通りの少ない道を歩いていた。その視線は即席カップルに向けられている。
(あぁ、見ていてイライラする)
男は歯軋りしながらカップルを睨み付ける。
睨まれたカップルは男に気付いていないのか夢中でお互いを求めあっている。
(俺様が死にそうな思いで試練をやってきたと言うのに、人通りが多い所では平和に笑いあい、かといって、人通りの少ない道に入るとコイツらのように欲望に忠実になりやがる)
ストレスと嫉妬によって、元の色が何色だったのかわからない程に、徐々にその髪の色を黒く染めていく。
(まずはコイツらの幸せを恐怖に彩ってやろうか)
男は試練で出会ってしまった理不尽を思い出す。
あれの見た目は青年だった。だが、中身は殺人鬼。
闇のように暗い黒髪と闇のなかで光輝く赤い瞳。そいつはダガー1本で数多の人を笑いながら切り裂いた。
青年は言っていた。「この世界に元の世界のルールを適用するな」と。
男は自然と顔に笑みを浮かべていた。それは、口が裂けたかのような三日月の形をしている。
青年に殺されかけたのに、青年の生き方にたいして羨ましいと思ってしまった。
「気に食わないから殺す」
生前住んでいた国では、殴られたり、蹴られたり、水溜まりに顔を押さえつけられたり、カッターナイフで腹を切られても、仕返しで人1人殺してしまえば裁かれた。
だが、この世界では何人殺しても裁かれない。それどころかこの世界では何をやっても法によって裁かれることはない。
この世界にいるものはすでに向こうで死んでいるのだから。
やり過ぎてそのお仲間から仕返しがくるかもしれないがそれすらも力でどうにかすれば良いのだ。
男の全身に根っ子のように伸びていく黒い刺青と全身から漏れでる黒い魔力を抑えることもせずに解き放つ。
何の捻りもない暴力のイメージで作り出した破壊のエネルギーを拳に絡ませる。
男は姿勢を低くし、溜めに溜めたその脚力を解き放った。
その速度は視認できるものの、唇と唇を重ねることに夢中になっているカップルには反応することも、気付くことすらできなかった。
ドス黒い男の拳がいちゃついていた男の頭に狙いを定める。黒い線を引きながら駆ける男の一撃は、防がれることもなく、一撃にてカップルの片割れの男の頭を粉砕した。
「きゃぁぁぁぁーー!!!」
急な出来事に人通りの少ない通路に悲鳴が上がる。
(良い、良いよその表情)
ケタケタと笑うドス黒い男の標的が頭を粉砕された男から悲鳴をあげる女へと切り替わる。
ガクガクと腰を抜かしたのか近付いてくる恐怖から逃げられない。
ドス黒い男の拳が恐怖で引きつる女の顔面を右、左、右、左とサンドバッグを殴るように終わることなく繰り返し殴られる。
ドス黒い男は、女に恐怖を植え付けるためか、男の頭を粉砕した時よりも力を抑え、いたぶることを楽しそうな表情で繰り返し殴り続ける。
それから、数秒続いた連打は、カップルの片割れである男の頭が再生し、女を置き去りに逃げていったことで終わった。
「まっ、待ってよ」
殴られている女を見捨てて逃げていく男に、殴られていた女は手を伸ばす。
「バァーカ!誰が今日知り合ったばっかの女を命をかけて助けるかってんだ!」
「そん、な」
男に見捨てられたことによって、絶望したような表情を女は浮かべた。その髪の色が徐々に桜色から黒色に塗りつぶされていく。
女の表情が変わる。
「絶対にお前を殺してやる」
殴ってきたドス黒い男にではなく、逃げていった男に対して女は叫んだ。
「だったら今すぐ殺せばいい」
ドス黒い男は三日月のような笑みを浮かべながら女の耳元で囁いた。
黒い男は邪魔にならないように女から1歩離れる。
女は立ち上がり、逃げる男を追いかけた。
その手は怒りに燃える黒い炎。逃げる男の足を狙い、炎の玉を飛ばして右足を焼き付くす。
「ひぃやぁぁ、痛い痛い痛い、何だよ何なんだよ、俺が悪かったって、すまん!この通り謝るから許してぇ」
足を焼かれ倒れた男は、痛みと恐怖に声が震えているが、女に許しを求めている。
コツコツと歩いていた女は、男を見下ろす位置にまで近付いてきた。
「え?だったら最初から置いていかないでよ」
いつの間にかに女の右手に包丁サイズの刃物が握られている。
「ひぃぃっっ!!悪かったって、まじで反省してる。もう一生お前を1人で置いていかないからそんなもん向けるんの止めてぇ」
「ダ・メ」
ハートマークが付きそうな甘い声を出しながら女は再生している途中の足を切りつけた。
「ひぐっ!!痛い、ぃだい!だぁい!」
「私を置いていくような足はいらないよね?」
女は微笑む。両足を失ってなお逃げようとする男に更に女は微笑む。
「地面を這いずってでも私から逃げようとする手なんていらないよね?」
「がぁっ!?」
叩き付けられた刃物が右腕を地面に縫い付ける。
男の腕は再生しては刺さった刃に触れ、再生しては刃に触れるという永遠に続く激痛のサイクルが完成していた。
「初めてだったんですよ」
「なぁ、にぃ、がぁ?」
見下ろしながら女は頬を染める。
「男の人に声をかけられたことがですよ。それに、耳元で愛を囁かれたのも初めてだったんですよ?」
女はくねくねと腰をくねりながら恍惚の表情を浮かべている。
「私は貴方に一目惚れをしたのですよ?それなのに貴方は私を見捨ててお逃げになるものだから私は怒っているのですよ?」
再び右手に握られた包丁サイズの刃物が男の背中をザクザクと突き刺していく。
「簡単に逝けると思わないでくださいね?」
女はふふふと微笑みながらザクザクと背中を突き刺していく。
男はすでに叫ぶ気力も無くなっているのか「うっ」とか「がはっ」とかしか反応が無くなっている。
傷付いた所から再生を始める肉体。しかしそれが男を逆に苦しめていた。
「もう、無理だ。俺には堪えられないよ」
男は今にも消え入りそうなか細い声で弱音を吐いた。その瞬間心が折れたのか傷つけられていないはずの魂にヒビがはしった。
「あら?消えるのですか?」
サラサラと灰になり、風に流され消える男に女は悲しそうな視線を向けていた。
あんれぇ?黒髪の男が途中から空気になったどぉ?
どしてだ?どして少数派のナンパ男の話を書いただ?
こんままだと裏路地に向かったお姉さんと子供の話も書かなきゃいけんど?.....まぁ、書きませんけどね。
さて、悪ふざけもそこそこにして、今回の話しが何だったのかという話をしたいと思います。
これは簡単にいってしまえば、鏡さんの本能が告げていた
「意識を手離せば楽になれる」をナンパ男に実演して貰ったということです。
魂が肉体を象っているので、ナンパ男のように心が折れたらボロボロと砂のお城のように崩れていくのです。