第1の試練-④-
鏡さんが弱すぎて現実では5回は死ぬダメージを受けます。
痛々しい描写はオブラートに包みまくって簡単に書きました。
それでも苦手な方はお気をつけ下さい。
扉は開かれた。
目の前に広がるのは全体的に暗い部屋。
その部屋の広さは学校の体育館程度。
そんな部屋の中心には黒装束を着こんだ人型が8体。その奥には椅子に座った偉そうな人型が1体と左右に黒装束を着こんだ人型が2体いた。
椅子の左右にいる2体の内1体は男性型。もう1体は女性型だ。
40名弱の生き残りが暗い部屋の中に入ると扉が自動で閉まる。
そして、第1の試練、最終戦が始まった。
-ボス戦-
8体の黒装束の人型が動き出すと同時に炎の精霊が弾丸の如くスピードで飛び出した。
その起動上にいた人型の内5体は避けることに成功したが、3体が避けきれずになすすべなく焼き付くされる。
呆気なく3体を倒してみせた炎の精霊。遅れながらもゴーレムが戦闘に参加し、釣られるように数名の若者が戦闘に参加しに駆けていく。
「なぁ、晴輝さんや、俺らここにいる意味無くないか?」
「うん、僕もそう思い始めた頃だよ」
タイミングを逃したせいか、すでに1対1または3対1で黒装束の数を減らしにかかっている。
8体の黒装束の強さは下の階層にいたのと同じなのかもしくは少しだけ強いといったところだ。以外と苦戦せずに見たこともない能力者によって、破壊されていく。
「死ねぇやぁー!」
「スクラップじゃぁー!」
「ぶっころっしゃー!」
士気が高まっているからか、興奮しているからか、近寄りがたい気配が漏れている。
「遠くで眺めてても大丈夫そうだな」
怖い人には近付くな。当たり前だよね?.....狂魔は怖くなかったのかって?怖かったに決まってるでしょ?
誰と話しているのか不明だが、そんな会話をしている内に8体の無惨な姿の人型が地面に転がっていた。
ある人型は、表面が焼かれ溶けている。
ある人型は、手足を引き千切られて動かない。
ある人型は、心臓を貫かれて光を失った。
8体が停止すると同時に、2体の黒装束が椅子に座る人型の側から離れ、侵入者の排除に動き始めた。
瞬き一瞬。黒装束の男が目の前から消えていた。
少し前まで2体いたはずなのに、目の前には黒装束の女しか目に見えない。
他にも変わったことと言えば、血の気の多い人達も魂を残して消えていた。
「何が起こった?」
炎の精霊とゴーレム以外が一瞬で消えた光景に。何が起こったのかわからない。よくよく見るとゴーレムには無数の切り傷が付けられている。それがいつ付けられたかはわからない。
「ちょっとヤバそうだな、俺は赤いのと硬いのを助けにいく。凛には消えた男の位置の特定と2人の事を任せる。2人も何かに気付いたら報せてくれ」
そう言って大雅は凛という護衛を残し駆け出した。
体の一部。手足が獣のように細くも逞しい四肢となり、腕や足を覆うように銀色の毛並みが伸びていく。肉食獣を彷彿させる瞳に鋭い爪。牙は生えていないがその姿は獣だ。
俺達は駆けていく大雅さんの後ろ姿を見続けた。それは、炎の精霊とゴーレムに合流するまで続いた。
その後俺と晴輝は凛さんと共に消えた男を探す。
炎の精霊の炎の剣と黒装束の女の忍者刀が激しくぶつかり合い、ゴーレムはその場で見えない黒装束の男によって傷が増えていく。
大雅も参戦しているが男の姿をとらえることはできない。
(どこだ、どこにいる?)
周囲を見渡すも敵の姿を見つけることができない。
(目で見えないなら考えろ、何故最初の攻撃で若者たちが死んだ?そして、傷だらけのゴーレムは何故生きている?それに近くにいた炎の精霊だけが無傷なのは何でだ?)
思考をフル回転しながら目の前の光景を脳内に叩き込む。
暗い部屋。消えた黒装束の男。燃える炎の精霊。それと戦う黒装束の女。傷だらけのゴーレム。そして乱入した大雅。
その時視界に蠢く存在を認識した。
それは地面を蠢きながらたまに上に飛び上がりゴーレムを傷つける。
(影?)
地面を素早く移動しながらゴーレムの巨体を傷付ける影がいた。その影は炎の精霊の照らす範囲にだけは入れないのか影のある場所のみを移動していた。
「大雅さん!敵は影のなかだ!」
鏡の声に足元を見渡す大雅。敵の姿をとらえたのか爪を一閃。しかし地面に爪跡が刻まれただけで、影には一切のダメージが入っていなかった。
それも当たり前なのかもしれない。ノーマルタイプの攻撃がゴーストタイプに当たらないくらい当たり前のことなのかもしれない。
「ちぃ!」
大雅の腕に螺旋を描きながら絡み付く影。腕に数多の傷を量産していくことから、それが魂を壊してしまうのも時間の問題だろう。
大雅さんを助けたいが自分に出来るのはバットを出すことくらいだ。
今一番頼りになりそうな炎の精霊は黒装束の女に身動きを完全に抑えられているので期待はできない。
ピンチの大雅さんを助けに行かないことから、凛さんの攻撃では影にダメージを与える手段が無いのだろうと判断した方が良いだろう。
同様に晴輝の刀でも影を斬ることは不可能とみる。
斯くなる上は炎の精霊を抑える黒装束の女を先に何とかしなければならないと言うことだ。しかしだ、黒装束の女を抑えると言うことは、一瞬であれども炎の精霊の放つ炎の中に飛び込むと言うことだ。
熱いではなく確実に燃える。魂さえ溶けなければ元に戻るとはいえ、あまり自分から傷付く行為はしたくない。
しかしだ、炎の精霊から全く離れない黒装束の女の注意をこちらに向けるためなら、そのくらいのことはしなければならない。
「凛さん、黒装束の女を抑えようと思うのですが可能ですか?」
「可能」
たったの一言だが返ってきた。だが今はその一言を聞きたかった。
「晴輝、俺は今から炎の精霊の援護に行く、無理にとは言わないが一緒に戦ってくれるか?」
晴輝は無言で頷いた。その視線は炎を見ていた。炎のことで何かが合ったのだろうことを思い出して少しだけ後悔した。
だが時間がなかった。内心気掛かりなことがあるが、それを口にしては実現しそうな気がして声に出すのも躊躇われる。
だからこそ、少しでも早く黒装飾を倒す必要があった。
「精霊さん、ここは俺達に任せて向こうの援護に向かってください」
精霊は目だけを動かして影に捕らえられている大雅の姿を確認した。
「わかったよ、そのかわり絶対に死ぬなよ」
炎の精霊は黒装束の女を爆風で吹き飛ばすとすぐさま大雅の元に駆け出した。
炎の精霊が近付いたことによって、大雅を拘束する影が人型に戻る。
それと同時に、鏡の内心にあった一つの可能性が目の前で起こっていた。
「そうだよな、黒装束の男ができて、女ができないとか有り得ないよな」
目の前で黒装束の女は影に沈む。
激痛。まるで、手足を刃物で解体されているかのような激痛。
そのまま意識を手離せば楽になれると鏡の本能が悪魔の囁きのように聞こえてくる。
何でこんな激痛を大雅さんは声も出さずに堪えることが出来たのか不思議である。
「ひぐぅっ!!」
(いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ)
お腹を裂かれた。
「グがぁぁぁぁぁっ!!!」
(痛い、痛い、痛い)
腕を厚切りにスライスされた。
「あ、あ、ぁ、ぁ」
(何も、見えない)
目をほじくられた。
「ひぐっ」
(く、苦しい)
ドロリとした物が口から流れ込んでくる。
『俺様の中に入ってくんじゃねぇよ!!!』
激しい吐き気に内部を破壊する激痛に頭の中に幻聴まで聞こえてきた。
バチンと弾けたような音がすると同時に影が消耗した状態で体の中から出てきた。
「大丈夫?」
「いゃぁ、最悪な気分だよ」
けほ、けほと咳き込みながら目の前の不安定な形になった影を睨む。
頭はフラフラするし、足は痺れたように動かないし最悪すぎる。
影は鏡を危険だと判断したのか、無視して晴輝に襲いかかった。凛さんがそれを止めようと日本刀を一瞬で作り出すと腰を沈め、抜刀術で一閃。
ズルリと半分に裂かれた影はそのままの勢いで晴輝の体に纏わり付いて蝕み始めた。
「あぁアァあぁアァあぁ!!!!」
悲鳴。自分も体験した激痛に晴輝も曝された。
ボッ。と晴輝を中心に炎が燃え盛る。
晴輝の発動した能力によって、密着していた影が消滅する。
「って、おい、おい、おい!俺達まで消し炭にするきかよ!」
晴輝から距離を取りながらも皮膚が黒ずみ崩壊する。傷だらけの体は再生するたびにチリチリと焼かれていく。
ドンと背中に何かがぶつかる。
「な、行き止まりかよ」
やばい、やばい、やばい。電子レンジに閉じ込められたレベルでやばい。
「晴輝、敵はもういない!早く炎を止めてくれ!!」
部屋一面に炎が広がっていく。すでに椅子に座っていた人型は勿論の事。炎の精霊と大雅が戦っていた黒装束の男までもが晴輝の炎によって消し炭にされていた。
「おい、おい、おい。これってまじでピンチなんじゃないの?」
鏡は晴輝が動いていないのに広がり続ける炎から、逃げ場を失い嘆くのであった。
次回で第1の試練は終了です。改稿前を読んでくれた方には幻聴の存在が誰なのかバレバレなのが何とも言えない作者です。
それと第2の町に行くまで数話ありますのでその時にでも主人公を強くできたらと思うのですが不可能ですよね?人間そう簡単に強くなれませんから。