LILY
僕には愛しい彼女がいる。彼女は花が好きらしい。
記念日や誕生日に「欲しいものは?」と聞けば、必ず「お花!」と満面の笑みと共に返してくる。
僕には花の良さなどさっぱりなんだがね。彼女と同じーー、いや、何でもない。
彼女も記念日や僕の誕生日には花をくれる。ひとつ前の記念日はなんだったかな。
ーあぁ、ヒマワリだった。
「ユリはただ一人、目の前にいる人を愛しています」
なんて僕に渡す花に静かにキスをしてから渡してくるものだから、可愛らしくて仕方ない。
「ユリのことどのくらい好き?」
「そうだな。溺愛してるかな」
「溺れてるの?死んじゃうよー」
「ユリが助けてくれるだろ?」
「ユリに溺れたらもう帰っては来れないよ」
どこか嬉しそうに、その反面どこか切なそうにも見える笑顔で話す彼女。
「ユリはどのくらい僕のこと好き?」
「んー…呪って殺したいくらい好き!」
「何だそれ」
笑ってみせる僕。彼女も笑っている。目の他は。
「ユリ。明日、記念日じゃん?何が欲しい?」
返ってくる答えは分かっているのに問いかける。
「うーん。黒い百合の花がいいな。お部屋いっぱいに!」
珍しく花の種類と色を指定してきた。
彼女に花を選ぶ時間は嫌いじゃなかったが、指定されたのだからそれをプレゼントしてあげよう。
「そしてユリんちに泊まって?」
「あぁ、いいよ」
黒い百合の花なんて買う人はほとんどいないらしい。花屋で大量に買う僕を物珍しい顔で店員が見ていた。
黒い百合の花を抱えて、彼女の家へ向かう。
すれ違う人に不審な目で見られても、彼女の喜ぶ顔が見れるのなら何の恥ずかしさも感じない。
彼女の喜ぶ姿を見ているのが一番好きだ。
「ねぇ、いつまで一緒にいてくれる?」
寝る間際の突然の彼女の質問に驚く僕。
「あ、やっぱり何でもない!変な質問しちゃったね」
罪のない笑みで僕を見てくる彼女。
「これからずっと一緒だもんね。記念日おめでとう!そして、今までありがとう。これからもよろしくね」
「おやすみ」とあいさつと静かにキスを交わして僕らは黒い百合の花に囲まれて眠りについた―――永遠の。
――彼女は、ユリはもちろん女の子だ。そして僕も女の子。同じ性別。
女の子なのに僕が彼女を好きにさせたこと。それを彼女は愛しいと感じつつも憎くて悔しくて僕を呪いたかったらしい。
憎悪を抱きつつも離れたくなかった、永遠にこの関係が続けばいいと願っていたらしい。
ユリに溺れたら帰っては来れない。