破壊の後
「うわー、思ったより集まっちゃったよ。」
瓦礫の影から様子を伺うマーヤは兵士の群れを見て
うんざりしたように言った。
「これじゃ近づけないわね。」
「作戦どおりじゃないんかの?」
そう言ってマーヤの胸のポケットから
頭を出したのはレモンほどの大きさのイオスケだった。
「リョージと合流してからと思ってたんだけど
あの中にいるんでしょ?」
「中というか地下にの、ちなみに最後の結界石は真ん中あたりじゃの。」
マーヤの視線の先には
兵士に取り囲まれた
女王の塔がそびえたつ。
この城で一番高い塔だ。
都合の悪いことに
地上からの出入り口は無い。
羽無しは通常入れないので
専用通路もつかえなかった。
「それにしても、派手にやったもんじゃのう。」
「ありがとう、お褒めの言葉と取らせていただくわね。」
イオスケから受け取った
どんぐり型爆弾は
マーヤの働きで最大限の戦果を上げていた。
女王の塔を除く4つの塔は
ほとんど崩れかけて傾いていたし
その他の建物も壁に穴があいて
無残な姿を晒していた。
だけど困ったわ
結界石があるから壁は女王の力で守られていて
どんぐり爆弾じゃ傷一つつけられないだろうし。
封印石が中にあるんだから
なんとかして入り込まないと壊せないわよね。
上までよじ登るにしたって
あの兵士たちをなんとかしなきゃいけないし。
ありったけのどんぐり爆弾で
無理やり壊したとしても
リョージが生き埋めになっちゃうかもしれない。
こんな時リョージがいれば楽なのに・・・
「ところでお嬢ちゃん、なぜいつまでもここに留まっておるのかね?」
「中に入れないからに決まってるじゃない、見てわかんないの?」
「すまんのう、ワシは見てのとおりお嬢ちゃんとは体も頭もつくりが違うでのう
覚えるのは得意なんじゃが、考えるのが苦手なんじゃ。」
「そうなの?気を悪くしたなら謝るわ、そんなつもりで言ったんじゃないの、ごめんなさい。」
「いやいや、気にしてはおらんよ。考えるのは苦手なだけで考えられない訳ではないからの。
それに知っていることを教えるのはさほど難しいことでは無いからの。」
「それどういうこと?」
「中に入る方法を知っているんじゃよ。どうやってリョージに会ったか言わなかったかの?」
僕は子供のころウサギを飼っていた。
普通のウサギじゃなくて大きく育たないミニウサギ。
お祭りの縁日で買ったその子は
すくすくと育って小型の犬くらいになった。
とても凶暴な奴で最後まで僕に懐かなかった。
いま僕の鼻の頭に乗っているこいつも
それに負けないほど凶暴そうだった。
「うわーーーっ!うおーーーっ!」
僕はのどが枯れるほど絶叫を繰り返す。
最初は大声を出せば逃げていたのに
僕が動けないのがばれたみたいだ
今はずうずうしく僕を覗き込んでいる。
体が動かない僕は
こいつから見たらさぞ美味しそうな肉の塊に違いない。
頬に食い込む爪が痛い
でもかじられたらもっと痛いはずだ。
僕は必死に声を上げた。
そのとき突然
顔の上の招かれざる客は
退席の挨拶もなく忽然と姿を消した。
安堵で緊張が解かれ
僕は大きく息を吐き出した。
肺の中の息を全部吐き出す前に
こんどは僕を浮遊感が襲った。
突然重力がなくなって上も下も分からない。
こんな時息を吸ったらいいのか
吐けばいいのか本能が迷っている。
やがて落下の衝撃が僕を襲い
僕はベッドから転げ落ちた。
目の前には半壊したベッドの足が
無残に転がっている。
どうすればいいか結局わからず
止まっていた息を吐き出す。
背中に暖かくて柔らかい感触
振り返るとそこにはマーヤの姿があった。
「姫、やっぱり姫が居ないと僕はダメみたいです。」
僕は無意識にマーヤに抱きついて
そう言っていた。
指一本動かせず途方にくれていたところに
6本足のねずみに鼻をかじられそうになって
あげく転落死の危機。
マーヤの顔を見たとたん
ほっとしたというか助かったというか・・・
「リョージ、その台詞はもっとムードのいい所で言わないと効果ないわよ。」
冷たいことばと裏腹に
マーヤの手は僕の頭をやさしくなでている。
僕はなにか言おうと思ったけど
結局そのままおとなしくしていた。