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覚醒

「あなた朝ですよ」


アンナの声だ

幼馴染で村一番の美人

私の自慢の妻だ


アンナは優しくて良く気が利く

ライバルは多かったが

私を最後に選んでくれた

最も有力なライバルは

村で一番背が高くて

金持ちの息子だということを鼻に掛けた

いけ好かないやつだった。


「あなた早くおきて。」


私はうす目を開けてアンナを見た

朝日に白い羽がキラキラと光って

まるで全身から光を発しているようだ。


私はベットを出て眼鏡を探した。

夕べ置いたはずの机の上から姿を消している。

たしかここに置いたはずなのだが・・・。


「あなた起きなさいっ!」


「起きているよ、アンナ。眼鏡が無いんだ、知らないか?」


台所からは甘い香りが漂ってくる。

今朝はデザートまで作っているのか?

何かの記念日だっただろうか?


「さっさと起きないとその羽をむしり取ってやるわよ!」


アンナが言うはずのない台詞だ、しかも声が違う

私はアンナを振り返った。

アンナは私を見つめて微笑んでいた。


「さっさと起きなさい、この役立たず。」


アンナの羽が白から黒へと変わってゆく。


そうだ

アンナは村で一番背が高い

金持ちの家に嫁いだんだ。

そして彼女が嫁いだ日

私は軍に志願した。

出世して見返してやろうと思ったんだっけ・・・・・。



経理部長は黒い羽のアンナに別れを告げ

頬についた砂の感触で現実に引き戻された。


前のめりに倒れた体を

両手にめいっぱい力をいれ

やっとの思いで膝をつく。

体中がだるい

ふと目をやった先に黒い羽が一枚。


「女王の加護か・・・・。」


いっそあのまま寝かせておいてくれれば。

そんな感傷を無理やり封じ込めると

重い体を起こして体の砂をはらう。


太陽は西へ傾いて

辺りはオレンジ色に染まっていた。


目の先には沈みゆく太陽をバックに

城のシルエットが浮かぶ。

後ろを振りかえると

東の空には星が瞬き始めている。

ねじれた蔦のむこうに

砂煙が立っているのが目に映る。


何かがものすごいスピードで近づいてくる。


目を凝らすと

こちらへ向かってくる人影。

見ている間にも

弾丸のように風を切り裂いて

その姿は大きくはっきりと正体を現す。







「姫っ!はやく目を覚ましてくださいっ!」


僕は背中に背負ったマーヤに向かって叫んだ。

こんなに必死に走ったのはいつ以来だろう

小柄なマーヤはけして重くなかったけど

背負ったままでは足がもつれる。

まして砂の上を走っているので

どんなに急いでも森の外れまではたどり着けそうに無い。


イオスケは別れ際に言った


「もし生きて戻れたら、わしの種を取り戻してきてはもらえまいか。

もし取り戻してくれたら子分でもなんでもなってやるぞい。」


そしてもうひとつ


「無理かもしれんが、己を信じることじゃ。神の力はすなわち信じる力じゃでのう。」


実はさっきからやっている

僕はもっと早く走れる!絶対間に合う!

呪文のように何度も心の中で叫ぶ

声に出してもやってみた。

でも

僕のスピードはだんだん遅くなっていく。

足は鉛のように重くなり

肺は悲鳴を上げている。

心臓はいまにも爆発しそうだ。


信じる力と言われても

何をどう信じればいいのかわからない。

そのうえ

視界は霧がかかったようにぼやけ

意識も朦朧としてきた。


「姫・・・・」


搾り出すようにそう言うと

僕はついに膝をついてしまった。

もうダメかもしれない・・・。


肩で息をしながら

額から落ちては砂に吸い込まれていく

いくつもの汗の粒を見つめていると

背中から声が聞こえた。


荒い自分の息と

耳の奥でうるさいほど鳴っている

脈動の隙間からこぼれる

その声は

かすかに遠く聞こえた。


「ねえリョージ

リョージが自分を信じられないのは

きっと何もかもを

もう持ってるからだよ。」


「姫?」


「何も持ってなかったらきっと

自分を信じなくちゃ生きていけないもん。

あたしはいつだって

自分を信じることで乗り越えてきたよ。」


「ねえリョージ

なんでだろう、あたし今ちっとも怖くないんだ。

厨房であたしをかばってくれた時みたいに

きっとリョージが

あたしを守ってくれるって信じてるから。

あたし、自分もリョージも信じてるよ。」


古いラジオみたいに

ノイズだらけの微かな音だったけど

その声は心に染みて


背中から伝わる

マーヤのぬくもりと混ざって

僕の中で形を作る。


何度も思った

守りたいって気持ちは

強くそして正直な僕の気持ちだった。

その気持ちに疑いは


微塵も無い。



変化は唐突で衝撃的だった。


それまでスクラップ寸前だった僕の体は

まるで生れたての赤ん坊の様に

エネルギーに満ち溢れて

その衝撃は

頭の中の霧を一瞬で吹き払った。


変化への驚愕が一段落した頃

僕は今一番気になっている事を

背中のマーヤに問いかけた。



「姫、いつから寝たフリしていたんですか?」


「小さいことに拘っちゃだめ。

それに、そんなこと言ってる暇はないわ。

さあ出発するわよっ!進めリョージ、風よりも早くっ!」


マーヤがそう叫ぶと

僕の体はマーヤを背負ったまま

宙に浮いた。

地面がつま先数センチの所で

後ろへと流れていく。

速度はどんどん上がって

もう目も開けていられない。


この速度なら日没までに城に着けるかもしれない。

ただ一つ気がかりなのは

この現象が僕の意思とは関係なく起こっているって事。


どうやれば止まるのか皆目見当がつかない。





リョージとマーヤの疾走を見下ろして

太陽は地平線へと足早に進む。

東の空に1つ目の星が姿を現した頃

魔王の森に変化が訪れた。

始めは微かに

そしてしだいに激しく

お互いに寄り添って同じ方向を指し示していた蔦は

今はほどけてうねうねとのたくっている。

小石混じりの砂の上に

伸びきった影が

一つの胴に無数の頭を持つ蛇を映した。


その頭の一つが

黒ぶち眼鏡の獲物に狙いをつける。


幹に身を潜めて

リョージたちの接近を覗き見ていた

経理部長は

予期せぬ襲撃者に抵抗する術をもたなかった。








「リョージちょっとまって、ストーっプ!」


マーヤがそう言うと僕の体は出し抜けに止まった。

内臓が慣性の力で前に持っていかれる。

背中にはマーヤの体重が掛かって

肺の中の空気が一瞬で空になる。

その反動で僕は前へ

マーヤは後ろへと飛ばされた。


「痛ったーい。ちょっとあんた、もっと優しく止まりなさいよ。」


僕も出来ることならそうしたかった。

文句を言うマーヤへ何か言おうとしたとき

体にまたもや異変が起こっていることに気づいた。


あれ?体が動かない

指の一本さえ動かせる気がしない

砂に突っ伏したまま自分に何が起こったのか考える。

口の中に砂が入っているけど

吐き出すことも出来ない。


「姫、体がまったく動きません。」


「なにふざけてんのよ。」


マーヤはふてくされたようにそう言うと

僕に近づいてきた。

いきなり目の前にマーヤの手が現れる。


手を貸してくれるのかな?

僕はそれに手を伸ばそうと思ったけど無理だった。

だから動かないってるのに・・・。


「ふざけてなんかいないですよ。体が言うことをきかないんです。」


「冗談よね?リョージ大丈夫?」


今度はマーヤの顔が僕の視野に入ってきた。

とても心配そうな顔だ

なんだかちょっと近すぎてドキドキした。


いやまて

相手は子供だ、しっかりしろ自分。

僕には佳織さんという人が・・・振られたけど・・いる。

いくら作者がロリコンでハルカヲタでも

その展開だけは断固阻止せねば。


僕の思いをよそに

マーヤは息がかかるほど近くまで顔を寄せると

僕の背中にそっと手を置いた。


なんと言うことだ、

ドキドキが止まらない。

僕はあわてて飛び起きてマーヤから離れた。


あれ?動いた。


でもすぐに景色は後ろ向きに流れ

地面に後頭部をしたたかにぶつけた。

仰向けに大の字になり

またもや指一本動かせなくなった。

僕の視界には紫色の空だけが広がっている。


「どうなってんの?」


「どうなってるんでしょう?」


どうなっているのかはすぐにわかった。

僕はマーヤに触れられていないと

立つことも出来なくなってしまったようだ。


「あはは、おもしろーい」


「姫、勘弁してください・・・。」


僕に触れては

起き上がるとすぐに手を離す

というのを

ものすごく楽しそうに繰り返すマーヤ。


「姫、いま遊んでる場合じゃないですよ。

それに、なんで急に止まれって言ったのか教えてもらえませんか?」


はっと我に帰ったマーヤは

僕の手を引いて

一本の蔦の根元に駆け寄ると

止まれといった理由を指差した。


手をつないで仰ぎ見る2人の視線の先には

蔦に襲われている経理部長の姿があった。


必死で抵抗したのだろう

蔦の何本かは途中から先が無くなっている。

しかし数で勝る敵には適わなかったらしい

哀れな獲物は逆さ吊りの状態で

ぐったりとしている。


「どうします?」


「決まってるでしょ、助けるのよ。」


「助けるって、あの人女王の手下ですよ?」


「でも女王本人じゃないわ、このまま見過ごすなんて出来ない。」


さすがマーヤだ

女王の手先といえども見捨てないなんて

かっこ良過ぎる。

でもどうやって助けるつもりだろう?


「リョージ、頼んだわよ。」


やっぱりそうきたか。

でも僕には何も出来ないだろう。

たぶん鍵を握っているのは

僕ではなくてマーヤだ。


僕はここに来るまでに思い当たった

ことを説明することにした。


「姫、これは仮説なんですが。さっきの高速移動や浮遊は

たぶん僕の力ですけど。使っているのは姫だと思うんです。」


「もうちょっと簡単に言ってくれる?」


「うーん、例えるなら僕が自動車で姫が運転手です。

姫が命令しないと何も起こらないと思います。

さっきも

姫が止めるまで、僕の意思ではどうしようもなかったんです。」


「自動車って何?」


こりゃだめだ・・・

神の力の前に国語力が欲しい。



太陽は今まさに沈もうとしていた。

リョージ達にはまだ見えなかったが

東の空に緑色の雲が立っている。

近寄って見れば

それが無数の緑色の糸だとわかるだろう。

それは

ゆっくりと

しかし確実にリョージ達に迫っていた。



特殊用語説明


ハルカヲタ

ほんの少し度を越した綾瀬はるかファンの意


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