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僕と姫と女王様

城壁までの広間では

蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

誰も僕などに注意を向ける余裕など無く、

空中を右に左に飛び回って

壁や地面から頭を出した蔦に松明を押し付けて焼き払う。


もし僕のアパートにこの糸が降ってきたら、

壁の蔦は伸び放題になるだろうな、

届かないもの。


「ちょっと、なにしてんの!足引っ込めなさいよ。」

両手に松明を持った少女が駆け寄ってくる。

足元を見ると地面から突き出た蔦が

僕の足を絡めとろうと、

ものすごい勢いで伸びてくる。


慌てて足を引っ込めると

蔦は空を切って、

悔しそうに身をよじった。


そして身を縮めると

バネのように跳ねて、

再び襲い掛かってきた。


蔦は僕の首を捕らえ、

力いっぱい締め付けてきた。

息が止まる。気を失いかけた時

不意に蔦は力を失って

見る見る干からびていった。


塞き止められていた血が

一気に頭に駆け上がると、

目の前が真っ白になり

僕はその場にくずおれた。


「大丈夫?」

さっきの声がする、

激しく咳き込みながら顔をあげると、

涙で曇った視線の先には

12〜3才くらいの少女が立っていた。


少し離れぎみのあいくるしい目が、

心配そうに僕を覗き込んでいた。


「あんた見ない顔だけど新入り?

ほらっ、ぼさっとしてないで手伝いなさいよ。」

そう言って差し出された松明を反射的に受け取る。


頭を振りながら立ち上がると、

上空にオレンジ色の輪が広がるのが見えた。


青白い小さな星を瞬かせながら

ゆっくりと広がり降りてくる。


僕はその美しさに、しばし我を忘れた。


「どんだけ使えないのよ、まったく。」

蹴り飛ばされた足をさすりながら、

僕はわが目を疑った。


「君、羽がない・・・」

「あんたも、無いでしょうが。命の恩人に向かって、なにその態度。」

「そうだった、ありがとう。助かったよ。」

「どういたしまして。そんなことよりまだ地面の奴が残ってるわよ。

さっさと片付けないと寝る暇がなくなっちゃう、急いで。」

たしかに、

地面のあちこちで蔦が頭を出してきている。


彼女は、ちょこまかと松明を押し付けては、

次の目標に向かって行く。

必死に追う姿がモグラ叩きを連想させて、

僕は笑いをこらえるのに必死だった。



僕が最後の蔦をやっつけた時

鼻の頭に奮闘の証である黒いススをつけて

少女が歩み寄ってきた。


「ちょっとトロいけど良くやったわね。おつかれさま。」

「ど、どうも・・・」

「あんたねぇ、いったいどんな育ち方したの?」

応対が気に入らなかったらしい、

眉を吊り上げ手を腰にお説教を始めた。


僕の胸ぐらいのところから見上げるようにして、

一言いっては一歩前ににじり寄る。


気おされて後退した僕は

ついに壁に押し付けられる形になった。


「ほんとしょうがないわね、どうせ降格組みでしょ。

いいわ今日から私がみっちり教育してあげるわ。」

「教育ですか?なにを?」

「決まってるでしょ、全部よ全部。

根性から叩き直すって言ってんの。」

「いや、でも僕はここをでていきたいんだけど・・・」

「はぁ?出て行くですって?

羽も無いのにどうやって出てくのよ。

この城には歩いて出て行ける所なんてないし。

だいいち城を出たってこの辺りは魔王の森以外何も無いわよ。」

まったく訳がわからない。魔王だって?


「どこの田舎から送られてきたのかしら。

まあいいわ、今日から子分にしてあげるからついてらっしゃい。」



ほとんど強引に連れ込まれた部屋は

3歩歩けば壁にぶつかりそうな狭い部屋だった。

家具といえばベットとタンス、

それに今にも壊れそうなソファがひとつ。


「新入りのくせに部屋持ちに目をかけてもらえるなんて思ってなかったでしょ?

あんたみたいなのは、あの豚小屋じゃいじめられちゃうもんね。

あたしもその口だったから分かるわ。」

なんと答えていいのか分からずに、

たったいま僕の親分になった少女をまじまじと見ていると

そんな僕の様子などお構い無しに彼女は話を続けた。


「そういえば、名前を聞いてなかったわね、あたしはマーヤ。あんたは?」

「良司、青山 良司。」

「です。でしょ?あんた立場わかってんの?」

「すいません・・・・あまりよくわかってません。」

片方の眉毛がみるみる釣りあがっていく。


「喧嘩売ってる?」


僕は平謝りに謝った、

本当に何もわからないこと。

今夜ここに着たばかりだということを説明した。


アパートでの香織との件と

死のドライブの件はどう解釈したのかわからないが

眉毛の動きが怪しかったので少しかいつまんで話した。


「なるほど分ったわ、

用は女王にちょっかいを出して羽を奪われたって事ね。

黒い羽なんて女王以外いないもの。」


ちっともわかってない・・・


「しょうがないわね、今夜は寝るのを諦めて説明してあげるわ。」

そういうとマーヤはベットに腰かけて、

僕の立場について説明を始めた。


羽の無いものは一部の例外を除いて市民権が無いこと。

生まれつき羽の無い者と、何かの罪を犯して羽を奪われた者がいること。

マーヤは部屋付と呼ばれる、まとめ役に昨日任命されたこと。

部屋付になると助手を一人つけることが出来ること。

生まれつき羽が無い者が部屋付になるのは異例だということ。

そして一番長かったのが

部屋付になるまでにどれだけ苦労したかと言うことだった。


「わかったわね、これからはあたしを親分と呼びなさい。」

「親分ですか?」

「なに?不服なの?」

雲行きが怪しくなってきた


「いえ、不服じゃないんですけど。女の子に親分は・・・」

「あっそ、女だからって馬鹿にしてんのね、そういうことなら」

僕はすっかりおかんむりのマーヤの言葉をさえぎって言った


「あ、そうだ姫でどうでしょう?姫と呼ばせてください。」

「姫?あたしが?」

まんざらでもない表情に一瞬で変わった。

ほんとに表情が豊かというかなんというか。


「いかがでしょう?」

「いいわ、じゃあ忠誠を誓いなさい。

そうね、自分の名前に懸けて誓ってもらいましょうか。」

「忠誠ですか・・・うーん、わかりました。」

僕は昔見た映画の真似をして、剣の替わりにさっき使った松明を左胸にかざし

大げさな動作でやってみせた。


「わが名に懸けて、永遠の忠誠を誓います。

わが志にお疑いあらばどうぞこの剣でわが胸を刺し貫きください。」

マーヤはクスクス笑いながら松明に口付けをして僕に返す。

その顔に佳織の笑顔が重なる、笑うとけっこうかわいいのに・・・。








ついに決戦の日は来た。

さんざん悩まされた魔王の抵抗も

寝不足の毎日ももう終わり。

あたくしの完全な勝利で幕を下ろすのよ。

世界の中心であるあたくしがこんな辺境の

しかもこんな粗末な城に釘づけになって

いったいどれくらいたつのかしら。

でももうそんな事はどうでもいいわ。

明日からは首都にある世界一の城で、

また優雅に暮らすのよ。

そしてなにより、あたくしは不死になる。


永遠の美貌と、永遠の命。まさに神の中の神。


「陛下、朝でございます。」

「知ってるわよ、準備は出来たの?」

「は、その・・・・・それが・・・」

輝かしい未来に思いをはせて、ほころんでいた唇をかみ締める。

さっきまでの喜びの表情が欠片も残らない、不機嫌という名の仮面を貼り付けて。


「で、どうしたの?」

「逃げられました、部屋はもぬけの空で・・・おそらく敵襲のドサクサで逃げられたものと・・。」


ありえないわ、

部屋には力を封じる仕掛けがしてあったはずよ。

だいいちあの男

力なんて使えなかったじゃない・・・・。


恐縮して頭を下げたままの兵士をにらみつけて

女王は深く息を吸った。

次にくる叱責に備えて体を硬くする兵士に向かって、

あえて押し殺した声で告げる。


「探しなさい、城中くまなくよ。

見つからなかったらお前の羽をむしりとって犬に食わせてやる。わかったわね。」



兵士の頭の中に、

女王と直接口が利けるまでに出世して、

大喜びしていた故郷の両親の顔がよぎる。

こんなことなら、家業を継いでおけばよかった・・・・


短く礼をして女王の部屋を出ると、

部下たちにそんな気持ちを悟られぬよう。

いつもより、いくぶん胸をそらし

居並ぶ部下たちに向かって叫んだ。

「絶対見つけろ、必ずだ。

もし見つからなかったらお前らの羽をむしって犬に食わすぞ。」


そして、朝日の訪れとともに僕と女王と魔王の決戦が始まった。

ランキング設置してみました。コメントもお待ちしております。

お手数ですが、ぜひよろしくお願いします。


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