第九話
華やかな首都の大通りを少し進むと、神殿がある。大きな柱が何本かある神殿の中庭には、石像が並んでいる。そのなかに、真新しい石像が一つ増えていた。犬を連れた聖女の像だ。
誰かが供えたのだろう、犬には野に咲く花でできた花冠がかぶせてある。
神殿の外から歓声が聞こえる。中庭で遊んでいた子供たちは、歓声につられるようにわっと駆け出していった。
「聖女様だ!」
新しい国境警備隊の隊列に、新しい聖女がいる。馬上の聖女は、胸に竪琴を抱えている。これから国境に向けて出立するのだろう。
子供たちは歓声を上げ、大人たちは拝む。
軍馬の足音とともに、やわらかな旋律が流れてくる。新しい聖女が竪琴を弾いていた。
「きれい……」
群衆のなかから誰かがため息まじりの感嘆をあげる。新しい聖女が弦を弾くその指が少し震えていることに、群衆の誰も気付かない。
歓声に包まれて、隊列は街の外へと進んでいく。
***
焼け跡に餌をついばみにきた小鳥を、ジョンが息を弾ませて追いかけている。
「後方待機?」
新兵は驚きの声をあげるが、聖女は参謀本部からの通達を聞いても表情を変えない。ジョンが戻ってきて、聖女の周りをぐるぐると歩く。
「そっか」
聖女は淡々とそれだけ言って、ジョンの頭をなでた。
周りで兵士たちがざわめいている。新兵は気遣わしげな視線を聖女に向けるが、彼女の表情は読めない。
「聖女様がいなくなったら、俺たちはどうなるんだよ!?」
「こんなに前線でがんばってきたのに!?」
参謀本部からやってきた伝令兵に、兵士たちが次々と詰め寄っている。伝令兵は肩身がせまそうに会釈すると、馬にまたがった。
新兵はそれを遠くにながめながら、ようやく言葉を発した。
「どうなるんでしょう……」
「俺たちは一旦戻って再編されるだろうな」
ベテラン兵はこともなげにそう言うと、自分の髪の毛をぐしゃぐしゃとかきまわした。
遠くで「俺たちは参謀本部に見捨てられたんだ!」と叫ぶ兵士がいる。ベテラン兵は厄介なものを見るように鼻を鳴らすと、もめている兵士たちに近づいていった。
「聖女様は?」
「前の聖女様のときと、変わらんよ」
背中にかけられた新兵の声に、ベテラン兵は手だけをひらひらと振って、そう答えた。




