第8話:白熱の激突
男から、ただならぬ雰囲気を感じ、
黙って着いていくと、
そこは近くの工事中のビルの中だった。
商業用施設なのか広い空間になっている。
陽が落ちて辺りが暗いので、
すでに作業員の姿はない。
「…ぶつかられた報復か?」
目的は別にあると確信しつつも、
軽口気味に男に話しかけてみる。
「はっ、んなわけねーだろーー」
ーー男が話し終える前に、
男から別の声が聞こえる。
「そうだ、そんな事は私の精神に反する」
「……二つの声が混じっている、人格が割れてるのか?」
鋼生は多少驚きながらも冷静に分析する。
「お前、コイツの声が聞こえんのか?まぁ
いい、それよりお前だ」
男は鋼生を睨みつける。
その瞳は先ほどよりも冷たく暗い。
明確な敵意を感じ、
恐怖から敵意に飲まれ萎縮する。
「ガワは人間だが、中身は混ざりもんだろ……」
男は続ける。
「気が変わった。お前を片付けてから、あの女を連れてくつもりだったが、遊んでやるよ」
男が話し終えると、
男の別人格みたいなものが丁寧な口調で話す。しかし、その言葉は怒気をはらんでいる。
「貴様っ、連れていくだと!お迎えにあがったのだ!」
抗うように、鋼生は思考を巡らす。
(俺じゃなく…詩天を狙ってる?なんで…いや、理由はどうでもいい。コイツはヤバい…。)
硬直し、冷たくなった思考に一滴だけ、熱が浮かび上がる。
(……詩天を狙うなら)
ーーその瞬間、ガチりと鋼生の思考が切り替わる。
視界がクリアになる。
意識は深いところへ沈んでいき、
本能が敵を認識する。
しかし、その本能すら押しのけて、
違う"何か"で体が自然に動き出す。
自分の鼓動が早くなるにつれ、
逆に世界の音が遠のいていくーー
一瞬にして男と距離を詰め、
床のコンクリートにヒビが入るほど左足を強く踏み込み、
右足で男の腹部目掛けてミドルキックを放つ。しかし、左腕でガードされる。
鋼生はさらに追撃はせずに、
後ろに飛び退き再び、男との距離を空ける。
男は、ガードした左腕の感触を確かめながら、
ボソッと呟く。
「やる気満々じゃねーかよ、しかしこのスピードは…」
鋼生は黙って睨み返す。
「ハハっ、戦闘マシーンみたいだな」
男が手に一瞬で黒い槍が形成される。
それは黒一色。
まるで、影から直接引き出してきたような見た目だ。
鋼生は真っ黒な槍に対抗するように、
そこらにまとまっていた野球バットぐらいの形状の鉄の丸棒を一本引き抜いた。
右手に持ち、腰を落としながら構えを取る。
「準備はできたか?こっちから行くぜ!」
男が突進と同時に黒槍を横薙ぎに振るう。
鋼生は丸棒を斜めに当てて黒槍を逸らす。
次に黒槍は鋼生の胸を目掛けて突き出される。
それを、今度は丸棒を縦に構えて右に受け流す。しかし、受け流した黒槍が右肩を掠めた。
ーーそこに恐怖や痛みは微塵も感じない。
鋼生は気にせず、ほぼ反射的に男に左足の蹴りで反撃を入れる。
「痛ぇーな、ならこっちもギアをあげるか!」
「!?」
その気迫に圧倒されたのか、鋼生の心臓が跳ねる。体が危機を察知して、距離をとる。
すると、男の周りの何もない空間から、
同じ黒槍が6本出現した。
その矛先は全て鋼生に向けられている。
「おい、急に力を使いすぎるな…でないと」
男の別人格が咎めるように喋る。
しかし、それを最後まで言わせずに、また男が口を開く。
「うるせー黙ってろ、いいところだ」
「………。」
鋼生は緊張して、沈黙している。
どんな原理で、現れたのかはわからないが、
あれをまともに喰らえば、この体でもタダでは済まないだろうという事だけは、本能で感じる。
ーー生命の危機を感じる刹那、ジジイの言葉が蘇る
「鋼生よ、お前を蘇生させる代償はーー」
「……思い通りになるのは腹立つが!」
そう叫びながら鋼生が右腕に手を当てると、一部が外れ黒い刀の柄みたいなものが分離する。
しかし、それに鍔は存在しない。
さらに鋼生はシャツまで胸を露わにする。
そこには人肌ではなく、黒い金属質の肌が現れる。左胸ーー心臓部に穴が空き、そこに柄を接続する。
そうすると、柄の溝に金色の光が流れ込み発光する。
「…ブレード・アップ」
鋼生が柄を胸から引き抜き、認識コードを音声入力すると、何もない柄から金の光刃が実体化した。キラキラと金色の粒子が舞い散り、薄暗い室内で鋼生の周りだけが一気に明るくなる。
男は突然の光の刃に目を見開くが、すぐに口角を吊り上げ笑う。
「ハハっ、なんだよ抵抗するのか?混ざり物だから何かあると踏んだが、思ったより楽しめそうじゃん!」
「…こっちは予定があるんだ。楽しむ暇もなく終わらせる」
お互いがジリジリと出方を伺い、数秒時間が凍りついたように静かになるーー
先に動いたのは、男だった。
周囲の黒槍をそれぞれタイミングをずらして、鋼生目掛けて放たれる。
光刃を瞬時に一閃、ニ閃、先に来た二本が火花を散らして砕ける。
(ーーよし、反応できる!)
三本目は右へ大きく跳躍し躱す。
床に突き刺さり轟音が響く。
しかし、今は恐怖を感じない。
すかさず、空中で光刃を振るい、
斬撃を飛ばし迫り来る四本目が爆発し、
金色の粒子を散らして破壊される。
着地と同時に態勢を低くし、力を溜めて男に向かって一発の弾丸のごとく駆け抜ける。
五、六本目が前方左右から襲ってくる。
駆ける勢いのまま、前方に高くジャンプして避ける。そのまま空中で刃を大上段に構えてーー
「うおぉぉぉぉっ!」
雄叫びをあげて光刃を男へ振り下ろす。
「ちっ」
男がここで初めて苦々しい表情となる。
手元の黒槍を横に構えて防御態勢をとり、
光刃を迎え撃つ。
ーー鋼生の振り下ろした光刃と、
男の構えた黒槍が激しくぶつかり合い、
激しい衝撃音と火花が散る。
「くっ、舐めんじゃねぇ」
鋼生が押し勝つと思った瞬間、
男の周りに青い光のようなものが集まり、その光が途端に周囲へと発散した。
それは物理的な衝撃波となって、
鋼生が奥の壁まで吹き飛ばされる。
「ぐはっ…」
鋼生はコンクリートが剥き出しの壁に衝突し床に転がり、背中に激痛が奔る。
視界が揺れるが、意識は保っている。
先ほどまで、体を動かしていた"何か"は形を潜める。
視界の先に男がみえた。
しかし、男も無事ではなく衝撃波を放ったからなのか、膝を着き肩で息をしている。
「はぁ、はぁ。くそっ」
「今のはさすがに、やり過ぎだ…」
男が悪態をついた後に、
別人格が苦しそうに喋る。
「…自業自得だナイト…私はしばらく休む…この場はなんとか乗り切れ…」
「どういう意味だ……!?」
そうすると、男は一瞬ガクンと体が下がるが、すぐに持ち直し、辺りを見回し何かを確認している。
倒れている鋼生と目が合う。
男は荒い息づかいで、持った黒槍を引きずりながら、こちらへ近づいてくる。
鋼生も上体を起こして立ち上がり、刀を構える。しかし、そこにはもう輝きが無い。
鋼生は男と対峙する。
先ほどと違い、敵意は感じるが鋭くない。
先に、男が口を開く。
「あー、まだやりたいが俺にはこの壊れかけの槍一本。お前はその光らない刀だけか?」
警戒を解かずに、耳を傾ける。
だが、質問の意図がわからずに眉をひそめる。
「……だったらなんだよ」
「誰かは知らんが、囲まれてんぞ」
鋼生も男に言われ遅れて気づく。
「……みたいだな」
それから、お互い無言になる。
(5、6人くらいか…?)
極限までセンサーと感覚を研ぎ澄ませて、
ようやく感じられる。
それぐらいの手練に囲まれた状況に、
理由もわからない鋼生には戦慄が奔るーー




