第6話:長閑な放課後
放課後ーー
駅前のショッピングモールには、同じように学校帰りの学生たちがちらほらいる。
平日のもう夕方だからか、親子連れの姿がほとんどなく、代わりに制服姿が目立つ。
詩天と並んで歩くのは、思った以上に久しぶりだった。
鋼生は、胸の奥にわずかなむず痒さを覚えながら歩幅を合わせる。
詩天は入ってすぐの館内マップを覗き込みながら、弾む声で言った。
「鋼生と出かけるのなんて久々だよね〜、色々話したいこともあるし今日は楽しもうね。あっ、でも最初はスマホだよねーー3階の奥みたい、行こう!」
詩天の後ろ姿を見ていると、胸の奥がゆるむ。
事故で失ったものはおおいが、こうして隣を歩ける日常は、確かに戻ってきているーーそんな実感があった。
「…今日は良かったのか?用事とかあったんじゃ…」
振り返った詩天は、まっすぐな笑顔で答えた。
「最初は、寺崎さんと宮本さんと予定があったけど、二人が『邪魔しちゃ悪いからお二人でどうぞ〜』って。別に、邪魔じゃないのにね、なんでだろ?」
「…なんか悪いことしたな」
なんか、幼馴染ってこともあって、クラスメイトに勘違いされている気がする。
しかし、予定を潰したのは確かなので素直に謝罪をする。
すると、詩天は笑顔で
「別に、謝る必要ないよ。煉にいから、鋼生の予定聞いて、私も一緒に行きたいなって思っただけだし」
「…そうか」
詩天と話していると自分の思考が、ネガティブ寄りなんだと気づかされる。それだけ彼女がまっすぐなんだーーそう思いながら歩いていると、目的の店に到着した。
店員に案内され、とりあえず最新モデルがある場所へ案内される。
鋼生は特にこだわりがないので、こういう時に迷ってしまう。
以前使っていたモデルってなんだったか…と考えていると。
「あっ、これ鋼生が前使ってたやつの最新モデルじゃん」
詩天が一台のスマホを手にとって眺めている。確かに、以前使っていたモデルとどこか似ている。なら、ちょうどよいと思った。
「じゃあ、それにしよう」
「いいのっ、そんなに簡単に決めて〜。鋼生ってあんまりこだわりないけど。あっちょっとまってよ、まだ…」
詩天は何か他にも言いたげだが、鋼生は店員へ声をかけ、購入手続きを始める。
そして詩天はどこかへ電話をかけている。
契約時特有の長い説明つづくなか、書類にサインを求められる。鋼生の視界に“保護者署名欄”が入った瞬間ーー
胸の奥から冷気が広がってきた。
事故、両親、空っぽの墓、慰霊碑。
忘れたわけではないが、日常の中で突然それを突きつけられると、足元が揺らぐような感覚に襲われる。
詩天が電話をかけ終え、こちらに戻ってきた。
「すみません、今保護者が向かっています。書類、後でも大丈夫ですか?」
鋼生が言葉を出すより早く、詩天が店員と一言二言、言葉を交わすと、鋼生の腕を掴んで店の外へ引っ張り出した。
そのまま、近くのフードコートの席に腰を下ろした。
フードコートでは、学生がグループで話し込んでいたり、小さい子供が騒いでいたりしている。
詩天は鋼生をじっと見ながら、心配そうに言葉をかける。
「鋼生大丈夫?」
喉が少し締まるような感覚を覚えながら、鋼生は言った。
「ああ、…ちょっと色々思い出して、めまいがしたというか」
詩天は俯き、話しづらそうに言う。
「…ごめん、私も気づかなかった。未成年だから当然なんだけど、保護者のサイン必要だよね。さっき気づいて、煉にいに連絡したんだけど、この後来てくれるって。それと…鋼生の後見人って私のおじいちゃんなんだね…。」
「……俺の両親には兄弟とかいないし、祖父母ももういないからな…」
「…うん」
詩天はその表情は悲しそうだが、静かに聞いてくれる。
「…大丈夫、ちょっと驚いただけなんだ」
「そう…ならいいんだけど。私も心の整理がついたのは最近だし…」
詩天も自分の両親の事を思い出しているのか、黙ってしまい沈黙が流れる。
「…私飲み物買ってくるね。鋼生はブラックコーヒーだよね?座ってて」
そう言って詩天が席を立つ。
気を遣わせて申し訳ないと思いながら、詩天の背中が人混みにまぎれるまで見送った。
その間一人になり、考え事をするーー
飛行機墜落事故の慰霊碑は、半年の間に一度だけジジイの許可がでたので訪れた。
327人の乗客や乗務員の名前が刻まれていたーーそれは、俺と詩天を除いて。
「お待たせいたしました〜こちらブラックコーヒーになりま〜す」
いつもの明るさで詩天が、大人気コーヒーチェーン店のロゴが入ったカップを俺の前に置いてくれた。
詩天のカップの中身は、名前の長いストロベリーラテ。
鋼生の苦手な甘ったるいシロモノだ。
「…悪い、金払うよいくらだった?」
鋼生の言葉を、詩天は手をひらひらさせて押し戻す。
「ノンノンノン、これは私からの奢りです。今日は『鋼生復活記念祭』なのですから〜。これはほんのジャブですよ、ジャブ」
その無邪気な笑顔が、心に染み渡る。
そして、詩天は少しだけ真剣な目で続けた。
「それとね鋼生、『悪い』じゃなくて『ありがとう』だよ。昔も言った気がするけど忘れちゃったの?」
そういえば、昔からよく言われていたのを思い出す。あとは、「何も悪いことなんてしていないんだから謝らないで」とも言われた。
「……ありがとう、詩天」
「うん、良かった少し元気になって」
鋼生の表情をみて、安堵したのか詩天が微笑む。
「よし、鋼生が元気になったから、煉にいが来るまで遊ぼっか!ゲームセンターで最近、ハマってる奴があってーー」
「わかった、わかった。飲み終わったらな」
身を乗り出してきそうな勢いの詩天を制して、コーヒーを口に運ぶ。
なんだか今度は、暖かさが体全体に行き渡った気がした。




