第5話:寒空の対話
「そのままの意味だけど、異常はないかな?
ーーコードメタル」
振り返ると、煉陽が両手をポケットに入れ、目だけは鋼生を見据えていた。
鋼生は目を見開き、体に緊張が走る。
この呼び名は博士に言われていたものだ。
「それを、知ってると言う事は…。」
言葉の続きがだせず、鋼生は背後のフェンスに軽くもたれ、空を見上げた。
様子を見て、察したのか煉陽は答えを待たずに口を開く。
「ああ…鋼生の考えであってるよ。俺は博士から指示を受けてここにいる。ちなみに、監視する方法は問われてない。教師は俺の独断。」
(ジジイの指示で動いているなら…)
鋼生は、諦めて素直に答える。
「…そうですか。体の異常は特に見られません。」
それを聞いた煉陽の雰囲気が戻る。
「はーっ、そうか何も無くて何より。詩天とダッシュで登校を聞いた時はドキッとしたよ。まぁ、無理しようとしても、リミッターついてるから杞憂だったかな」
(この話題を蒸し返されるのは何度目だ…)
鋼生はあの時、化け物じみた詩天のダッシュに合わせたのは我ながら、悪ノリをしたなと思った。
「なんか…すいません」
「いや、別に制限なんてかけるつもりもないから安心して欲しい。鋼生の判断を信じるさ」
さらに、ぼそっと煉陽がこぼす。
それは、どこか寂しそうに、
「……博士は他人をあまり信用しないから」
(それは、一体どういう意味なんだ?)
鋼生が、意味を聞こうと口を開いた瞬間ーー
キーンコーン、カーンコーン
昼休み終了のチャイムが鳴った。
それを聞いた煉陽は、急に慌て始める。
「やばっ、こんな時間かっ!?うっかり話込んでしまった。授業の準備しなきゃ!」
煉陽の慌てようを見ながらも、重要な話なので、今にも屋上を去りそうな煉陽を引き止めようと声をかける。
「ちょっと待ってくださいよ、まだ、いくつか確認したい事があるんですが…」
煉陽は階段へ向かいかけた足を止めて振り返る。
「それだけど、夜に研究所へ来てよ。色々話すからさ。あと、スマホは放課後に詩天と一緒に買いに行ってね〜。本人には言っておくよ」
「じゃあ」と言った煉陽は出口を抜けて、階段を足早に降りていってしまった。
そこには寒空の下、一人残された鋼生だけがいる。
「…少し寒いな。」
人体を限りなく模したこの体は、皮肉にも寒さや暑さを人並みに感じる事ができる。
しかし、鋼生にはその感覚のおかげで、自分が人間として生きているという実感がわいてくる。
鋼生は、この寒さを噛み締めるようにもう少しだけ、一人屋上に佇んでいた。




