第2話:微温の再会
ーー半年ぶりに歩く道だった。
以前は、当たり前のように歩いていた通学路。
あの、五月の事故から、約半年が経過している。
ジジイの悪魔のような言葉とともに、長く冷たい時間が始まった。
そして、つい昨日までこの体の調整のため、必死に続けた実験生活。
その成果が、この体だ。
機械だとは思えないほど、今もスムーズに歩みを進めている。
あの実験生活から一転して、平穏な世界に戻ったわけだが、心は何も動かない。
世界は平穏でも
ーー俺の存在はもう、ここでは異物だからだ。
しかし、気がかりはある。
あの事故から半年間、アイツに一度も連絡できていなかった。
ジジイから一方的に、アイツの近況は聞かされていたが、俺自身については「事故後の手術とリハビリのため、海外で半年休校」という事に、ジジイがそうしたらしい。
確かに、実際に海外で手術を行った。しかし、経過観察は、最初の一ヶ月間だけで、あとは日本の山奥に移されて、リハビリと言う名のジジイの実験漬けの生活だった…。その間ずっと、実験の秘匿性のためにとかで、通信機器の類は一切の所持を許されなかった。
生活に多少の制限はついているが、スマホの所持は許可が出た。
早く買いに行かなくては。
ーーそう考えながら歩いていると、角を曲がった先で、聞き覚えのある叫び声がした。
「うわーっ! どいて! ぶつかる! どきなさ〜い!」
家を出るとき、祖父の表情がなんとなく引っかかっていたけど、
そんなことより、時計を見て青ざめた。
ホームルームにまで、あとわずかなことに気づいた。
この時間なら、走らないといけない。
けど、最近やっと工事が終わったアーケードを通れば、近道になるはず。
みなさん工事お疲れ様デス!
私は、陸上部もびっくりの全力ダッシュ!
風が気持ちいい。これならバッチリ間に合いま——す…?
「わ、わわっ! 人影っ!? 止まれな——い!」
「……そして、今にいたる訳か。」
「ソーナノデス、ズミバゼン」
結果的には、急には止まれずにパニクる詩天に対して、
逆に鋼生は、冷静に武道家さながらの、最小限の体捌きでサッと彼女を躱した。
当然、躱された詩天は、そのまま電柱へ結構な勢いでぶつかった。
しかし、傷ひとつない。
「……あれで無傷とか、相変わらずお前はどうなっているのか。」
「体が丈夫なのと、明るさが取り柄でして。」
「……そうだな。」
「そうだな、じゃないよ!『他にもたくさんあるよ』とか! フォローしなさい!」
確かに、そうして軽口を叩いてる詩天は、昔と変わらずに明るい。
「まったく、今の勢いで普通の人にぶつかっていたら…。」
「ん?普通の人?鋼生だって、普通の人じゃんね?なんか、さっきの動きは武道の人みたいだったけどさ!でも今までそんなのやってないじゃん、さては半年間秘密の特訓してたろキミ〜。」
「…普通の人か。」
鋼生は先ほど思った、世の中からの疎外感が少しだけ柔らぐ感じがした。
昔からコイツは、調子を狂わせてきたり、時々こうして変に鋭かったりする。
「…お互い無事なら、そろそろ行くぞ。遅刻する。」
「いけなっ、そうだよ!私は丈夫な上に、無遅刻無欠席なんだからっ!」
そう言って、詩天は再び全力ダッシュの姿勢をとる。
「鋼生もついてこれるなら、ついてきたまえ〜私速いんだから。」
「……そうか。」
詩天の後ろ姿を見ていると、わずかだが、体の中に熱が戻る気がした。
そして、二人は陸上選手顔負けのスピードで、
朝の道を全速力で駆け抜けていった。




