第1話:暖かな揺かご
「‥‥(あったか〜い)」
今は冬なのに、毎朝の目覚めはとってもあったかい!
何故なら、布団の中にはこのモコモコちゃんがいるからだ。
「ウーッ」
「おはよ〜う。キャンディちゃん」
こちらは、我が家のアイドル犬。ビション・フリーゼのキャンディちゃん。名前の由来は、白くて、モコモコでアフロだから、わたあめみたい、英語ではコットンキャンディ。じゃあ、キャンディちゃんでと、はい決定したのです!
「ではわたくしは、そろそろ学校行く準備をしなくてはなりませんので着替えま〜す。殿方は出て行ってくださーい!」
ふざけて、わざとらしく、パジャマの裾をヒラヒラさせる。
先ほどまで、温めてくれていた
キャンディちゃんは、
ちょっと不服そうに鼻を鳴らして、アフロを揺らして、部屋から出ていく。
髪も顔も整え、いつものブレザーに着替えて、いつもの白のチョーカー、バングル、アンクレットをつける。自分でも、つけすぎかな〜と思う。
けど、かなり珍しいことに、あのお爺ちゃんからのプレゼントなのだ。
さらに、はっきり覚えていないが、私は半年前に大事故にあったみたいで、その直後に「お守りだ。」とか言って渡された。
そんな感じなら付けなきゃってなるでしょ!
幸いデザインも良いんだけど、これを付けた直後は、なんでか脱力感がくる。それに、なんか抑え込まれるような?そんな感じと‥‥。そう思いながら、ドアを開けると、キャンディちゃんが待っていた。しかし、
「グルル〜ッ」
あー、それと動物には警戒される。キャンディちゃんはまだマシだけど、他の動物だとな〜。
二階の自室を出て、一階のリビングへ向かう。
うちはどこにでもある二階建ての一軒家、家族は私、詩天とキャンディちゃん。
それから‥。
一階のリビングへ行くと、
「おはようございます、詩天お嬢様。まだ冬ですが、本日は、比較的暖かくすごせる日ですよ」と、普通のお手伝いロボットが、あいさつしてくれる。
「おはよー、バッさん」
そして、テーブルに着くと向かいの席から声がする。
「おはよう、テンちゃん。今日は少しばかり起きるのが遅いのう」
コーヒーを飲みながら、あいさつしているのは、普通‥‥のはずの、発明家のおじいちゃん、鞠ノ瀬 弦斎だ。
「おじいちゃん、おはよー。なんか今日はいつもよりあったかくてボーっとしちゃって‥。」
「そうかそうか。」
「あのー、お嬢様。毎回言いますが、わたくしにはセバスチャンという博士から頂いた崇高な名前がありまして‥」
「えー、良いじゃんバッさんって響きかわいいし、親しみやすいよ?」
「やっぱり、そうですかね?」
「じゃあ、なんで咎めたし。そしたら、私にだってお嬢様とかいらないじゃんね?」
「うーん、そう言われますとそうなんですが‥
そうなると、ワタクシの華麗で真摯な執事のイメージが‥‥。」
考え込むように、バッさんは黙り込んでしまう。
「ハハハッ、いや毎日こうやって刷り込むと、セバスチャンも学習して、おもしろい返しを覚えていくから、無駄ではないぞ」
「こういう会話も学習になるの?さっすが鞠ノ瀬博士!
あっ、バッさん今日は少し遅れてるから、朝食なしで!私にもコーヒーちょうだい!」
「かしこまりました。砂糖は四つ入れます。」
職務には忠実なバッさんが、入れてくれたコーヒーに口をつける。
自然と会話がなくなり、ボーッとしていると、テレビの音が聞こえてくる。
テレビでは、最近のトレンドや人気キャラのショートアニメ、占いなどが流れていた。
しかし、急にそんな日常のニュースに割り込み、速報が入る。
「緊急速報です。先ほど、国内便で機体トラブルのため進路変更し、近くの空港に緊急着陸しました。乗客に影響はなく、航空機事故には、至らなかったとの事です。その影響で‥」
「‥航空機‥事故‥‥。」
なぜか、航空機が写っているテレビ画面をみると呼吸が荒くなる。
そして、体の奥が一瞬冷たくなった。
ーーピシッ
「‥‥え?」
気づくと、右手首のバングルにヒビが入っていた。
「テンちゃん、大丈夫かい?」
とおじいちゃんが心配そうに声をかけてくる。
「おじいちゃん、急にバングルにヒビが‥‥なんかこないだ落としちゃったりしたからかな?ハハッ」
流石に、くれた本人の前なので、気まずくなり、笑ってごまかそうとしてしまう。
「おや本当だ、あーまあ、気にするな。どれ、わしがチョチョイと直しておくから預けてくれんか?」
と気にする様子もなく、私の差し出したバングルを受け取ってくれる。
「ん、ごめんねおじいちゃん。お願いします。」
それでも、なんか気まずいし、先ほど身体中を駆け巡った冷たさを追い出すように、まだ熱いコーヒーを一気に飲み干す。
「悪いけどちょうど、コーヒーも飲み終わったし学校行くね」
「わかった、気をつけていくんじゃぞ。」
「いってらっしゃいませ。詩天お嬢さま。」
そう言って席を立つとき、バングルの亀裂を見つめる祖父の口元が、笑っているように見えた。
気のせいだと思いつつも、その笑顔が家を出るまで頭から離れなかった。




