第17話: 束の間の団欒
「……お前たちルールはわかってたか?」
鬼灯はジロリと正座した俺と宵宮をみる。
「それは勿論です」
「わかってたぜ」
交互に答える。
「ルールとして、相手を倒す以外にも逃げる事による勝ち筋も用意していた。
その趣旨はその場に応じた状況判断をして、
戦略的撤退も考えろ、つまりは勝てない相手から生き残るという判断も頭に叩き込むためだったんだが…」
「……。」
「……。」
俺も宵宮も黙り込む。
その近くには、
黒羽が縮こまり白兎はボーっとしている。
「それを…」
趣旨に反したから、罰でも喰らうのだろうか?
悪い想像を働かせていると…
鬼灯が一拍置いてーー、
「ぷっ、ワハハハハハッ、
鬼ごっこって言ったろ!
なんでずっとバトルしてるんだお前たち、
レクリエーションなのに気合い入りすぎだな!」
急に爆笑しだす鬼灯に、
白兎以外の3人はポカンとなる。
「せ、先生?」
黒羽が思わず声をだす。
困惑しているようだ。
よほど鬼灯の態度が珍しいのか。
「いや、すまん。
久々に笑ったよ。
バカにしたつもりは……。
いや、それに付き合う黒羽と白兎、
お前らもバカだなっハハハッ」
さらに、鬼灯が笑う。
「あ……」
それを聞いた黒羽は、
困惑を通り越してショックで石のように固まってしまった。
「バカにするなー」
白兎だけが、両手をあげてバタバタ抗議していた。
そうあの後、火がついた俺と宵宮はあれから計3セットほどをどちらも逃げずに突っ込んで戦いに行った。
結果としては、黒羽と白兎には遠く及ばず終いだった。
しかし、あれからどちらも気絶や拘束はなく時間いっぱいに戦い続けることができた。
それこそ、俺たちが連携を意識して戦えるようになっていたからだ。
鬼灯の言う通り、格上の相手には逃げることも必要なことであるが、あの時は戦う以外に何も考えられなかった。
むしろ、なんだか清々しいくらいだった。
「確かに、
戦場では犬死にだったかもしれません」
「うん?」
話始めた俺に、鬼灯が注視する。
喋ってから、自分自身でも言葉が自然に出てしまったことに驚く。
「それでも、今回の訓練で自分の至らなさや足りないところを実感する事ができました」
ありがとうございます、と頭を下げる。
「まぁ、俺もまだまだだなと思ったわ。
だから、色々教えてくれ」
宵宮も頭を下げた。
「そうか、バカはバカなりに色々学ぶところがあったと言う事だな。
しかし、私はそんなバカ嫌いじゃないがね」
それで後悔することもあるが、
とボソッと鬼灯の声が聞こえた。
その声を聞いて一瞬黒羽が、
悲しそうな顔をしたように見えた。
こうして、鬼灯教官のレクリエーション「鬼ごっこ」は終わりを告げた。
これから、晩飯にしてくれるらしいが準備があるので先に風呂に行けと言われた。
晩飯は、黒羽と白兎が担当らしい。
風呂に入るべく廊下を歩いていると、
宵宮が話しかけてくる。
「あの白黒コンビ強かったよな」
「ああ、そうだな」
「しかも、俺たちをのしてから晩飯つくるとか、俺たち倒すの朝飯ならぬ晩飯前かよってな!」
なんか上手いようなこと言ってる。
「それはそうと大浴場みたいだな。
あの教官どれだけ金あるんだよ」
更衣室につくと結構広い。
あの部屋といい、本当に旅館じゃないのか?
準備をして、掛け湯をしてから温泉に入る。
湯船に浸かると熱すぎずちょうど良い心地だ。
温泉が身に染みて気持ちいい。
「ぐわぁ、傷に染みるぜ…」
少し離れたところで、宵宮が苦しみの声をあげる。
話を聞くと白兎にこてんぱんにされたらしい。
そう言う自分も頬の傷が染みて痛む。
こういうところはまだ人間だなと少し安心する。
しかし、黒羽はともかく白兎は切れたナイフみたいな奴だ。
以前会った時の、ボケーっとした感じからは想像できないほどの太刀筋だった。
あの超がつくほどの直感は何か秘密があるんじゃないだろうか?
第4セット目の俺のあのロケットパンチを避けるなんてどうにも……。
ぶつぶつと考え事をしていると気づく、
「………うーん」
しばらく黙っていた宵宮が、
こちらをジロジロとみている。
なんだ急に…。
「お前まさか……」
少し距離をとろうと後ろに後ずさる。
「はっ!?ちげぇよバカ野郎!?」
「いや、まだ何とか言ってないぞ?」
少し、からかってみる。
まぁ、理由は理解している。
「お前、見た目からじゃ機械だなんてマジでわからねーな」
「……そうだな」
お湯から片腕を出すと、その腕は人肌と同じ皮膚の色だ。
今の柔らかさも人間と大差ない。
しかし、戦闘時には一定の衝撃や俺の意思に合わせて硬化するようになっている。
一般の技術とは明らかに一線を画す、
世に広まっていない博士の極秘研究の産物だ。
「すげー技術だな」
宵宮はそれ以上聞こうとはしなかった。
気を遣っているのか?
「そう言う宵宮だって白兎の影から、槍とか色々出してただろ」
「まぁ、あれはミカエルの力だがな」
何故か自嘲気味に話す宵宮。
その顔は少し悲しみが見えた気がする。
俺も、宵宮の事情を考えて根掘り葉掘り聞いたりはしない。
人には話したくないこともあるだろう。
お互いに肩を並べて湯船に浸かりながら、
しばらく沈黙が流れる。
「あのよ…」
沈黙を破ったのは、宵宮だった。
「俺たち中々良いチームワークだったよな
お前は守りで、俺は攻撃」
「確かに、それは俺も思ってた」
素直な感想を話す。
「よし決めたぜ!」
そう言いながら、勢いよく湯船を立つ宵宮。
お湯が跳ねる。
「おい、急になんだよ」
抗議する俺に、宵宮はこちらを向き指を指す。
「今日からお前は、俺の相棒な!」
「は?」
あいぼう?って、相棒のことか?
「出会いは最悪だったが、
今は修行に明け暮れて同じ敵と戦う仲だろ?」
「まぁ、否定はしないが」
「だからよ、
俺はお前をこう呼ぶぜ『鋼生』とな!」
「えっ?」
なんかわかるようなわからんような、
宵宮の勢いに飲まれて理解が追いつかない。
「だから、お前も俺の事は夜斗でよろしく」
そう言いながら、
夜斗は手を差し出してきた。
「改めてよろしくな鋼生」
その差し出された手を見て思う。
確かに、出会いはあれだったが悪い奴ではないし今は同じ訓練をする仲間だ。
それに、さっきの訓練ではこいつの勢いに鼓舞された部分があったし、
互いに背中を預け合った。
そう思うと、宵宮の手をガシッと掴む。
「あー、よろしくな夜斗。
……これで良いか?」
「おう!上出来だ!」
こういうのって、
実際にやると中々小っ恥ずかしくなるな。
しかも、お互い全裸だし。
だが、夜斗は気にならない様子だ。
「これからよろしくな相棒!」
いきなり背中をバンバンと叩いてくる夜斗に、
早くも後悔しそうになった。
「ふっふーん」
温泉から上がり、
居間へ行くと白兎がドヤ顔で待ち構えていた。
そこには、
さながら旅館みたいな料理が並んでいた。
中でも目を引くのは、
綺麗に分けられた刺身の大皿だ。
「うおっ、すげーな。美味そう」
黒羽に勧められて2人で座布団へ座る。
「調理は私が、
お刺身や野菜は白ちゃんが捌きました」
「フフン、ワタシが捌いた」
「すごいな」
さすが、あれだけ刀を使えるだけはある。
包丁も得意なのか。
「もうじき、先生も来ますよ」
黒羽が言ってすぐに、鬼灯が入ってきた。
手には酒瓶を持っている。
「おっ、揃ったか」
家主が来たので、みんなで食べ始める。
以前は、訓練場所が違ったのでこうして食卓を囲む事は無かった。
少し緊張する。
「なんか、色々すいません。
温泉とか食事とか」
流石に、訓練に加えてここまでしてもらうと気が引ける。
「あぁ、気にすんな。
お前達には強くなってもらわなきゃ色々私が困るってだけだ」
「は、はぁ」
色々含みがありそうだが、
今はあえて聞かないでおこう。
「それより教官よぉ、
明日の訓練はどんな内容なんだ?」
夜斗が疑問を口にする。
それは、俺も気になっている事だ。
また、鬼ごっこみたいなものだろうか…。
「なんだ、随分とやる気じゃないか」
鬼灯が酒をグイッと飲んでから答える。
「実際、短期集中もいいところだからな。
明日はとりあえずお前達の特性ごとに、
訓練を行う」
「特性ごとに?」
夜斗が眉根を寄せる。
「片方はサイボーグ、もう片方は刻印者。
戦い方も特性も何もかも違うからな」
「確かにな」
しかし、夜斗は不満げだ。
「せっかくだからよぉ、
相棒と2人で必殺フォーメーションとか考えたかったぜ」
急にガシッと肩を組んでくる夜斗。
「あのなぁ……」
だる絡みに辟易としていると、
「えっ、お二人ともなんだか最初よりも仲が良くないですか?」
黒羽がそう尋ねてくる。
「おう!色々あったからな!」
「いっ、色々ですか!?
……そ、そういえば、
さっきは温泉に入られてましたよね。
色々…。」
黒羽がなんだか顔を赤らめて考え込む。
「いや、それ多分違うからな?」
「ああん?何が違うんだ?」
「姉の悪い癖出た」
「ハハハッ、人数多いと飯が美味いな!」
こうして、夜は更けていく。
ーー深夜、山の麓。
「おいおい、こんな辺鄙なところにいるんですか簒奪者は」
「ジルバ様の情報を疑うのか?私よ」
黒い影が2つ会話をしている。
「いやいや、そんな事はないさ私。
しかしだよ、こんなところにいるんじゃ襲って下さいって言っているようなものじゃないか」
「罠だったりして」
ハハハハッないないと同時に笑う。
「……待て」
片割れが声をかける。
先ほどとは打って変わって冷たい声だ。
「うん、何か来るね」
片割れが言うと、足音が近づいてくる。
「よう」
現れたのは、鬼灯だった。
紫の着流しには変わらないが、
その手を見ると、
一本の刀がある。
「誰だいお前は?」
「そんなのはどうでも良い」
刀を足元に刺す。
「ここより先に入るならすぐに殺す。
だが、2日後に入るのは許すし私は感知しない」
「……。」
「……。」
2体は沈黙する。
じっと、鬼灯を見つめ戦力を測っている。
やがて、雲が途切れて両方が月明かりに照らされる。
その姿は金属の体を持つ生命体だった。
白黒のボディに片方の足と腕には、
ハーレクイン柄のペイントが。
顔はバイザーをつけている。
お互いは顔を見合わせる。
「わかった、どちらにせよ結果は変わらない」
ケケケと両方が笑う。
「簒奪者の死だ」
そして、2体ともゲートに吸い込まれて消えた。
「ふぅ」
2体の道化が消えると、息を吐く。
山は鎮まりかえっている。
「時間は稼いだ…」
刀を抜いて屋敷に戻る。
あいつらを死なせないように鍛えないといけない。
でないと…、
「あんな思いは二度とごめんだ」
噛み締めるように心に言い聞かせた。




