第16話:鋼の盾、影の槍
木にもたれかかっていると、
黒羽は誰かと無線でやりとりしている。
宵宮はどれほどしごかれたのか?
白兎の腕前は見たことがない。
普段からボーっとしていて、
色々と変わった子だ。
「天目さん動けそうですか?」
通信を終えた黒羽が歩いてくる。
先ほどの冷たい感じはなくなっていた。
「あ、ああ。俺は大丈夫だが…」
「宵宮さんが気になるんですね?
白ちゃんも加減したみたいですし、
大丈夫ですよ」
「そうか」
それを聞いてホッとする。
誘った手前、ケガでもされたら寝覚が悪い。
「少しは休めましたか?
一度、白兎達と合流せよとのことです」
今の口ぶりだと先の通信は鬼灯からで、
何かしらの指示を受けたのだろう。
しかし、このまま次のセットではないのか?
しばらく、黒羽の後ろに付いていくと奥の木々がガサガサ揺れた。
「ふーっ、合流完了」
白兎が姿を見せる。
なんか抱えてないか?
白兎がその何かをゆっくりと地面に降ろす。
黒羽が近寄ってライトを当てる。
それは、宵宮だった。
所々、泥だらけでジャージが何箇所か切り裂かれている。
一体何がコイツに起こったんだ?
「白兎、これは一体…」
白兎に問いただそうとすると、
「あっ、コーセー。久しぶりー」
「あ、ああ、久しぶりだな…
それでこれはどういう状況なんだ?」
やはり、白兎と話すと調子が狂う。
それより宵宮だ。
「えーっと、斬り合って」
「斬り合ったのか!?」
「うん」
「それで?」
「最後ぶん投げたら気絶した」
「……そ、そうか」
なんか盛大に端折っているような気がするが、核心をついているような気もする。
「つまりは、手加減できたという事です」
黒羽が一言でまとめてくる。
つまり、そういうことか…。
「そうそう、そういうこと」
白兎が乗っかってどうするんだ。
これじゃあ訳がわからない。
「大丈夫、大丈夫」
白兎が着物の裾をゴソゴソして、何かを探しているようだ。そこに物入るの?
「何見てるの?エッチ」
「エッチではないぞ」
「………。」
黒羽よ、なぜこちらを無言で見る。
おかしいだろ。どう見ても。
「あった」
白兎は竹筒みたいなものを取り出す。
水筒かな?
キャップみたいなのを外して、
竹筒をひっくり返す。
「勇者よ目覚めよ」
トポポポ、と液体が勢いよく気絶している宵宮の顔にビチャビチャかかる。
「何してるんだ?」
「んー、魔法の水」
すると、うおっと声を出してから宵宮が跳ね起きる。
何その液体。
「すごい水だな、成分は何だ?」
「知らないの鋼生?
エナジードリンクって言うんだよ」
「…………は?」
「何だこれ、ベタベタすっぞ!」
宵宮が慌てて、ジャージの袖で顔を拭う。
白兎は何故か満足そうだ。
いや、何やってんのこの子は…。
つーか、竹筒の水筒でエナドリ入れんのか。
変な一幕を見ていると、
通信機からノイズがしてきた。
鬼灯だ。
「あー、聞こえてるか若人諸君。
青春は終わったかね?
黒羽のカメラから全て見ていたが…」
「それは、白ちゃんが勝手に…」
黒羽が焦る。
鬼灯の前ではタジタジになる。
「まぁいい、宵宮が目覚めた所で再開だ」
「わかりました」
黒羽が応答する。
「天目と宵宮、今回は先に指令を出しておく」
「はい」
「なんだよ」
次はどんな難題が来るか身構える。
何でも受けてやる気だ。
「それでは、今から2人で協力して凌いでいけ。協力するなら後は自由だ」
「…えっ?」
「はぁ?」
「質問や反論は聞かん。交信終了」
黒羽と白兎が目配せし合う。
これは、言うまでもなくニ対ニの流れか…。
宵宮と協力…。
一度戦った仲ではあるが、
コイツの実力はまだ計り知れない。
とりあえずはどうするか…。
「さぁ、行きますよお二人とも!」
黒羽の声で、白兎も刀を構える。
なら、俺たちも。
「おい、宵宮!」
「あぁ、なんだ?」
考えている暇は無い。
なら、すぐに対応できる方を。
「とりあえず、さっきと同じだ。
白兎は任せて良いか?」
「おう、最初からそのつもりだ!」
宵宮は既に槍を構えている。
自分もバトンを取り出す。
ジリジリと間合いを測る。
先に動き出したのは、白兎だ。
早いっ、間合いを測る暇を与えてくれない。
「俺が相手だ、かかってこいよ」
宵宮が前にでて、迎撃態勢に入る。
なんか、最初よりも真剣に見える。
2人の間で何があったのか…。
しかし、宵宮が迎撃するより先に、
白い何かが宵宮の足元に転がった。
(なんだ?)
次の瞬間、それは白煙を噴き出した。
「煙幕か!?」
……黒羽の仕業だ。
しかし、迂闊だった黒羽の姿が見当たらない。
2人とも白兎の突撃に気を取られた。
思ったより、広範囲で一気に視界が悪くなる。
前にいた宵宮の姿もわからなくなる。
しかし、こういう時こそ落ち着いて判断する。
聴覚に神経を集中すると、
誰かが近づいてくるのがわかる。
しかも、一直線だ。
なら、話は早い。
バトンを前に出して、
カウンターの体制をとる。
目の前に白い影が浮かぶ。
それは、刀を構えた白兎だった。
前にいた宵宮はスルーした?
最初から俺狙いだったのか。
……獲物を決めた目だ。
「いざ、尋常に…」
そう話しながら、容赦なく刀を振るってくる。
表情は相変わらず無表情。
しかし、この軌道は…。
ギィィンと甲高い金属音と火花をたてて、
白兎の一撃をバトンで受ける。
「ぐっ、速すぎる」
(…完全に首狙いだった)
博士の特殊合金のバトンじゃなかったら、
バトンごと首をもってかれていただろうか?
「……むっ、丈夫だね」
それでも白兎は力を緩めず、
鍔迫り合いになる。
拮抗した瞬間、バトンを片手で支えてもう片方の手で、刀を持つ白兎の手首を掴みにかかる。
「わっ、えっと」
白兎の焦ったような声とは裏腹に、
瞬時に身を捻って躱してくる。
そう簡単には捉えられないか。
一番危険な刀を振り回せないように、
直接体を掴もうかと考えた。
黒羽とは違い、明らかに殺意がある。
普段の様子とのあまりの差に恐怖すら感じる。
だが、教官のルールの通りに考えればこれも臨機応変に対応しろということだろうか…。
何にせよ、宵宮の状況がわからないので白兎の足止めが今の俺がやるべきことだ。
刀を奪えば無力化できるか?
先ほどの黒羽の怪力の例もあるので、
無手でも何かしてくる可能性もあるが…。
考えるよりも、攻めあるのみ。
白兎へ駆け出して、バトンを横薙ぎに振るう。
刀で迎撃され、激しく火花が散る。
今度は、逆に連続切りがくる。
バトンで何回か受けるも、
捌き切れずに腕や足を斬撃が襲う。
斬撃は続くほどに速度を増していく。
必死に生身の首と頭は庇いながら、
斬撃の嵐を耐える。
するとやがて、斬撃は止んだ。
体を見ると、硬化させた人工皮膚でも傷が付いている。
「!?」
なんて剣撃だ。
銃弾でも傷がつかないスペックなのに。
「ふーん、30回切ったのにすごい丈夫。
守りは固いね」
あれだけの連続切りをして、
白兎は息一つ上がっていない。
対してこちらは息も絶え絶えで、
傷だらけだ。
「でも、攻めは全然だね。
ナイトの方が面白い」
何故か自慢げに伝えてくる白兎。
たしかに、宵宮は色々やってきたな。
それに比べて俺は単調な攻めだ。
しかし、何か少しヒントを得た気がする。
そう思っていると、宵宮がいた方からドゴンと地響きが聞こえたかと思ったら、
数回の金属音が響き渡る。
中々、やり合ってるみたいだ。
すると、薄まった煙の向こうから2人が出てきた。
「何だよ、あの馬鹿力は…」
宵宮だ。
苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「逃しませんよ」
クナイを持つ黒羽も現れた。
すると、あちら2人もこっちに気づいたようだ。
「おっ、天目かボロボロじゃねーか」
「白ちゃん大丈夫ですか?」
それぞれ、相手を警戒しながら近くに寄ってくる。
「お前も人のこと言えない感じだが」
「夜だから元気」
お互いに言葉を交わす。
再び状況が戻る。
2対2…。
お互いに向き合う。
少しの静寂の後、
先に動いたのはまたしても黒羽と白兎だった。
「白ちゃんあれやりますよ」
「わかった」
2人が短い言葉をかわすと、
先に白兎が走ってきた。
「来る」
宵宮と2人で身構える。
白兎が刀に手を掛けると同時に、それより背後から無数のクナイが高速で飛来する。
「なっ!?」
白兎に気を取られ過ぎて、反応に遅れる。
…なら。
黒く硬化した腕をクロスさせて、頭を守る。
俺の頭は生身のため致命傷になる。
クナイはギィィンと激しい音を立てて、
腕に弾かれた。
宵宮は最小限の動きで躱す。
その勢いで、すぐ迫っている白兎を迎撃しようと動こうとしたところーー
不自然に急に動かなくなる宵宮。
「おい、どうした!」
宵宮に声を掛ける。
「!?動けねぇ」
見ると、足が地面に縫い付けられたように動けなくなっている。
見るからに不自然だ。
黒羽の仕業という以外に理解が及ばない。
それよりも、一瞬先の脅威ーー、
「くそっ」
咄嗟に、宵宮を庇うように前へ出た。
バトンで白兎を迎えうつ。
「天目、お前…」
「お、やるね…」
白兎の高速連撃がくる。
後ろに宵宮がいる。
一歩も引かない。
そのまま斬撃の嵐に飲まれる。
目で追える限りの斬撃はバトンで受け流す。
それ以外は硬化させた体で一身に受ける。
体から血はでないが、頭部はほぼ生身なので裂けた頬からは赤い血が流れる。
「ぐっ…くそっ」
何撃目かわからない猛攻を受けて、
意識が薄くなってくる。
宵宮は無事だろうか?
「……すまねぇな、天目」
薄れる意識で、宵宮の声を聞く。
「攻めは俺に任せろ」
「!」
白兎が何かに気づき、斬撃を止める。
瞬間ーー、
白兎の足元の影から、無数の黒槍が突き出す。
それより先に、白兎は後ろに飛び跳ねていた。
白兎と距離が空いて、俺は地面に膝をつく。
宵宮が隣に立つ。
「さぁて、余計な拘束はないぜ」
槍を構えて叫ぶ。
「こっからは俺たちのターンだ」
まったくこいつは…
カッコつけたがりかよと思いながら、
全力で足に力を込めて立ち上がる。
「あぁ、行こうぜ」
なら、こっちもカッコつけるだけだ。
「へっ、上等だ」
肩で息をしながらバトンを構える。
「そらよ、さっきの仕返しだ!」
宵宮が槍を空中に出して、
白兎よりも上の方を狙った。
外したのか…いや、狙いは別だった。
槍は木々にあたり枝を払っていく。
やがて、ギィィンと甲高い音がなり人影が降りてくる。
「隠形中に…なかなかやりますね」
黒羽が降りてきた。
両手にはクナイを持っている。
再び膠着状態となると思ったが、
今度は宵宮が前に出た。
「おらぁ、行くぜ天目!着いてこい!」
勢いに乗ってハイになってやがる、
自然と悪い気はしない……だが、しかし、
「いや、違うぞ。お前が着いてこい!」
さっきまでの疲労が嘘みたいに、
無理やり体に鞭を打って走り出す。
「…同時にきますか」
「面白そう」
2人とも俺たちが駆け出したのに合わせて、
迎撃の構えをとる。
苛烈な訓練だ。
だが――
不思議と悪くない。
隣には、槍を構えた宵宮がいる。
盾が守る。
槍が突く。
単純だ。
だが――それでいい。
機械の体だが、それでも体が熱くなり血が滾ったように感じた。




