第15話:白い衝撃
天目と別れてから、だいぶ走ってきた。
もうとっくに3分は経ったはずだ。
「ちっ、こりゃあ天目の方に行ったか…」
あの女、黒羽とかいったか。
最初に会った時の身のこなし、
ただものじゃ無かった。
という事は天目のいう通りあの鬼灯と名乗った教官はさらにバケモンってことになる。
戦ってみてぇな。
しかし、まずはこのまどろっこしい鬼ごっこを終わらせなければならない。
何セットやるかもわからんし、
指令とやらもいちいち面倒だ。
「よぉ、そろそろ起きろや」
内にいるミカエルに話しかける。
すると、頭の中に声が響く。
「先ほどから起きている」
「今日はいつもより無口じゃねーか」
いつもなら、呼んでもないのに出てきて鬼灯達に挨拶でもしてるもんだが。
「長期戦になるようだからな、
余計な力を使わない。
健闘を祈る」
「何だよ待てよ」
一方的にいうだけ言って引っ込みやがった。
まぁ、アドバイスとか説教はごめんだが。
これは俺の戦いだ。
しかし、黒羽が天目のところに行っちまったら俺は逃げるだけじゃねーか。
アイツがすぐにのされちまう可能性もゼロではないが。
やる気はあるのに、
戦う相手がいない事に苛立つ。
「ちっ、これじゃつまんねーよな…」
十分に屋敷から離れた所で、歩きに変える。
「そんなに戦いたいの?」
「そりゃそーだろ、強くなりに来たんだからな」
「ふーん」
シャァと何かの擦れる音がする。
そして、一拍空いてポトっと何かが落ちた。
「じゃあ、掛かってきなさい」
独り言を呟いていた宵宮が暗がりを見ると、
ちょうど月を遮っていた雲が流れる。
すると月明かりで、視界が明るくなる。
そこには、刀を構える白い影がいた。
「…………あぁ?」
「…………えっ?」
何この状況。
誰だよコイツ。
なんで戦闘体勢?
白い影はよく見ると、
薄い灰青色の着物を着た白髪の少女だった。
少女はこほんと一つ咳払いをしてから、
「ルール三つ目だよ」
チャキッと刀を構え直し、体勢を低く構える。
「ちょっと待て、いきなりやる気かよ」
そうは言いつつ宵宮も、瞬時に影の槍を形成して迎撃体制に入る。
俺だってやりたくてウズウズしてたんだ。
「行くよーー」
そう言った瞬間、視界から白い人物が消えた。
「!?」
一瞬、驚くがギリギリ目で追えている。
「上だろっ!」
ギインッと、宵宮の頭上で激しい金属音が鳴り響く。
一瞬で跳躍して、宵宮の頭上をとってきた。
なんつースピードだ。
スピードもそうだが、何よりも驚くのはコイツ真っ先に俺の首を狙ってきやがった。
自分の反応が一瞬でも遅かったらと考えると、
首元に冷や汗が滲む。
「まずは、挨拶代わりってか?」
「んー、まぁそんなところ」
なんの悪びれもなく、普通に答えてくる。
軽口のつもりだったが、
どうにも先ほどからペースを乱される。
「お前が白兎か?」
一応念のため、名前を尋ねる。
「…これを凌いだら教える」
白い人物は再び体勢を低くするが、
今度は刀を鞘に収めた。
まさか、次の攻撃はーー
宵宮が反射的に構えた直後、
手の中の槍が真っ二つになる。
超速の居合い切り。
太刀筋は全く見えなかった。
居合いというのも、槍の状態と白い人物の構えからの推察にすぎない。
追撃がくると思った時には、
すでに影から別の得物を作っていた。
影の鉤爪で切り返しを弾く。
「うぉぉぉっ」
さらに追撃で、連続切りがくる。
弾くたびに鉤爪が砕かれるが、
咆哮と共に、砕けたそばから新たな鉤爪を作り対処する。
十三撃。
それで斬撃の嵐は止んだ。
一太刀ごとに、確実に急所を狙っていた。
迷いが一切なかった。
子どもが花を摘むみたいな自然さで。
考えると、こいつ十三回俺を殺そうとしたってことだ。
「……うーん、十三回で足りると思ったのに」
「はぁっ、はぁ……
お前いい感じでイカれてんな。
最初からギア上げすぎだろ…」
片膝をつき肩で息をしながら、
悪態をつく。
「……いい感じ…褒められた」
何故そこで嬉しそうなんだよ。
「皮肉とノリで言ってんだよ。
褒めてねぇ」
「ちぇーっ」
話が通じてんのか、
通じてないのか妙なペースの奴だが……。
一つ言えるのは…。
(こいつは、マジで強ぇーぞ…。)
斬撃を捌くのに無我夢中だったが、
改めて観察すると隙はうかがえない。
背筋に緊張が走ってきやがる。
「……白兎。私の名前。
アナタはナイトでしょ?
さっき姉から聞いた」
やはり、黒羽の妹の白兎か…。
通りで黒羽は森の方から走ってきたのか。
「そう、宵宮夜斗だ。
つか、斬り合ってからの自己紹介かよ。
食ってから手ェ洗うみてぇに今更だな!」
「何それおもしろい」
しまった、つい余計なこと言っちまった。
白兎はこの状況で、ふふふっと笑う。
表情筋はあまり動かない独特な笑い方だ。
それでも隙は見せない。
「……話しててちょっとは休めた?
続きする?…逃げるのも可」
「ざけんなっ、まだ本気出してねーよ」
挑発に乗るように、
宵宮の手元と周囲の空中に黒い槍が出現した。
空中の槍は白兎に槍先を向ける。
「わーお、沢山出てきた。びっくり」
手のひらを挙げるジェスチャーをして、
驚きを表す白兎。
小馬鹿にしてんのか…。
「あんま、舐めてっとケガするぜ!!」
宵宮の叫びとともに、
空中の槍が一斉に白兎へ向かい射出された。
高速度での一斉掃射。
先の、天目の時すらやらなかった攻撃。
まともに受ければ手足に風穴が空くだろう。
激しい音と、衝撃の後土煙が上がる。
その中心に人影がいる。
「これ何の素材でできてるの?」
飛来した槍を手に持ち、
しげしげと眺める白兎。
手にした槍以外は切断されたのか、
真っ二つになって無数に転がっている。
「はぁ?何だそりゃ?」
あの速度の槍を切り落とすだけじゃなく、
素手で掴んだのかよ。
マジでメチャクチャな奴だ。
しかし、今がチャンスだ。
よく見ると、刀は地面に転がしているし、アイツが手に持ってる槍は俺の能力で…。
驚いたが、判断は早かった。
槍を構えて白兎へ突進する。
対して白兎は、手にした槍を構えようとする。
ーー今だ。
宵宮は地面に転がる槍の残骸とーー
白兎の持つ槍を元の影へと還した。
「あっ」
一瞬目を見開く白兎。
手には何も握っていない。
槍の先が迫る。
「もらったぁ」
宵宮がとったと思った瞬間ーー、
白兎はふらりと寸前で槍先を躱し、
槍の柄部分を掴むと、
「そいやっ」
「はっ?うおおおおっ」
宵宮の突進の勢いを利用して、槍を握ったままの宵宮ごと投げ飛ばした。
飛ばされた宵宮は、奥にあった木に背中から上下逆さまに激突した。
「ゴフッ、無手でも戦えんのかよ……」
そういうと、ズルズル木から落ちてきて落下した。
……こんなダメージ最近受けたな。
そんなことを思いながら宵宮の意識は遠のいていった。
少しの間の後、スタスタと白兎が歩いてきて、
「ふーっ、危なかったぁ」
そう言いながら、白兎は倒れた宵宮の脈を確認していた。
白兎は落ちていた刀を拾い、鞘に納める。
「姉に怒られちゃう。
ちゃんと“加減”しろって言われてたのに」
白兎は切り株に腰掛けて、無線機を出す。
まずは鬼灯に連絡を入れる。
ノイズが走り、繋がらない。
ちょっと遠くまで離れすぎたか。
ちょっと移動しよう。
そう言って近くで気を失っている宵宮を軽々と担ぎ上げて歩く。
歩きながら空を見ると、
「…月が綺麗。
やっぱり夜は良い」
空には大きい満月があり白兎の白髪を照らす。
そう呟きながら、担いだ宵宮の首元を無意識に支え直す。




