第13話:波乱の幕開け
来て早々、少し不機嫌そうだ。
「悪いな、急に連絡して」
一つ提案があり、連絡を入れてみた。
正直、断られると思っていたが。
「まぁ、提案に乗ったのは俺だしな。
それよりも、話は本当だろうな?」
疑わしげに、顔を覗き込んでくる。
「あぁ、信じられんだろうがこれが本当にいるんだ」
「お前に戦闘訓練を施した、人間離れの鬼教官ねぇ。
実際に俺と戦ったお前が言うから信じるが、
それなりに歯応えありそうじゃん」
軽い調子だが、あの人の前では失礼を働かないだろうか?
今のような事を本人の前で言ったら大変なことになるぞ…考えただけで身震いする。
「あん?どうした?」
宵宮が不思議そうに、尋ねる。
「いや、何でもない。それよりも行くか」
2人で連れ立って、電車に乗る。
もともと、都心ってわけではないベッドタウンなので、方向によっては1時間しないくらい電車に揺られれば目的地に着く。
「なぁ、宵宮の制服って北高だよな?」
手持ち無沙汰なので、話題を振ってみる。
北高といえば、不良が多いことで有名な高校だ。
詩天の話では、最近も北高の生徒がバイク事故を起こしたらしい。
「ん?ああ、不良の溜まり場の北高だぜ」
何故か少し誇らしげに答える。
そもそも宵宮の見た目は、青髪のウルフカットで黒のインナーカラーも入っていて、ピアスまでつけている。見た目で判断したくないが、こいつもしかしてーー。
「ブルードラゴンってチームに所属してんだよ。ブルーの夜斗って巷じゃ有名だぜ?」
「そ、そうなのか。聞いたことあるかもな」
やっぱり不良グループ所属なのか…というかどこの巷で有名なんだよ…。
普通に不良チームの話題とか聞きたくないので、いち早く話を終わらせようと適当に合わせるがーー
ーー目的の駅へ到着後。
「ーーってなわけで、俺の活躍によってブルードラゴンが北高一のグループになったわけよ!」
(あー、全部聞いてしまった。正直しんどい)
北高の派閥やそこでの宵宮の立ち位置に詳しくなってしまった。
喧嘩に明け暮れた宵宮は結構な不良らしいな。
電車を降りて、2人でホームに降り立つ。
「ここからは、あの山を歩いていくんだ」
指をさす先には、木々が生い茂った山がそびえ立っている。
「おいおい、まじか」
確かに、いきなり呼び出されて山登りさせられるのだから当然の反応だな。
逆の立場でも同じ反応をするだろう。
駅を出て、山の麓まで来た。
近くまで来ても、案内板や登山口の類もない。
「登山道とかないのか?」
宵宮が不思議そうに辺りを見回している。
当然の反応だろう、観光地のような山々は先達が整備して登りやすくしてるのだから。
「残念ながらないぞ、観光地でもないし、普段人が登らない完全な私有地だからな」
そう、この山は私有地なのだ。
あの教官の。
「あー、ますますどんな奴なんだよお前の教官」
話しながら、さっそく麓を歩き始める。
秋空の下、落ちた枯れ葉を踏みながら斜面を歩く。
以前も感じたが、この山に一歩足を踏み入れると、なんだか大自然そのものに拒まれているような感覚を覚える。
何というか人の手が全く加わっていない独特の威圧感というか、雰囲気がある。
空気を変えようと、宵宮に先ほどから気になっていたことを質問する。
「そう言えば、話しかけて来ないけど、ミカエルはどうしたんだ?」
「あぁ、アイツか?昨日の俺の力の使いすぎと、複数人に念話で喋りすぎてダウンしちまってる。今日は出てこないかもな」
「そうなのか」
確かに、昨夜の宵宮は力を行使していたし、念話と言われるもので俺たち複数人に話していた。ミカエルの声も聞こえる人と聞こえない人がいるみたいだから、普段聞こえない人に合わせて調整したのだろうか?それなら、疲弊しても無理はないのかもしれない。
そう考え込んでいると、
今度は逆に、宵宮が質問してくる。
「俺からもいいか?そもそも何で俺まで誘ったんだ?俺が言うのもアレだが、昨日いきなり襲ってきた奴だぞ」
確かにそうだ。
理由はあったが、昨日いきなり襲われたのだ。
普通の思考なら昨日の今日で、こんな風に一緒に歩く中にはならない。
しかし、周りの状況からしてもう普通の日常ではないのだ。
なら、こんな状況になってもおかしくないのかもしれない。
しかし、それだけではなくーー
「ーーまぁ、実際話してみて宵宮は悪い奴じゃなさそうだし、お互い強くなればそれだけ詩天の安全も高くなるからってところかな」
それを聞いた宵宮は、頭を掻きながら
「そうかよ、納得いったぜ。
大事な女のためってわけな」
宵宮が「これか?」と言って、小指を立てる。
「ち、ちげぇよ。ただの幼馴染だからなそんな関係じゃ断じてない」
コイツは急に何を言い出すんだ。
必死に否定を試みる。
すると、宵宮がニヤニヤしていた表情を変えて真面目な表情と声音で、訊ねてくる。
「でも、命張れるだけ大切なんだろ?」
「……当たり前だ」
「そっか」
宵宮はそれ以上聞かずに黙って歩き始めた。
それ以降は、軽口は言い合うが真面目な話はせずに歩くのに集中し、中腹を超えて山頂に到達しようとしている。
全く整備されていない、足場の悪いほぼ未開拓の山中を歩いてきた。
それでも、お互いに息切れ一つしていない。
かたやサイボーグ、かたや刻印者だ。
身体能力が常人とはかけ離れている。
「おっ、ようやく山頂だな。
ん?なんか建物あんじゃん。」
全く疲れた様子がない宵宮が呟く。
木々の間から前方には、立派な武家屋敷が見える。
「教官の住まいだ。ここからは、失礼のないようにな。世話になるんだし、命に関わる」
「へいへい、わかってるよ。大袈裟だな」
宵宮と並び歩いて屋敷の玄関口へ行く。
すると後ろから女性の声に呼び止められる。
「あのっ、どちら様ですかー?」
驚き後ろを振り向くと、黒の着流しを着た、同年代ぐらいの黒髪ポニーテールの少女が佇んでいる。
声をかけられるまで、後ろに人の気配をまったく感じなかった。
宵宮も似たような反応をしている。
「黒羽か。相変わらず気配が薄いな…」
「えっ、天目さんですか!?
お久しぶり…でもないですかね。
お隣の方は?」
紫の瞳で見つめてくる。
若干、警戒しているように見えた。
「えっと、色々訳があって今日から一緒に教練を受ける宵宮だ」
「おう宵宮夜斗だ。よろしく」
「よろしくお願いしますってそうなんですか!
先生からは何も聞いてないですよ…」
黒羽が驚く。相変わらず教官は適当らしい。
黒羽にも伝えていないとは…。
「そうなのか…。白兎と教官は?」
話しながら、玄関へ通される。
靴を脱ぐと相変わらず長い廊下が続いている。
「白ちゃんは夕方なので、
どこかフラフラしてると思います。
先生は自室にいるので、ご案内します」
「ありがとう」
歩きながら、宵宮が訪ねてくる。
「(白兎って誰だ?)」
「(黒羽の妹だ。姉妹揃って教官の教え子で、3人で暮らしてる)」
「ふーん」
何度か廊下を曲がった後に、ようやく目的の部屋に着く。
「先生、お客様が到着しましたよ」
「おう、入れ」
部屋の主から許可がでたので、黒羽が部屋の襖を開ける。すると広い空間で畳が続いている。奥にはソファーに座っている人物がいた。
「よう、1ヶ月ぶりくらいか天目。
隣は宵宮でいいのか?」
肩までの茶髪に、紫の着流しを着ている女性が、手を挙げて気さくに話しかけてくる。
しかし、その態度とは裏腹に威圧感がひしひしと伝わってくる。
鬼灯紫苑。
俺を約4ヶ月教練してくれた教官だ。
「お久しぶりです。鬼灯教官」
「…宵宮夜斗だ」
それぞれ鬼灯に挨拶する。
その金色の眼に真っ直ぐ射抜かれると、全身に緊張が奔る。やはり、この人の眼は何故だか慣れない。全てを見透かされているような気がする。実際、初めて会ったときには、この機械の体を即座に看破されている。
「よぉし、挨拶は済んだところで」
立ち上がった鬼灯が、俺たちを交互に見る。
一体何をするのか…?
「鬼ごっこやるぞ」
鬼灯の目が一瞬光った気がした。
言葉の意図は分からないが、確実にやばいことだと感じ、全身が総毛だった。




