第十二章(3):誓いの夜
【この章について】
この章には、物語の展開上、大人向けの表現(R15)が含まれます。
苦手な方、不快に感じられる可能性のある方は、この先の閲覧をお控えください。
ルシアン様は、私の手を握ったまま、ゆっくりとバルコニーから部屋の中へと戻った。
部屋の明かりは、温かいオレンジ色に落とされ、大きなベッドが、私たちを優しく招いている。
私の心臓は、再び高鳴り始めた。
今度は、喜びと、少しの緊張が混じり合った、甘い鼓動だ。
ルシアン様は、私の目の前で立ち止まると、そっと私の頬に触れた。
彼の指先が、私の肌を優しくなぞる。
「セラフィナ…」
彼の声が、甘く響く。
蒼い瞳が、私をまっすぐに捉えていた。その瞳の奥には、深い愛情と、抑えきれないほどの熱が宿っている。
私は、彼の瞳を見つめ返した。
もう、逃げる場所なんてない。
逃げたいとも思わない。
ただ、この温かい腕の中に、身を委ねたい。
ルシアン様は、ゆっくりと顔を近づけてきた。
吐息がかかるほどの距離で、彼の甘い香りが私を包む。
そして、彼の唇が、私の唇にそっと触れた。
最初は、優しく、触れるようなキスだった。
けれど、一度触れ合った唇は、次第に熱を帯び、彼の瞳に理性の箍が外れたような光が宿ると、深く、激しく、私のすべてを奪うかのように絡みついてくる。
吸い上げられるようなキスの嵐に、私の肺から空気が根こそぎ奪われていくのが分かった。
「ん…っ、ルシ…アン、様…っ…ふ、ぁ…!」
息が、できない。
頭がくらくらする。
まるで飢えた獣のように、理性を手放したルシアン様は、何度も何度も、貪るように私の唇を奪い続けた。
そのあまりの激しさに、私の体は震え、膝から崩れ落ちそうになる。
「すまない、セラフィナ…っ」
ようやく唇が離れた瞬間、ルシアン様は荒い息を吐きながら、懺悔するように呟いた。
彼の蒼い瞳は、熱に潤み、普段の冷静さはどこにもない。
「こんなにも、自分が律せないとは…」
彼の声は、苦しげに、そして深く、私の心臓に響いた。
ルシアン様は、私を抱き上げると、その熱い視線で私を見つめたまま、ゆっくりとベッドへと運んだ。
柔らかなシーツに身を沈めると、ルシアン様が優しく私を抱きしめる。
彼の腕の中で、私は安堵と、そして満ち足りた幸福感に包まれた。
彼の大きな手が、私の髪をそっと撫で、その指先が首筋を優しく辿る。
肌に触れる彼の温もりが、私の心臓をさらに速く打たせた。
「ちょっと待って…ルシアン様、ずるいですよ。なんでこんなに、上手に……!?」
思わず、私の口からそんな言葉が漏れ出た。
(この指の動き、すごく慣れてるように感じるのは、気のせいだろうか?私だって、こんな展開、心臓が全然追いつかないのに!)
ルシアン様は、私の言葉に、ふっと小さく笑みを浮かべた。
その笑みには、普段の彼からは想像もつかないような、悪戯っぽい光が宿っていた。
「ああ、お前も読んでいた『薄い本』とやらで、俺とお前が題材になっているものを読んだ」
彼の言葉に、私の全身が凍りついた。
(え…? 薄い本!? ルシアン様が!? しかも、読んだ!?!? え、しかも私たちが題材に…!?!?)
「セラフィナは、こういうことをしてほしいのだろう? お前の望みなら、いくらでも叶えてやる」
( いやいや待って!あの本の作者は私じゃないし、それを「お前の望みなら」とか言われても、なんかものすごく勘違いされてません!? ちょっと待って、ルシアン様、落ち着いて! 読んでいたのは私ですけど、書いてませんからー!! しかも、その内容を現実で再現しようとしないでください、心臓持ちませんってばー!)
彼の蒼い瞳が、私を深く見つめる。
その瞳の奥には、彼がどれだけ私のことを知り尽くしたいと願い、どれだけ私を愛しているかが、痛いほどに伝わってきた。
「…やっとクリスマスプレゼントをもらえる…」
ルシアン様は、荒い息を整えながら、熱に浮かされたような声で呟いた。
その声には、以前私に「お前を俺へのプレゼントにしてくれないか」と言った時の、あの純粋な響きとは異なる、はっきりと私を求める熱が宿っている。
興奮しているのが隠せない彼の目は、普段の落ち着きとはまるで違い、獲物を捕らえるかのようにギラついた光が混ざっていた。
(ル、ルシアン様がそんなこと言うなんて! クリスマスプレゼントって、あの事覚えてたんですか!? しかも、目が、目が! いつもの高潔な眼差しに、獲物を捕らえるような、ギラついた光が混ざってるんですけどー!?! こんなルシアン様、初めて見た! と、尊い…っ!!)
ゆっくりと、ルシアン様が私から少しだけ身を離した。
私の上にまたがるようにして、彼は月明かりを浴びて輝く、彼の銀白色の長い髪が、シーツの上にさらりと広がる。その何本かが私の頬に触れ、ひんやりと、そしてくすぐったい感触に、思わず体が震えた。
そして、彼は、ゆっくりと、無造作にガウンの紐を解いた。
滑らかな絹の生地が、彼の肩から滑り落ちる。
露わになった、鍛え上げられた胸板、隆起した腹筋、そしてしなやかな腕の筋肉。
日々の鍛錬と、何よりも世界を護るための戦いを経て培われた、完璧なまでに引き締まった体つきは、月光に照らされ、神々しいほどに美しかった。
(ひええええええええええええええっ!?!? ルシアン様の上半身、ま、まさかの公式供給、しかも全裸バージョン!?!?!? 筋肉のつき方、最高すぎませんか!?! この引き締まり具合、まさに「理想の推しボディ」が目の前に…! この眼福、拝んでいいんですか!? いや、むしろ、拝まないともったいない!!! しかも、あのサラサラの髪が、こんな時に限って色っぽく散らばるとか、もうっ…鼻血出そう…いや、もう出てるかも…!!)
私の脳内では、まるでライブ会場で推しの完璧な肉体美を目の当たりにしたファンが絶叫するかのような悲鳴が響き渡る。
萌えの供給過多で、理性と本能が綱引きをしているが、本能が圧倒的に勝っている。
このままでは、私が召される!
ルシアン様は、私のそんな内心を知ってか知らずか、私を見つめる瞳は、ただひたすらに優しく、そして、どこまでも深く、私を求めていた。
彼の熱い視線が、私の全身を焼き尽くすかのように感じられた。
「セラフィナ…お前に優しくできるか…正直、自信がない」
彼は、甘く、低い声でそう告げると、ゆっくりと私の上に、その熱い体を重ねてきた。
ルシアン様の荒い呼吸と、私を抱きしめる腕の微かな震えが、彼の高揚を如実に物語っていた。
何も身に着けていない彼の肌は、月明かりの下でさらに白く輝き、そこに落ちる髪の影が、たまらなく官能的だった。
その熱い体は、まるで沸騰寸前の湯のよう。
彼は、ただ静かに抱きしめ続けていたが、その様子は、今にも決壊しそうなダムのように見えた。
(ああ、そうか…ルシアン様はずっと、ずっとこの瞬間を待っていたんだ。一度、二度、そして三度目の結婚式。その度に、彼は私のことを思い、どれほどの熱情を、この高潔な理性で押し殺してきたんだろう。決して余裕があるわけではない。ただ、私を傷つけまいと、必死に自分を律しているのだ。)
彼の顔が私の首筋に埋められ、熱い吐息が触れる。
「セラフィナ…三度の婚礼を経て…俺は、今日まで…どれほど…」
言葉にならない彼の声に、張り詰めていた彼の理性の糸が、今にも切れそうなのが分かった。その声は、純粋な喜びと、長年の切望が混じり合い、私への深い愛を痛いほどに伝えていた。
彼の体は、喜びと焦燥で震えている。
(ルシアン様…)
私は、彼の背中に回した腕に、そっと力を込めた。
この人の真っ直ぐな愛情を、今こそ、全身で受け止めなければ。
彼の胸に顔を埋め、深く、彼の香りを含んだ息を吸い込む。
私の心臓は、彼と同じように激しく脈打っていた。
ルシアン様は、私の唇に再びそっと口付けた。
今度は優しく、慈しむようなキスだ。
彼の舌が私の唇をなぞり、そっと内側へと誘い込む。
互いの甘い息が混じり合い、温かい溶け合うような感覚に、私の体は痺れた。まるで、長く孤独な旅の終わりに、ようやく辿り着いた安息の場所であるかのように、二人の唇は離れることを知らなかった。
触れるたびに深まるキスの合間に、私たちは何度か、互いの想いを確かめるように深く息を吸い込んだ。
キスの合間に、彼の指が私のネグリジェの華奢な紐に触れた。
ゆっくりと、それはまるで宝物を扱うかのように繊細に、彼の指が解いていく。
するりと肩から滑り落ちる生地の感触に、ゾクッと甘い震えが体を走った。
夜の涼しい空気が露わになった肌を撫でる。
けれど、それ以上に、ルシアン様の熱を帯びた視線と、彼の手の温もりが、私の全身を包み込み、すべての感覚を支配した。
彼の視線が、私の顔から震える首筋、そして胸元へとゆっくりと降りていく。
彼の指先が、私の肌の上を滑り、露わになった鎖骨のくぼみをなぞった。
その指の動きに、私の呼吸はさらに浅くなる。
「セラフィナ…お前は…本当に、美しい…」
ルシアン様の声が、掠れて聞こえる。
その声は、渇望と、同時に深い畏敬の念に満ちていた。
彼の蒼い瞳は、ただひたすらに私だけを映し、その中に迷いや戸惑いは一切なかった。
彼の頬が、私の首筋に触れ、熱い吐息が私の肌を粟立たせる。
彼の手が、そっと私の腰を抱き寄せた。
彼の逞しい腕が私の体をしっかりと引き寄せ、二人の間にあったわずかな隙間さえもが消え失せる。
彼の温もりと、そして彼のすべてが、私の中に深く、深く溶け込んでいくようだった。
「ルシアン様…時空も超えて、三千年という時も超えて…やっと、やっと、あなたに会えました…っ」
私の瞳から、止めどなく涙が溢れ出した。
それは、前世からの長い旅路と、ようやく辿り着いた幸福への、安堵と感謝の涙だった。
ルシアン様の腕の中で、私はむせび泣き、彼の肩に顔を埋めた。
ルシアン様は、そんな私をそっと抱きしめ返し、私の髪に口付けた。
「ああ、セラフィナ。俺もだ。三千年の孤独を超え、この時空で、お前と巡り会えた…これは、奇跡だ。そして、お前が、俺のすべてだ」
彼の声もまた、熱に潤み、深く震えていた。
その言葉一つ一つが、私の心に深く染み渡り、涙をさらに誘った。
月明かりが、ベッドに横たわる私たちを静かに照らす。
二つの影が一つになり、まるで最初からそうであったかのように、完璧に重なり合っていた。
互いの鼓動が、一つに溶け合うように響く。
この夜から、私たちの物語は、新たな、そして最も甘美な章へと進んでいく。




