第十一章(4):安堵の涙と誓いのキス
その様子を、私たちはただ見守っていた。
アルドロンさんも、カスパール君も、ローゼリアちゃんも、そして私も。
皆の頬には、温かい涙が伝っていた。
ルシアン様が、ご両親の愛に包まれる姿を見て、私たちもまた、深い感動と安堵に包まれていたのだ。
アルドロンさんが、涙を拭いながら、城の奥から駆け寄ってきた聖騎士団の王アシュレイ様に声をかけた。
「アシュレイ殿! リリアとリルは…無事か!?」
アルドロンさんの声は、安堵と、かすかな焦りを含んでいた。
アシュレイ王は、深く頷き、城の地下室の方向を指し示した。
「はい、アルドロン様! お二方とも、地下の避難所に!」
その言葉を聞くや否や、アルドロンさんは口元を綻ばせ、迷うことなく城の中へと駆け出していった。
きっと、愛する妻たちを抱きしめに行くのだろう。
彼の背中からは、今まで見たことのないほどの温かい愛情が溢れていた。
隣を見ると、カスパール君が、ローゼリアちゃんの震える手をそっと握りしめていた。
ローゼリアちゃんは、感極まったようにカスパール君の肩に頭を預け、二人は世界が救われたことに深く安堵しているようだった。
(よかった、みんな無事だ…! 世界も救われたし、ルシアン様もご両親と会えたし…もう、最高かよ…! 今日は何の日!? 祝日決定! 国民の祝日、ルシアン様記念日!)
私の脳内は、再び喜びのスキップを始めていた。こんな大変な戦いを終えた直後なのに、なぜか妙にテンションが上がっている自分がいる。
その時、一歩、また一歩と、誰かが私の元へと近づいてくる足音がした。
顔を上げると、そこには、漆黒の魔王の威圧感はどこにもなく、銀色の髪が陽光に輝く、いつもの端正な顔立ちのルシアン様が立っていた。
彼の蒼い瞳は、私をまっすぐに見つめている。
ルシアン様は、私の目の前で歩みを止めると、何も言わずに、ただそっと私の頬に触れた。
彼の指先は少し冷たかったけれど、その温もりは、私の心にじわりと染み渡る。
「セラフィナ…」
彼の声は、ひどく優しい響きだった。
戦いの激しさも、魔王としての威厳も、今はそこにはない。
ただ、私を慈しむような、深い愛が込められている。
「ルシアン様…」
私も彼の頬に手を伸ばし、涙で濡れたその肌に触れた。
彼の瞳の奥に、私だけを映す光があることに、胸が締め付けられるほど愛おしさを感じた。
「よく…護ってくれた…」
ルシアン様は、そう言うと、私の体をそっと引き寄せ、額を合わせてくれた。
彼の温かい吐息が、私の頬をそっと撫でる。
(近い、近いよルシアン様! 心臓が跳ねる! 顔が良い! 息遣いが聞こえる! キスは何度かしてるけど、やっぱり慣れないな…!)
私の脳内は、興奮で少しだけパニック状態だった。
さっきまでの感動もどこへやら、一気に「推しとの至近距離」という新たなステージに突入していた。
ルシアン様は、そんな私の内心を知ってか知らずか、ゆっくりと顔を上げた。
彼の瞳が、私の唇を捉える。
そして、優しい眼差しを向けたまま、そっと私の唇に触れた。
彼の唇が、私の唇にそっと重なる。
柔らかく、甘い感触が、私の全身に電流のように駆け巡った。
ルシアン様の吐息が混じり合い、私の中のすべての感情が、その優しい触れ合いに溶けていくようだ。
深い愛情と、戦いを共に乗り越えた絆、そして未来への確かな誓いが、唇を通して伝わってくる。
私とルシアン様の間にあった、あらゆる隔たりが消え去り、心が一つになるのを感じる。
「え、ルシアン様……?!」
カスパール君は、呆然と口を開け、信じられないものを見るような目で私たちを見つめている。
彼の顔は真っ赤だ。
隣のローゼリアちゃんは、顔を真っ青にして、まさに膝から崩れ落ちようとしていた。
瞳には涙が溢れ、その唇が震えている。
「あ…あの……、そんなことが……、存在…するのですか……?」
声にならないような呟きが、ローゼリアちゃんの口から漏れた。
彼女のピュアすぎる反応に、私は思わず噴き出しそうになるのを必死で耐えた。
ごめんローゼリアちゃん、これも異世界の文化なんだ…。




