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転生したら推しが魔王様になってた件~④三度の結婚式は大パニック!  作者: 銀文鳥


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第十章(1):目覚めへの叫び、外なる世界の危機


ルシアン様の意識の深淵で、アズラエル王の「念」が収束し、アリア様の光が彼の心を包み込んだ。


凍てついていたルシアン様の心に、温かい記憶の光が差し込んでいくのが感じられる。


彼の表情に、かすかな安堵の色が浮かんだのを見て、私の胸は震えた。


「ルシアン様! 目を覚ましてください! 私たちが、あなたを待っています!」


私の声が、彼の魂の奥深くに届くように、何度も、何度も呼びかける。


婚約指輪と聖剣の宝珠、そしてルシアン様のアクスタから、彼への全ての想いを込めた光が放たれ、彼の心を優しく揺り起こしていく。




その時、私の意識の奥で、遠い、しかし確実に迫りくる不穏な気配を感じた。

まるで、冷たい鉄の塊が迫ってくるかのような、重苦しい感覚。


それは、この精神世界にまで影響を及ぼす、現実世界の危機が始まっている証拠だった。


ルシアン様が目覚めるまで、わずかな猶予しか残されていない。







―――白亜の城の地下聖域は、突如として激しい震動に見舞われた。



床が軋み、壁に亀裂が走る。


祭壇に置かれた黄金の王冠から放たれる膨大な魔力の残滓が、周囲の空気を歪ませていた。


それは、アズラエルが自身の命と引き換えに王冠に込めた、あまりにも強大すぎる「念」が引き起こした、世界の摂理への干渉だった。


「何事だ!?」


アルドロンの鋭い声が響く。彼はこの異常な魔力の変動を即座に察知し、ルシアンの傍らで身を固めるローゼリアとカスパールの前に立つ。


「この魔力は…! この極限まで高められた王冠の力が、何か強大なものを、この世界に引き寄せようとしている…いや、封印を不安定にさせている!」


アルドロンは古文書に記された不吉な記述と、王冠から放たれる特異な魔力の性質を照らし合わせるかのように叫んだ。


その刹那、聖域の奥、祭壇の真下から、おぞましい唸り声が響き渡った。



ドォォォォンッ!



祭壇の床が、内側から激しく隆起し、巨大な地割れが生じた。


漆黒の瘴気が、その裂け目から噴き出し、聖域を覆い尽くす。


その瞬間、聖域の空気が鉛のように重くなり、呼吸すら困難になる。


瘴気は、触れるものすべてを腐食させるかのような不浄な力を持ち、周囲の祭具が音を立てて朽ちていく。


その瘴気の中から、ゆっくりと姿を現したのは、形容しがたい異形の存在だった。


それは、まるで太古の地層から湧き出たかのような、ごつごつとした岩石の肌を持ち、全身から禍々しい闇のオーラを放っていた。


その巨体は聖域の天井に届くほどで、複数の腕が不規則に生え、それぞれが大地を叩きつけるかのような破壊的な力を宿している。


顔と呼べるものがあるのかも定かではないが、闇の奥に鈍く光る赤い瞳が、憎悪と混沌を湛えていた。




「これは…! 古文書に記された…『深淵の主(ロード・オブ・アビス)』!」




アルドロンは蒼白な顔で呟いた。


それは、遠い昔、世界を闇に沈めようとしたと伝えられる、伝説の魔物だった。


何者かによって地の底深くに封印されていたはずの存在が、アズラエルが王冠に込めた、あまりにも強力な『念』が発する魔力の膨大な変動によって、その封印を破り、覚醒してしまったのだ。


アズラエルの意図とは異なる、予期せぬ事態だった。




『グオオオオオオオオオオオオオオォォォッッッ!』




深淵の主の咆哮が、城全体を揺るがす。


聖域の結界が、その咆哮の圧力に耐えきれず、バリバリと音を立ててひび割れていく。



「くそっ…こんな時にルシアン様が…!」



カスパールが悔しそうに歯噛みした。


彼の紫色の宝珠が、危険を察知して怪しく光っている。


ローゼリアは、ルシアンの傍らに寄り添い、桃色の宝珠から優しい光を放って、彼を瘴気から守っていた。



『グオオオオオオオオオオオオオオォォォッッッ!』



深淵の主が、その巨大な腕を振り上げた。


ごつごつとした岩石の腕が、聖域の壁を容易く砕き、瓦礫の雨を降らせる。


その一撃は、城そのものを破壊しかねないほどの威力だった。



「賢術・重力場固定! 禁忌の鎖!」



アルドロンが叫び、杖の先の緑の宝珠が強く輝いた。


祭壇の周囲に巨大な魔法陣が展開され、深淵の主の巨体を重力で縛りつけようとする。


同時に、緑色の光の鎖が何重にも深淵の主に巻きつき、その動きを一時的に封じようとした。


深淵の主は、その巨体に見合わない素早さで暴れ、鎖をミシミシと軋ませたが、アルドロンの賢術は確かにその動きを鈍らせることに成功した。



「チッ、足止めご苦労さんだぜ! 行くぞ、このデカブツが!」



カスパールが悪態をつきながら、紫色の宝珠のピアスに魔力を集中させる。


彼の周囲に漆黒の虚無が渦巻き、空間が歪む。



「禁断魔法・虚無(ヴォイド)爆炎陣(バーストアレイ)!!」



カスパールが叫ぶと、深淵の主の足元に巨大な魔法陣が展開され、紫色の炎が爆発的に噴き上がった。


その炎は深淵の主の岩石の体を深くえぐり、一部が大きく欠け落ちるほどの破壊力を示した。

瘴気が一瞬にして浄化され、聖域の空気が微かに澄んだ。



ドォォォォンッ!!



凄まじい爆音が聖域に響き渡り、炎の柱が天井まで届く。


深淵の主は明確なダメージを受け、その巨体を大きく揺らした。


欠けた部分からは、さらに濃い瘴気が噴き出す。



『グオオオオオオオオオオオオオオォォォッッッ!』



深淵の主は、怒りと苦痛の咆哮を上げ、その巨大な腕をまるで鞭のように振り回し、アルドロンとカスパールへと同時に襲いかかった。



「危ない!」



ローゼリアの悲鳴が響く。


彼女はルシアンとセラフィナを守りながらも、桃色の宝珠から光の奔流を放ち、アルドロンとカスパールが吹き飛ばされる直前に光のバリアを瞬時に展開した。


「治癒魔法・光の奔流!」


ローゼリアのバリアは、深淵の主の腕を受け止め、聖なる光が闇の力を弾き返す。


その衝撃でバリアがミシミシと音を立ててひび割れたが、二人は無事にその場をしのぐ。


ローゼリアは、一瞬の隙を見て、二人の傷を癒やし、魔力の消耗を回復させた。


「助かったぜ、ローゼリア! さすが女神様だ!」


カスパールが皮肉交じりに礼を言う。

その言葉に、ローゼリアの顔がわずかに赤らんだ。



「まだだ! この化け物の動きを完全に止めなければ! カスパール、ヤツの攻撃の起点になっている『核』のような部分を狙え! どこかに必ず、急所があるはずだ!」


アルドロンが、深淵の主の行動パターンを分析しながら、的確な指示を出す。



「チッ、面倒だな。紫色の宝珠の力を解放した黒雷!!」



カスパールは一点集中型の黒い雷撃を放つ。


その雷は深淵の主の欠け落ちた部分に何度も直撃し、内部へと深く食い込んだ。


内部からズズズッ、という不気味な音が響き、深淵の主の動きがさらに鈍った。深淵の主の岩石の体から、亀裂が走り始める。



その時、城の入り口から、聖騎士団の王であるアシュレイの声が響いた。



「聖騎士団、突入! 民を守れ! そして、この魔物を…ぐっ…!」



聖騎士たちが聖域へと駆け込んできたが、深淵の主から放たれる瘴気の濃度は、彼らの聖なる力をもってしても容易に防ぎきれるものではなかった。


先頭の数人が、瘴気に触れて苦悶の表情を浮かべ、膝をつく。



「アシュレイ様! この瘴気は…! 一般の兵では耐えられません!」


騎士の一人が叫ぶ。



「無茶だ、アシュレイ殿! 聖騎士団は後方で民の避難誘導と、城内の瘴気除去に当たれ! ここは、我々勇者が食い止める!」


アルドロンが、冷静に、しかし強い口調で指示した。


アシュレイは歯を食いしばるが、アルドロンの言葉が現実を突きつけていることを理解した。



「くそっ…! 勇者様方、ご武運を…!」


アシュレイは、断腸の思いで聖騎士団に撤退を命じ、城内へと散らばらせた。


勇者たちは、ルシアンが目覚めるまでの、ほんのわずかな時間を稼ぐために、必死に抗い続けた。


深淵の主の瘴気と、その圧倒的な圧力に、彼らの体力と魔力は確実に削られていく。



(ルシアン様…早く…!)



その時。


カスパールは、深淵の主の追撃を避けるために跳躍し、着地と同時にローゼリアから贈られた、首元のチェーンネックレスにそっと触れた。


彼の紫色の宝珠と、ネックレスに込められたローゼリアの桃色の宝珠の力が共鳴するように、眩い光が周囲に溢れ出す。


同時に、聖域の床に、巨大な魔法陣が突如として現れた。


地面に刻まれた紋様が紫の光を放ち、そこから、カスパールが異界の狭間で生み出してきた無数の従属魔物たちが、一斉に姿を現し、彼の周りを飛び交い始めた。


そして、魔法陣の中央、カスパールの足元が、脈動する光の奔流に包まれた。


その光の渦が最高潮に達した時、内から迸るようにして、神々しい姿の聖獣が大地を蹴って現れた。


見る者の視線を釘付けにするその存在は、圧倒的な力と生命力を湛えていた。



「フン……お前なんかに、俺たちの邪魔はさせねぇ……! 行け! 聖獣よ!」



カスパールが、叫んだ。


彼の声に応えるように、召喚された聖獣は、天高く首を振り、雷鳴のような咆哮を轟かせた。


その純粋な光のエネルギーは、見る間に渦を巻き、聖獣の体をさらに輝かせる。


そして、巨体を低く構えると、大地を揺るがすほどの勢いで、深淵の主目掛けて猛然と突き進んでいく!






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