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転生したら推しが魔王様になってた件~④三度の結婚式は大パニック!  作者: 銀文鳥


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第九章(2):母の光、凍てついた心の解放


『愚かな転生者め! 我が悲しみと、我が執着の鎖は、貴様ごときが踏み入る領域ではない!』



アズラエル王の巨大な手が、漆黒の魔力を纏い、私めがけて振り下ろされた。その一撃は、空間そのものを引き裂くかのような重圧を伴う。


(来る……っ!)


私はとっさに腰に差した聖剣に手をかけた。

その柄から、微かな光が漏れ出す。しかし、剣を抜くことを、私はためらった。


相手は、ルシアン様のお父様だ。

たとえ「念」であろうと、ルシアン様の心を構成する記憶の一部である彼に、攻撃を仕掛けることが、どうしてもできなかった。



私の剣は、大切な人を守るためのものであって、その人の根源を傷つけるものではないはずだ、と。



「っ…!」



私は聖剣を抜かず、ただ身を翻して攻撃を躱した。


しかし、魔力の衝撃波は防ぎきれず、激しい痛みが全身を貫く。

背中を壁に打ち付けられ、息が詰まった。



『フン。その程度の覚悟か。ルシアンを誑かすだけの、浅はかな女よ』



アズラエル王は再び、執拗に魔力の奔流を放ってきた。

私は聖剣を鞘から抜かず、ひたすらに身をかわし、防御に徹する。けれど、圧倒的な魔力の暴力は、容赦なく私の肉体を削り取っていった。


(くっ……身体が、重い……!)


膝から崩れ落ちそうになる。


脳裏に、眠り続けるルシアン様の顔が浮かんだ。彼を助けに来たのに、このままでは……。





―――その時、ルシアンの意識の深淵で、微かな揺らぎが生じた。


呪縛に囚われ、眠り続けていた彼の心に、届くはずのない痛みが伝わる。

まるで、深い海の底に差し込む一筋の光のように。


(セラフィナ……!?)


薄暗い深淵の奥で、蒼い瞳が、僅かに光を宿した。

大切な存在が傷ついている。その事実に、彼の心がざわめき始める。―――





『邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ…! 全て、あやつがいるせいだ…! アリア…!アリア…!なぜ、お前はここにいない!アリア…っ!』



アズラエル王の咆哮が、聖域に響き渡る。


彼の巨大な「念」は、愛する妻を失った悲劇と、ルシアン様への憎悪がない交ぜになった、歪んだ感情のまま、私へと容赦ない攻撃を続けた。


彼の攻撃は、まるで私の中にアリア様を見ているかのような、異常なまでの執着を帯びていた。




(うわ……。アリア様、アリア様って……すっっごい愛情深いじゃん、この人! 狂気じみてるけど、この執着心と独占欲、完全にルシアン様と一緒だ! やっぱり親子なのね……! ルシアン様のヤンデレ気味な執着も、ここから来てたのかー。顔面偏差値もそうだけど、こういうところまで受け継がれてるなんて、さすが推し親子!……って、いやいや、今攻撃されてる場合だから!)



私は満身創痍の体で、アズラエル王の途方もない「念」の猛攻に耐え続ける。


彼の攻撃は、悲痛な叫びと共に、妻アリア様への愛情とルシアン様への憎悪が複雑に絡み合い、もはや私個人を狙っているわけではないようにすら感じられた。


それは三千年の時を経てなお、アズラエル王の心に深く根差す、どうしようもないほどの愛と絶望の現れだと理解した。だからこそ、私は彼に語りかけた。



「あなたがどれほどアリア様を愛しているか、私にはわかります!」



私の言葉に、アズラエル王の巨大な「念」が、一瞬だけ揺らいだように見えた。


彼の蒼い瞳の奥に、わずかな動揺が宿る。



『…何がわかる…! 貴様ごときが、この悲しみを理解できるとでも言うのか…!』



「ええ、わかります!」



私はアズラエル王を真っ直ぐ見据え、迷いなく言い放った。



「 だって!私だってルシアン様を愛してるから!」



私が叫んだその言葉は、まるで合図のように、聖域の祭壇に置かれた、もう一つの冠——白銀の装飾が施された王妃の冠が、突如として眩い光を放ち始めた。


それは、アズラエル王の禍々しい闇とは全く異なる、清らかで温かい、純白の光だ。


その光が、漆黒の靄を優しく包み込むように広がり、みるみるうちに、たおやかな女性の姿を形作った。



彼女の髪はルシアン様と同じ淡い銀色で、その瞳は優しく、そして愛情に満ちた緑色をしていた。


ルシアン様の記憶にはなかった、彼の母、アリア様だ。



アリア様は、アズラエルの巨大な「念」に対しても怯むことなく、静かに、しかし確固たる声で語りかけた。



『アズラエル……もう、やめてください。あなたは、私を愛するあまり、その心を歪めてしまった。けれど、ルシアンは、その愛の証。彼を憎むなど、してはいけません』


アリア様の声は、優しくも力強く、アズラエル王の荒れ狂う「念」の波動を鎮めるかのように響いた。


彼女の姿は、物理的な実体を持たず、しかしその存在は、この空間の全てを包み込むような温かさに満ちていた。



『私を失った絶望が、あなたを蝕んでしまったのね。ルシアンを憎んだのも、これ以上、愛する者を失うことを恐れたからでしょう。でも、見て。この子、セラフィナが、ルシアンに真の光を与えてくれた。あなたが与えられなかった、温かい居場所を。家族の絆を』


アリア様は、私の方を向き、優しく微笑んだ。


その眼差しは、私を認め、感謝しているかのようだった。



そして、再びアズラエル王へと視線を向けた。



『あなたの執着は、ルシアンを苦しめるだけ。彼を本当に愛するのなら、彼が選んだ道を、彼自身の幸せを、見守ってあげるべきよ』


アリア様の言葉は、アズラエル王の「念」を激しく揺さぶった。



彼は、怒りに満ちた咆哮を上げた。


『黙れ、アリア! お前は、我が理想を理解しようとせぬ! この世界のため、ルシアンには王としての孤独と強さが必要なのだ! お前を失った私が、どれほど……!』


アズラエル王の絶叫が聖域に響き渡る。


その内から噴出する漆黒の魔力は、アリア様の清らかな光に触れると、まるで煙のように霧散していった。


黒い靄が、温かい光に溶かされるように、あるいは、清らかな水に洗い流されるように消えていく。


アリア様の存在は、アズラエル王の負の念を浄化する力を持っていたのだ。



アリア様は、静かに、しかし力強く言った。


『ルシアンは、強くなったわ。孤独の中で、そして愛を知って、彼はあなたを超えた。もう、あなたの支配は必要ない』


アズラエル王は、信じられない、という表情でアリア様を見つめた。


その狂気に満ちた瞳に、過去の人間らしい動揺が宿ったように見えた。


彼の「念」の力が、明らかに弱まっている。彼の巨大な体が、少しずつ縮み、形を失い始める。


憎悪に満ちた咆哮は、やがて悲痛な、そして悔恨に満ちた呻きへと変わっていった。



『アリア…なぜ…なぜだ…』


アズラエル王の「念」は、聖域の王冠へと引き戻されるように収束していく。


しかし、完全に消え去るわけではなく、王冠のサファイアに、黒く、しかし以前よりは弱々しい光の点として残った。

まるで、深く眠りについたかのように。


アリア様の光が、その王冠を優しく包み込み、残された闇を静かに鎮めているかのようだった。


私は、アズラエル王が愛するアリア様を失った絶望ゆえに、ルシアン様を歪んだ形で支配しようとしたのだと理解した。


彼の悲劇性が、私の胸を締め付けた。




「ルシアン様! 目を覚ましてください! 私たちが、あなたを待っています!」


私の声が、ルシアン様の意識の深淵に響き渡る。


アリア様の優しい光が、ルシアン様の心を縛る黒い鎖を溶かすように、ゆっくりと、しかし確実に消し去っていくのが見えた。


鎖が消えるたびに、彼の心に温かい血が通っていくような気がした。

同時に、ルシアン様の脳裏に、かつて記憶になかったはずの母の温かい笑顔と、優しい歌声が響き渡る。


彼の心に刺さっていた氷のような破片が、温かな泉に包まれるように、すっかり溶けていくのを感じた。




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