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転生したら推しが魔王様になってた件~④三度の結婚式は大パニック!  作者: 銀文鳥


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第八章(4):父の呪縛、狂気の執念


一歩、また一歩と近づく。


幼いルシアン様のすぐ傍まで来たというのに、彼は私に気づく様子がない。

まるで、この空間に私が存在しないかのように、その蒼い瞳は虚空を見つめたままだ。


彼の小さな肩をそっと叩いてみたが、何の反応もない。



私は、この場所がルシアン様の「記憶」そのものであり、介入はできても、直接的な接触は難しいのだと悟った。


(わかってる、わかってるよ。これは記憶の再現なんだから、私が見えてるわけないよね……でも、こんなに小さくて可愛いのに、こんなに辛そうにしてるなんて……!)


私は思わず手を伸ばしかけたが、虚しく空を切るだけだった。


私の胸は、苦しみに締め付けられた。


この幼い彼を、抱きしめてやりたい。

温かい言葉をかけてやりたい。

しかし、それは叶わない。



アズラエル王の冷たい声が、再び響く。


彼の言葉は、幼いルシアン様の心に、さらに深く黒い鎖を絡めつけていくように見えた。


その言葉のたびに、彼の蒼い瞳から光が失われていくようだった。





次の瞬間、視界が歪んだ。





古いフィルムが巻き戻されるように景色が泡のように揺らぎ、部屋の様子が一変する。


今度は、もう少し成長したルシアン様がそこにいた。


おそらく、十歳を過ぎた頃だろうか。

背丈は伸び、顔つきも少し精悍さを増している。


しかし、その表情は依然として、何の色も宿さない。


彼は、豪華な食卓にたった一人で座り、目の前の山盛りの料理に手をつけようとしない。

周囲には、無表情な城の者たちが淡々と給仕し、彼の身の回りの世話をしている。


彼らの視線は、ただ機械的に「未来の王」に向けられているだけで、そこには一切の感情が感じられない。


(こんな風に、ずっと一人で食事をしていたんだ……)


胸が痛んだ。私は思わず「ルシアン様!」と声をかけたが、やはりその声は彼には届かない。


彼はただ、空虚な瞳で料理を見つめ、やがて、わずかばかりの食事を口に運び終えると、音もなく立ち上がった。





再び、視界が歪む。





今度は、視界が横にスライドするように景色が流れ、城の中庭のような場所。


剣の鋭い音が響く。

ルシアン様は、ひたすらに剣を振っていた。


その動きはすでに流れるように洗練されており、並外れた才能の一端を覗かせている。

だが、その顔には達成感も、喜びも、何一つ見えない。


ただ、任務をこなすかのように、黙々と、黙々と剣を振る。


そして、その後は休む間もなく、魔法の訓練、分厚い魔術書の読書、歴史や政治の勉強。



彼の周りには、常に冷たい空気がまとわりつき、誰一人として、彼に寄り添う者はいない。



(ルシアン様……ずっと、こんな生活を送っていたのね……)



私は涙がにじむのをこらえ、強く手を握りしめた。


彼の孤独と苦痛が、この記憶の空間を通して、私の心にも直接流れ込んでくるようだった。



この試練は、ルシアン様がこの孤独と向き合い、乗り越えること。


そして、私がその傍で、彼を支え、共に未来を築く覚悟を問われているのだ。





そして、三度目の転換。





一瞬、闇に包まれた後、ふと気づけば、景色は、城の寝室へと変わった。


空気は重く、死の匂いが漂っている。


そこにいたのは、十三歳になったばかりのルシアン様だった。



彼の隣には、ベッドに横たわるアズラエル王の姿。


アズラエル王は、病に蝕まれ、やつれ果てているにもかかわらず、その目は依然として王としての厳しい光を宿していた。



『ルシアン……よく聞け……。貴様は…この王位を継ぐ者として…決して、弱き心を見せるな……。我が築き上げた魔法使いの王国…その栄光を…決して汚すな……』



アズラエル王の声は、かすれ、途切れ途切れになりながらも、その言葉の一つ一つが、ルシアン様の心に重く、深く刻まれる。


ルシアン様は、その冷たい言葉を、何も色のない顔で、ただじっと見つめ返していた。

その蒼い瞳の奥には、何の感情も読み取れない。


悲しみも、憎しみも、何もかもが、冷たい壁の奥に閉じ込められているかのようだった。





場面が、さらに動く。





それは、記憶の映像が、アズラエル王自身の強烈な「念」に引かれてか、彼の最後の瞬間の光景へと移り変わった。


病床に伏し、痩せ細ったアズラエル王は、自分の命がもう短いことを悟っていた。


彼の肉体は限界を迎えている。


しかし、その魂だけは、未だ衰えることのない、王国への強い使命感と、ルシアン様への揺るぎない期待に燃え上がっていた。


その瞳は、死期が近いとは思えぬほどの熱意を燃え上がらせていた。


彼の瞳は、ただ一点、とある場所を見据えている。


その視線の先には、聖域に安置された、代々受け継がれし王冠があった。



『…この王冠に…我が願いを託す…』



アズラエル王は、病に伏した身を奮い立たせるように、ゆっくりと立ち上がった。


その足取りは覚束ないものの、彼の意志の強さが全身からにじみ出ている。


執事や兵士たちが制止しようとするが、アズラエル王の瞳から放たれる凄まじい「念」の圧力に、彼らは一歩も近づけない。


彼らの視線は、恐怖と困惑に満ちている。



彼は、自らの足で聖域の扉の前に辿り着いた。

古くから代々受け継がれた王冠が安置された、神聖な場所。


扉は、王の前に、まるで自然に開くかのように静かに音を立てた。


アズラエル王は堂々と足を踏み入れた。



広間の中央、厳かな祭壇には、漆黒の台座の上で二つの美しい冠が鈍い光を放ちながら鎮座している。


アズラエル王は、その王冠の前に厳かに立つと、弱りきった身体で最後の力を振り絞った。


彼の身体から、漆黒の禍々しい魔力が噴き出し、王冠へと流れ込む。



そして、彼の口から、王としての最後の誓いが途切れ途切れに紡ぎ出される。



「ルシアン……よく聞け……。これは、王位を継ぐ者へ、王国が永劫に繁栄し、平和が続くようにと、代々受け継がれてきた儀式の極致だ。 我が生命の全てをかけて、王としての知恵と、厳しくも深い愛の記憶を、この王冠に刻み込む『術』……。お前が真の王となるために……」



アズラエル王の魂が、身体から引き剥がされるかのように、彼の強大な魔力と共に、祭壇の上の黄金の王冠へと流れ込んでいく。



その瞬間、王冠は禍々しい漆黒の光を放ち、聖域全体を不穏なオーラが覆った。


彼の肉体は、最後の魔力を出し尽くし、力なく床に崩れ落ちた。


もはや、そこに意識はない。


しかし、彼の王としての願いだけは、王冠の中に確かに封じ込められたのだ。



(まさか……! 王冠に、アズラエル王の記憶と、王としての教えが、彼の身をもって刻み込まれたっていうの!?)



私は息をのんだ。彼の死後も、その強大な思念が王冠に宿り続け、ルシアン様が王位を継承し、それを被った暁には、代々受け継がれてきた王としての資質を試される、厳しき試練を課すためだったのだ。


アズラエル王は、自らが死してもなお、王冠を通してルシアンを様導き続け、王国とルシアン様を、彼自身の厳格なやり方で守り導くことを望んでいたのだ。


その揺るぎない覚悟が、王冠に込められていた。


その壮絶な光景が、私の目の前で繰り広げられていた。



ルシアン様が十三歳で王位を拒否し王冠を被ることを頑なに拒んでいたのは、無意識のうちにこの強大な「念」を感じ取っていたからに違いない。


そして、今、ルシアン様はその王冠の記憶によって、この過去の悪夢の中に閉じ込められている。


彼の心は、アズラエル王の強烈な思念によって、過去の苦痛に縛り付けられているのだ。


私は、ルシアン様を救い出すために、この「念」の根源と、彼と共に真の父の思いと向き合わなければならない。




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