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転生したら推しが魔王様になってた件~④三度の結婚式は大パニック!  作者: 銀文鳥


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第八章(3):推しとの再会、幼き日の幻影


聖域を飛び出した私は、迷うことなく神殿へ駆けた。


そこは、ローゼリアちゃんと私がルシアン様のグッズを飾り付けた、彼への愛が詰まった場所だ。


中でも、彼の魔力が色濃く残る祭壇――そのきらめくグッズに囲まれ、見慣れたルシアン様のアクスタが静かに鎮座していた。


やはり、ルシアン様が倒れたことで結界は消え去っていたのだ。

それを手に取ると、微かな、しかし確かな彼の温もりが伝わってくる。



私はすぐさま聖域へと引き返した。


アルドロンさんたちが、変わらず心配そうな面持ちでルシアン様を見守っている。


「セラフィナちゃん!」


私が戻ったことに気づき、ローゼリアちゃんが安堵の声を上げた。



私は急いでルシアン様の傍らに膝をつき、倒れた彼の体にそっとアクスタを添える。

左手の婚約指輪に力を込め、腰に差した聖剣を抜いた。


聖剣の宝珠が淡い光を放ち、アクスタへと流れ込む。


ルシアン様と私、そして聖剣とアクスタが、まるで光の糸で結ばれていくような感覚に包まれた。



「ルシアン様……今、行きます!」



私の意識は、アクスタを媒介とし、聖剣の宝珠の力によって、漆黒の闇の中へと吸い込まれていった。


全身が奇妙な浮遊感に包まれ、目の前を光の粒子が流れていくような感覚の後に、次の瞬間、足元に硬い感触が戻ってきた。


目を開けると、そこは先ほどまでいた聖域ではない。


薄暗く、空気が淀んだ、古びた一室だった。




(やはり、ここはルシアン様の意識の中……そして私は、聖剣の宝珠の力と、ルシアン様のアクスタを依り代に、無事、彼の精神世界へと到達できたんだ……!)



その時、部屋の奥から、冷たい声が聞こえてきた。


『ルシアン。王たる者、情に流されてはならぬ。己が使命を全うするのみだ』


私は音もなく身を潜め、声のする方へと視線を向けた。


そこにいたのは、背が高く、威圧的な雰囲気を纏った男。

彼の顔には深い皺が刻まれ、その瞳は氷のように冷たい。


まさしく、ルシアン様が語っていた、彼の父、アズラエル王だ。




そして、そのアズラエル王の隣に立っていたのは――。




(うわあああああああああああああああああああああ! かわいい!!!!!)


私の脳内は、思考停止するほどの衝撃と興奮で埋め尽くされた。



そこにいたのは、信じられないほど小さな、陽の光を浴びたばかりの雪のような、淡く繊細な銀色の髪をした男の子だった。


彼の髪は、まだルシアン様のような深みを帯びた輝きではなく、淡く、そして繊細な銀色。


けれど、その顔立ち、特に澄んだ蒼い瞳は、まさしくルシアン様の面影を宿している。


小さな体は、少しだけぶかぶかのローブに包まれている。


そのローブの袖から覗く小さな手は、ぎゅっと握りしめられ、どこか所在なさげだ。


顔はまだあどけなく、幼いけれど、すでに彼の瞳の奥には、どこか諦めのような、寂しげな光が宿っているように見えた。



(推しが! 推しの幼少期が! 銀髪の、こんなにも可愛い姿で目の前に……! しかも、この世界はルシアン様の意識の中! これはもう、究極の推し活じゃない!? 聖杯戦争ならぬ、推し活戦争……!)



私は、場違いな興奮に身を震わせた。


この状況は緊急事態だ。


ルシアン様は眠りについている。



だけど、目の前に現れた「幼いルシアン様」の尊さに、私の理性が吹き飛んでしまいそうだった。





『聞いているのか、ルシアン!』


アズラエル王の声が、部屋に響き渡る。


幼いルシアン様は、ビクッと体を震わせ、小さく「はい」と返事をした。


その姿は、まるで叱られている子犬のようで、私の胸が締め付けられた。



(こんな幼い頃から、こんな厳しい教育を受けていたんだ……ルシアン様……)


私の知る、強大で、冷静で、時には優しいあのルシアン様からは想像もできない、幼く、そして孤独な姿。


彼の瞳の奥に宿っていた、あの「寂しさ」の根源がここにある。


この光景こそが、ルシアン様が最も目を背けてきた、苦痛の過去なのだ。


アズラエル王は、幼いルシアン様に次々と厳しい言葉を浴びせていく。


その内容は、王としての資質、感情を排除することの重要性、そして己の使命を全うすることの絶対性。



幼いルシアン様は、その言葉を、ただひたすらに受け止め続けている。


反論することも、弱音を吐くことも許されない、そんな空気が部屋全体を覆っていた。





私には見えていた。


幼いルシアン様の背後から、彼の心を蝕むように、漆黒の鎖がじわじわと伸び、その小さな体に絡みついていくのを。


それは、アズラエル王がルシアン様に真の王としての覚悟を刻み込もうとする「念」が形になったものだろう。


ルシアン様が王冠を被ったことで、この空間は、彼の過去の苦痛を再現し始めたのだ。



(このままじゃ、ルシアン様が……!)


私は、彼と共にこの試練を乗り越えるために、幼いルシアン様へと、ゆっくりと、しかし確実に足を踏み出した。




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