第七章(5):披露宴から帰還
披露宴は、その後も和やかな雰囲気で進んでいった。
みんなからの温かい祝福の言葉、友人たちの賑やかな笑い声。すべてが、私の心を満たしていった。
エリアス様は巫女姿のまま、皆と談笑し、まるで庭の守り神のようだった。
カスパール君も、相変わらず少しぶっきらぼうながらも、ローゼリアちゃんとアルドロンさんと共に、その視線の端に確かに満足の色を浮かべているのが見て取れた。
宴もたけなわになった頃、ルシアン様が静かに席を立ち、皆の方へと向き直った。
庭のざわめきが、彼の存在感に引き寄せられるように、すっと静まる。
「皆様」
ルシアン様の声が、穏やかでありながらも、その場にいる全員の心に響き渡る。
「本日は、私たちのために、お集まりいただき、心より感謝申し上げる」
彼の視線が、一人ひとりの顔をゆっくりと巡る。
「私にとって、この地での縁は、計り知れない喜びをもたらした。佐倉剛殿、陽子殿」
ルシアン様は、父と母の方へ向き直り、深く頭を下げた。
「愛するセラフィナを、惜しみなく育て、私に託してくださったこと、この恩は決して忘れない。そして、貴方方の大切な娘を、私がこの命に代えても必ずや幸せにすると、ここに誓おう」
ルシアン様の真摯な言葉に、父はまた目頭を押さえ、母は感動で涙を流していた。
私も、彼の揺るぎない愛の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
「そして、この日を共にしてくれた、カスパール、ローゼリア、アルドロン。そして、健太郎、有紀。貴殿たちとの絆も、私にとってはかけがえのないものだ。エリアス、貴方には、この上ない祝福をいただいた。感謝に堪えない」
ルシアン様は、彼らにも丁寧に頭を下げた。
カスパール君は顔を背けたが、耳が真っ赤になっているのが見えた。ローゼリアちゃんは感極まって涙を拭い、アルドロンさんも静かに頷いていた。
「この素晴らしい日を、貴方方と共に迎えられたことを、心から嬉しく思う。本当に、ありがとう」
ルシアン様の言葉に、再び庭には温かい拍手と歓声が響き渡った。
本当に、最高にアットホームで、温かい結婚式だった。
私はルシアン様の手を取り、彼の隣で、心からの笑顔を皆に向けた。
ルシアン様がそっと私の耳元に唇を寄せ、優しい声で囁いた。
「セラフィナ、誕生日おめでとう。お前が生まれた特別な日に、こうして日本で夫婦になれたこと、心から嬉しく思う」
突然の言葉に、私は不意を突かれたように目を見開いた。
驚きと、彼の細やかな愛情への感動が胸いっぱいに広がる。
(うあああああああああ! ルシアン様が! 私の誕生日に! こんな最高の殺し文句を! しかも耳元で囁くなんて、反則すぎる! これが私の推し……! 控えめに言って最高!)
私の脳内は、再び「推し活」の興奮で埋め尽くされた。
披露宴が滞りなくお開きとなり、いよいよ異世界への帰還の時が来た。
父と母、そして健太郎と有紀が私たちを見送ってくれた。
帰還の場所は、ルシアン様祭壇のある私の部屋だ。
「花、寂しくなるけど、いつでも帰ってきなさいね」
母が私の手を握り、涙ぐむ。
「ルシアン様、花をよろしくお願いします」
父がルシアン様に深々と頭を下げた。
「ご安心ください。必ずや、彼女を幸せにいたします」
ルシアン様も、恭しく、そして力強く答えた。
「花! 向こうでも元気でな! あと、また面白い話があったら聞かせてくれよ!」
健太郎が明るく言った。
「次帰ってくる時は、連絡ちょうだいよ!」
有紀も笑顔で手を振ってくれる。
「うん! みんなも、元気でね! また、会えるから!」
私は涙がこみ上げてくるのを必死に堪え、精一杯の笑顔で手を振った。
「エリアス、頼む」
ルシアン様が告げると、エリアス様は巫女姿のまま、静かに部屋の中央へと歩み寄った。
「承知した」
エリアス様がそう言うと、私たちの勇者の宝珠が光を帯びて輝きだした。
私の腰に差した聖剣の紅い宝珠も、呼応するように熱を帯び、燦然と輝きを放つ。
「さあ、セラフィナ君」
エリアス様が優しい声で言った。
私は胸元から、大切に持っていたルシアン様のアクスタを握りしめる。
白亜の城での新たな生活、ルシアン様との日々を鮮明に思い描いた。
ルシアン様が私の手を繋ぐ。
強く、温かいその手に、未来への期待が膨らむ。
「それでは、また会う日まで」
エリアス様がそう言ったとたん、私たち五人――ルシアン様と私、カスパール君、ローゼリアちゃん、アルドロンさん――は、エリアス様の放つ眩い光に包まれ、一瞬のうちに白亜の城へと移動していた。
日本でも夫婦となった私たちの、新たな生活が始まるのだ。




