第七章(4):お色直しと披露宴
しばらくして、私は真っ白なウェディングドレスに身を包み、再び皆の前に現れた。
華美すぎず、それでいて庭の雰囲気に合うような、軽やかで動きやすいデザインのドレスだ。
ルシアン様が贈ってくれた、漆黒の桜の髪飾りが輝いている。
そして、私の隣に立つルシアン様は、グレーのタキシードを纏っていた。
シンプルなデザインだが、彼の引き締まった体によく似合い、その銀色の髪と蒼い瞳がより一層際立って見える。
和装の凛々しさとはまた違う、都会的で洗練された魅力に、私はまたしても内心で「尊い……!」と叫びそうになった。
庭の一角に設けられた披露宴会場は、和の要素を取り入れたモダンな装飾が施され、料理の香ばしい匂いが漂っていた。
私たちが入場すると、皆が一斉に温かい拍手と歓声で迎えてくれた。
ルシアン様と共にメインテーブルに着くと、すぐに会食が始まった。
父や母、有紀、健太郎、エリアス様はもちろん、カスパール君たち異世界からのゲストも、日本の料理は大好きだ。
「これ、なんですか? 前回日本に来た時には食べなかったです。とても美味しいですわ!」
ローゼリアちゃんが、ちらし寿司に目を輝かせている。
「この寿司、魚が新鮮で旨いな。日本の文化は奥深い……」
アルドロンさんは、冷静ながらも料理の分析に余念がない。
「……悪くない。腹が減っては戦もできんからな」
カスパール君も、照れくさそうにしながらも、箸を動かしていた。
皆が和やかに歓談する中、健太郎と有紀が私たちのテーブルにやってきた。
「花、ルシアン様、おめでとう! 改めて乾杯!」
「かんぱーい!」
二人も料理とジュースを楽しんでいるようだった。
しばらくすると、健太郎が少し真剣な顔で私に言った。
「そういえばさ、花。加藤のことなんだけど……」
彼の言葉に、私は思わず息を飲んだ。
「加藤さん……何かあったの?」
私が尋ねると、有紀が小さく頷いた。
「うん。実はね、海外に留学するんだって」
「え……留学?」
私は驚いて目を見開いた。
健太郎が続けた。
「うん。なんかさ、親元を離れて、自分の力で新しい環境で色々な価値観を変えたいって、そう言ってたらしいんだ。俺たちも、正直びっくりしたんだけどさ」
「そうなんだ……」
私は、加藤さんがそんな風に考えていたとは知らなかった。
「それでね、もし花に会うことがあったらって、伝言を頼まれたんだ」
有紀が少し躊躇しながらも、言葉を紡いだ。
「『結婚おめでとう。それから、ありがとう。いつかまた『魔法使いの王ルシアンと四人の勇者の物語』の話しましょうねって』、だって」
その言葉を聞いた瞬間、私は隣に立つルシアン様と顔を見合わせた。
ルシアン様の蒼い瞳が、優しく、そして深く私を見つめている。
彼の瞳には、「これで良かったのだ」という、確かな安堵と理解の色が宿っていた。
私もまた、心の中で静かに「良かった」と呟いた。
加藤さんが、これまでの自分と向き合い、自らの意志で新たな道を選び、前へ進もうとしている。
そして、あの時のことを「ありがとう」と伝えてくれた。
その事実が、何よりも私の心を温かくした。 私たちの間には、言葉は必要なかった。
ただ見つめ合うだけで、互いの感情が通じ合った。
(加藤さん、頑張ってね!)
私は心の中でそう願った。




