第六章(1):故郷の再会
日本への旅立ちの日。
私とルシアン様は神殿へと向かった。
ルシアン様が静かに結界を解くと、私は神聖な場所にある、ルシアン様のアクリルスタンドを手に取った。
それを胸に抱き、見送りに来てくれたアルドロンさん、カスパール君、ローゼリアちゃん、リリアさん、そしてリルに手を振る。
そしてルシアン様と共に、日本の佐倉家のイメージを心に強く念じた。
ルシアン様の指にはめられた漆黒の宝珠が光り輝き、私の聖剣に埋め込まれた紅い宝珠も呼応するように光を放った。
二つの光が混じり合い、私たちを包み込む。視界が真っ白に染まり、次の瞬間、足元に確かな感触が戻ってきた。
そこは、見慣れた佐倉家の「花の部屋」だった。
部屋の中には、ルシアン様グッズが所狭しと並べられている祭壇があり、勇者たちの等身大パネルが飾られている。
その中のルシアン様の等身大パネルが、彼らの通り道となった証拠とばかりに、まるで彼自身がそこにいるかのように光り輝いていた。
無事に召喚されたことに、私たちは思わずホッと息をつく。
そして、私は佐倉花の姿に戻っていた。見慣れた黒髪に、こげ茶色の瞳。以前の私に戻っていることに、少しだけ安堵する。
部屋から漏れる光があまりにも眩しかったのだろう、すぐに母の陽子と父の剛が慌てて駆けつけてきた。
「花! ルシアン様、ようこそ!」
お母さんは、約三か月ぶりの再会に、満面の笑みで私たちを迎えてくれた。
父の剛も「ルシアン様、花、おかえり」と温かい声で迎えてくれた。
お母さんは、今日私たちが来ることが分かっていたから、すでに豪華なごちそうを用意してくれていた。
温かい湯気が立ち上る食卓を囲み、家族水入らずで楽しい夕食の時間を過ごす。
両親が本当に嬉しそうで、その姿を見ていると、私の胸にもじんわりと温かさが広がった。
ルシアン様もまた、日本の家庭料理を穏やかな表情で味わいながら、この故郷の温かさに包まれているようだった。
私たちは改めて「夫婦」としての新たな日々を噛みしめた。
楽しい夕食のひととき。
温かい家庭料理を囲みながら、私たちは日本での結婚式について話し合った。
「結婚式は、佐倉家の庭でアットホームにしようと思うんだ」
私がそう切り出すと、父と母は嬉しそうに頷いた。
「あまり、この世界で派手に目立たない方が良いだろう。今回は、家族や親しい友人だけで、静かに式を挙げたい」
ルシアン様も、これまでの経験から、自分たちの存在が世間の耳目を集めることの危険性を理解しており、そう提案してくれた。
以前、勇者たち全員で佐倉花の学校の留学生として通ったり、コスプレイベントに参加したりと、その派手な行動がSNSで拡散され、かなりの話題になってしまったからだ。
衣装については、勇者の世界で既に用意してきていた。私のための純白のウェディングドレスと、ルシアン様のための上品なグレーのタキシードだ。
「和装もしてみたいなあ!」
私が呟くと、お母さんが「花、実はもう手配してあるのよ。白無垢と色打掛、どちらも試せるようにしてあるから、楽しみにしていてね」と笑顔で頷いた。
「もちろん、ルシアン様の和装も、花婿に相応しいものをいくつか用意してあるわ。きっと素敵よ。」
和装のルシアン様!? 想像しただけで尊い……! 絶対にカッコいいに決まってる!」
私は、胸を高鳴らせた。私の「推し活」のボルテージは、もう天井知らずだ。
隣のルシアン様は、私の熱弁に困惑したような、しかしどこか満足げな表情で小さく頷いていた。
食事の途中、ルシアン様は持参してきた映像を記録した媒体をお父さんに手渡した。
「これは、先だって魔界で挙げた婚礼の記録だ。魔界では、これで我々は正式に夫婦となった」
彼は続けて、日本の両親に丁寧に説明した。
「日本でも挙式を挙げ、その後、我々勇者の世界での婚礼を終えれば、本当の意味での夫婦となる」
父は真剣な表情で頷き、母と共に早速、映像を再生し始めた。
魔界での結婚式の映像が流れ出すと、二人とも大興奮だった。
食い入るように画面を見つめ、荒々しくも幻想的な魔界の風景、巨大な幻光獣や漆黒の巨鷹、そして各部族による規格外のパフォーマンスの数々に、目を輝かせている。
「まぁ、花! なんて素敵なドレスなの! 魔界の闇に映える漆黒のドレスが、本当にあなたに似合っているわ!」
お母さんは、特に漆黒の婚礼衣装を身につけた私に感動したようで、瞳を潤ませながら声を上げた。お父さんもまた、「ああ、本当に美しい……」と静かに呟き、私の姿から目を離せずにいた。
二人に心から喜んでもらえて、私も嬉しかった。
特にお母さんは、映像に映るルシアン様の魔王形態にも目を奪われたようだ。
「あら、ルシアン様! えありす先生の『魔法使いの王ルシアンと四人の勇者の物語』に描かれている魔王ルシアン様と、まさに同じじゃない! 本物だわ!」
彼女は興奮冷めやらぬ様子で叫んだ。物語の中の存在が、今、目の前で映像となり、そして現実の姿としてそこにいるという事実に感動を隠せないようだった。




