第四章(3):目覚めの隣に、魔王の戸惑い
翌朝。
ふと目を覚ますと、隣から何やら動かない気配を感じた。そちらを見ると、先に目を覚ましていたルシアン様が、ひどく驚愕した様子で、私の隣で完全に固まっていた。
「……セラフィナ?」
ルシアン様の声は、普段の落ち着きとはかけ離れた、微かに震えるような響きを含んでいた。彼はゆっくりと体を起こし、自らの不始末を確かめるように、私との間にそっと距離を取ろうとしながら、その視線は、恐る恐る私の顔色を窺うかのようにさまよっていた。
「お、俺は……昨夜、酒の勢いで、お前を……何か、無礼なことをしてしまったのでは…?」
彼の問いは、自身が定めた一線を超えてしまったのではないかという、深い懸念が滲み出ていた。その顔色はまだ青ざめている。
「大丈夫です、ルシアン様!」
私が慌てて首を振ると、彼は明らかにほっとした顔をした。
「ルシアン様、昨日は本当にお疲れだったのです。私、ずっと見ていましたから」
そう言って、彼の頑張りを労うように、にこりと微笑む。
「そして、ありがとうございました。私たちのために、あんなに素晴らしい婚礼を催してくださって」
私の言葉に、ルシアン様の表情から緊張がすっかり消え、まるで重荷を下ろしたかのように、深く息を吐いた。彼は自分の状態を確認するように、ゆっくりと手を開いたり閉じたりしていた。
私は、ルシアン様の心底安堵した顔を見て、ふと、ある考えに辿り着いた。
「ねえ、ルシアン様」
「なんだ?」
私は彼のまっすぐな視線を受け止めながら、少しだけ身体を彼の方へ向ける。
「私たち……この魔界では、正真正銘の夫婦になったんですよね?」
私の言葉に、ルシアン様は僅かに目を瞬かせ、すぐに深く頷いた。
「ああ。もちろん、そうだ」
「だったら……同じ部屋で眠るのも、もうおかしくはない、そう思いませんか?」
私の言葉に、ルシアン様はぴたりと動きを止めた。彼の瞳が、深い蒼色を揺らしながら、私の顔をじっと見つめる。
そして、私は確かな決意を込めて、彼の瞳をまっすぐ見つめ、はっきりと告げた。
「むしろ、私は……ルシアン様と一緒に、眠りたいです」
そう告げた瞬間、普段は完璧なまでに感情を隠すルシアン様の頬が、みるみるうちに薄紅色に染まっていくのが分かった。驚きと、困惑と、そして微かな喜びが入り混じったような、少年のように照れた表情を浮かべる彼を見て、私は思わずくすりと笑ってしまった。




