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美術館の片隅で、僕は色彩の証明を乞う

 田中恵一たなか・けいいちは偉大な画家を夢みていた。

 しかし、彼の作品はいまいち、観客の心をつかむことができなかった。

 彼は過去になくした崇高の美を取り戻したいと思っている。それがあれば、受けいられると思った。

 そんなある日。彼は美術部の部長の、中村久美子なかむら・くみこに誘われて、新宿の美術館を回ることになったのだ。


「おはよう。恵一くん」

「おはようございます。中村会長」

「今日は、よく来たわね」

「それは、会長からの誘いですから、断るわけにはいけません」

「わたしのこと惚れた?」

「まさかですよ。僕は、ただ美術作品をみたいだけです」

「あらつれないわね。将来、つまらない男になるわよ」

「僕にはどうでもいいことです。美術がすべてですから」


 田中はふと、そういうと、美術館の中に入っていく。

 そこで、まず目に入ったのは、小さな船と船乗りだ。


「印象派の始まりね。印象、日の出だわ」

「へえ、これが印象派の始まり」

「モネはこう述べているわ『ル・アーヴルで部屋の窓から描いた作品で、霧の中の太陽と、そそり立つ何本かのマストを前景に描いた』、光の加減で世界を投影した初めての作品ともいえる」

「僕にしては、船乗りと霧にしか見えません。これのどこかすごいのですか?」

「印象派は光加減がうるさいのよ。恵一くんは光を意識して描いたことがあるのかしら? 光を繊細に描くこと」

「ないですね。あえて言えば、暗いか、明るいかしかないです」

「それだと、作品がつまらないわよ?」

「そうですね。印象派の作法を学んでいきます。で、この作品はどういうものなんですか?」

「さっきも説明した、印象派の始まり。フランス北西部の都市ル・アーヴルの港の風景をやわらかい筆の動きで描いているの」

「やわらかい筆ですか?」

「そう、恵一くんの筆とは違うわね」

「そうですね。僕は、強いか、弱いか、で物事を確定しています」

「それは印象派には似ているけど、もっと光加減を意識した方がいいわ」

「勉強になります」


 そういうと、次の作品へと向かっていく。

 それは、裸の女性が横わたっている絵画だ。


「あら、これは有名なオランピアだね。すごい絵なのよ」

「なにがすごいですか? 裸体な女性なんて、どこでもあるじゃないですか? ヴィーナスとか」

「それとこれは違うのよ。崇高な神ではなく、娼婦の絵になっているのよ」

「娼婦? 娼婦がモデルなんですか?」

「そう。昔はね、裸体になっていいのは、神や天使だけなの。なのに、マネはその掟を破った。娼婦をモデルにしたの」

「どうして、神や天使が裸体になっていいのですか?」

「それはね、伝統的なもの、風景画、理想的な美だからこそ、裸体になっていいものなのよ? まあ、いきなり、娼婦を崇高なるものになるなんて、当時な人は怒りだして、バッシングしたわ」

「気持ちはわからないもでないです。信じていたものが破られるのですから、バッシングされても当たりえ前ですね」

「というわけで、この作品は世界を揺るがせた一枚の絵なの。見て、娼婦が裸体になっているよこに、召使もあるのよ」

「なるほど。こういうこともありなのか?」

「で、恵一くん」

「なんでしょうか?」

「こんど、わたしがモデルになってやるから、オランピアみたいな作品作らない?」

「いやです」

「辛辣だね」

「僕には理想な美があります。それを追い求めるためには、なにをしてもいいのです」

「じゃあ、その理想の美とはどういうことかしら?」

「それは、輝くなにかです」

「輝くなにか?」

「はい。今現在、弱いか強いかしかありません。僕は、ぱっと、それを逸脱したものを描きたいのです。子供のころに見た、あの時みたいに」

「それはどういうものかしら?」

「説明には苦しいですが、弱いか強いものではありません。なにかぱっと、鮮やかで、絢爛たるものですね」

「そう、それが展示されているといいわね」

「はい。そのような作品が見つければいいのですけど」


 こうして、二人はオランピアから離れて、次の作品に移動する。

 その作品は、広場の人々が多く集まっている絵画だ。


「ムーラン・ド・ラ・ギャレットね」

「人が多いですね。よく描き切れましたね」

「そうね。それが、ルノワールのすごいところでもあるわ」

「といいますと?」

「ある人は踊り,ある人は話し込み,またある人は物思いに耽るように木にもたれ…と思い思いに過ごしており,今にも賑やかな声や音楽が聞こえて来るような一枚の絵。キミはこう活き活きとしたものを描けるかしら?」

「写真をまねるならできるかもしれません。でも、僕は人の光加減が少々苦手です」

「なら、印象派をよく勉強するのよ。この絵画みたいに」

「この絵画のすごいところは、人が多く描かれているところですか?」

「それだけではないわ。よく見てみて。右側に踊らず、席に座っている人たちと、踊っている人を明確にかき分けているわ」

「そうですね。完全に分けていますね。構図もよく考えています」

「完全に分けている証拠に、左半分が踊っている人になっているわ。動と静がはっきりと分けているの。線を引いてみてごらん」

「確かに、だから、この絵画はすごいのか」

「それもそうだし、光加減も繊細に変わっているのよ」

「それについては、よくわかりませんね。僕には同じのように見えます」

「まあ、厳しい批判ね」

「仕方ないじゃないですか、同じに見えるのですから」

「しょうがないなあ、キミには印象派をレクシャーしないといけないね」

「面目ないです」


 そういうと、二人は次の作品へと移動する。

 その絵画は、一人の踊り子が前にと堂々と踊っていたのだ。


「舞台の踊り子ね」

「これは暗い絵ですね」

「舞台だから、暗いのね」

「で、この絵はなんですか? ただ、踊っている子にしか見えません」

「これはね、人工的な光に下半身から上半身に向かって照らされる踊り子の表現を見てほしい。秀逸の出来栄えを示していて、ドガーが得意とし、しばしば自身の作品で取り上げ表現した人工光の描写。これは、斬新かつ効果的に舞台上の踊り子を引き立たせている。また対象が瞬間的にみせる肉体の運動性や躍動感、踊り子の衣装の絶妙な表現も本作の注目すべきものよ」

「人工光? 舞台の照明ですか?」

「そうよ。照明を意識して描いているの」

「へえ、そうなんですね。やはり、僕には弱い強いしか感じません」

「そう見えるかもしれないわ。でもね、この作品は浮世絵の影響を受けているのよ」

「そうなんですか?」

「そうよ。観者が踊り子を上から見下ろすという非常に大胆な構図なの。画面奥には踊り子らのパトロンと、出番を待つ脇役の踊り子の姿も描かれているわ」

「これはまた勉強になります」

「キミも色々と学ぶといいよ。美学はひとつではないからね」

「はい。僕はあの理想の美を追いかけていますから」

「そうね。キミがその理想の美に近づければいいわね」


 そういうと、二人は美術館の休憩場所に到着する。

 そこには小さなレストランがあったのだ。


「すこしここで休憩しましょう」

「え? 休憩ですか?」

「そう、ここで、印象派についてお話をしながら、ご飯を食べましょう。その次には絵画体験があるわ。恵一くんの腕を見たいわ」

「わかりました。僕も絵を描きたい気分です」

「あら、それは楽しみね。キミの絵は最後のお楽しみにするわ」


 二人はレストランに入ると、店員が席を案内する。

 案内された席に二人は座ると、メニューが配られる。


「中村会長はなにがいいですか?」

「そうね、睡蓮ハンバークもいいわね」

「僕は、ひまわりハンバーグにします」

「あら? 珍しく同じハンバーグだわね」

「でも、ひまわりは野菜のデコレーションがあります。ゴッホのひまわりをモチーフしたらしいです」

「へえ、それは来てのお楽しみね」

「はい。そうですね」

「じゃあ、店員さんを呼びましょう」


 そういうと、中村は店員を呼び、メニューを注文したのだ。

 店員は承ると、厨房の中へと消えていく。


「さてと、印象派のレクチャーの時間よ」

「はい。お手柔らかに」

「先ほども言ったけど、印象派は光を描く行動のことを言うのよ。始まったのは、19世紀のモネね。彼が初めて描いた作品。印象、日の出になるわ」

「じゃあ、印象派の前はどんなふうなものですか?」

「それは、アトリエで描くような、ロマン主義や写真主義ね」

「ロマン主義? 写真主義」

「そうね、まずは、芸術の歴史を辿ったほうがいいわね。まず、絵画とは権力者によって作成されたものよ。例えば、貴族や宗教のものとかあるわよね?」

「はい、確かにそうですね。中世の絵画は神や天使みたいなものが描いていますね」

「そうなの。で、面白いのはここ。人々が真剣に美術を取り込んだのは3000年前なのよ」

「そうなんですか? てっきりもっと前に続いたと思っていました」

「まあ、2万年前にラスコの洞窟の中で、マンモスを狩る絵もあったが、それも真剣なものじゃないわ」

「そうなんですね」

「ギリシャ時代になると、ギリシャ美術。それは、本物そっくりとギリシャ彫刻。人間のありのままを再現するようなものを描くようにしたわ」

「確かにギリシャはそういうものしかないですね」

「ところが、時代はルネサンスになる。レオナルド・ダ・ヴィンチは油絵具を薄く塗り、指でぼかすようなことをしていたわ。波形と調和するためね」

「そんなテクニクがあったのですね」

「時代は動いて、美を否定する活動があった。それがロマン主義よ」

「でましたね。ロマン主義」

「はい、ここのロマン主義は感じ方にあると信じる、ポートレールは、絵画は神話的や個人の内面や感受性を鮮やかに表現するようにしたわ」

「それってどういう意味ですか?」

「まあ、強いて言えば、神話や物語を絵画にすることが多くなった。超人的な物語が描かれる。例えば、神話の物語の断片。有名なのは、ヴィナスの誕生ね」

「それは呆れるほど、勉強しました」

「そのあと、世界は動き出す。技術が発展して、産業革命二入るわ。新聞やメディアが発展していく。絵画は資本家、中流階層まで広まったわ。まあ、写真もこの時代に登場したわ。そこで、とある画家がこう宣言する。絵はリアルに描かなければいかない。それが、クールベのリアリズムの宣言」

「これは同意ですね。絵画はリアルに描く必要があります」

「あら、クールベのファンかしら?」

「はい。僕はクールベの絵画が好きです」

「なら、クールベとモネの逸話は知っているかしら?」

「クールベの逸話ですか? どういうものですか?」

「その話はあとでするわ。ほら、ご飯が到着したわ」


 店員が料理を二人の前に運んで来る。


「さあ、食べましょう」

「そうですね。いただきます」


 手を合わせてから、二人は料理に手を出す。


「うん、睡蓮ハンバーグ。見た目も睡蓮みたいで、ソースを水辺として表現しているわ。素晴らしいわね。味も美味しいわ。柔らかい肉に、肉汁が口全体に掘りがっていく。ソースが絡み合う甘さは素晴らしいわ」

「僕の、ひまわりハンバーグも美味しいです。ケチャップでデコレーションしていて、花はピーマンを添えて、ひまわりみたいです。味も、ケチャップと肉が混ざって、舌を緩和していきます。美味しいです」

「ふふ。それはよかったわ。さて、早く食べましょうか。料理が冷める前に」

「そうです。早く食べて、クールベの話をしましょう」

「キミはクールベ好きだね」

「はい。尊敬している画家です」


 そして、二人は料理を食べ終える。


「じゃあ、食べ終えたところで、クールベの逸話を話しますか」

「よろしくお願いします。中村会長」

「はい。クールベの逸話。それはある日のこと。クールベはモネのアトリエを訪ね、一緒に制作をしていたところ、モネは筆を握ったままじっと立っているだけで、何もしていない時があった。クールベはなぜ、絵を描かないのか、と尋ねる。すると、モネは太陽を覆い隠す雲を指を指して、あれのせいだと言い出した。クールベは笑いながら、暗い影の部分はともかく、背景は今でも描けるじゃないかと言いましたが、モネは黙ったまま、いつまでも太陽がでるのを待っていたのです。クールベは太陽をものや風景に影を落とすもの、あるいは物を照らすただの光源だと考えたのですが、モネにとっては光は世界の全てだったのです。モネは光の世界を主観的に描き、一見現実離れしているような世界を追求し続けました」

「なるほど。モネの偉大さがわかりますね」

「そう、クールベは光を甘く見ていたのよ」

「そう聞くと、ますます印象派が気になりますね」

「ふふ、じゃあ、印象派の話を戻しましょうか。印象派は当初、バッシングを受けました」

「え? こんなに広まっているのにですか?」

「そうよ。全く受けいられない大スキャンダルのものだったわ。揶揄されたくらいのものよ」

「そんなに酷かったのですか? 印象派って」

「まあ、今までの美を壊したのだから。それは怒られるわ」

「美を壊した?」

「そう、評論家には雰囲気でしか描いた作品と揶揄されている。描きかけの壁紙より完成度が低い、とのこと」

「そうなんですね」

「決めてがマネの作品。草上の昼食、それは娼婦がピクニックしている様子。女性の肉付きが平面的でのっぺりした印象。画家たちはマネを称賛するけど、世間はそう思わしくおもわないわ。とくに、オランピアは社会を突き刺すような絵画であり、人簿とはばっしんぐしたわ」

「確かに、娼婦の絵だと、受け入れがたいですね」

「まあ、でも、その後に出てくる画家たちの活躍によって、印象派は名誉を回復できたわ」

「それを聞くと、僕も安心ですね。印象派を楽しく眺めれます」

「じゃあ次は絵画体験ね、キミの腕を見せて頂戴」

「はい。わかりました」


 二人はレストランをあとにすると、絵画体験があった。

 そこには、キャンバスと絵の具がおいてある。画家が自由に絵を掻いて良いスペースでもある。


「じゃあ、僕、絵を描いてみます」

「わかったわ。じゃあ、モデルは、そうね。あのツボでいいかしら?」

「はい、わかりました。あのツボを描けばいいのですね」

「そうよ。そのツボを光加減を描くようにね」

「わかりました。印象派の作品をマネてみます」


 そういうと、恵一は絵を描いて見るのだった。


「絵を描いているうちに、印象派の画家を紹介しますか。耳だけすませてね」

「はい。わかりました」

「ゴッホ。彼はオランダの画家絵の具の質感を顕著に感じさせる力強い筆使いの画家。とくに自身の内面をそのまま反射したかのような緊張感のある独特の表現は、ドイツの表現主義や後世に影響を与えた画家でもあるのよ」

「あのひまわりで有名な画家ですか?」

「ええ。そうよ。でも、彼の人生は短かった。37年で他界してしまった。自殺なのか他殺なのか、いまでもよくわかっていない事件だわ」

「そんな短い人生なんですね。ゴッホは」

「それでも、膨大の作品を残してからなくなったわ。彼の幼少期のころは、画商や本屋伝道師として、働いたため、画家として行きたのは、修行時代含めても10年ほどしかないわ」

「10年だけですか?」

「短いでしょう?」

「はい。30年間絵を描いていると思っていました」

「残念ながら、そうじゃないわ。彼は天才よ。燃え盛る太陽のように命を燃やして、絵画を作成している。彼が遅くなってから絵画に目覚めたのは、様々な道を模索してきたと考えられているわ」

「人生に迷う人はどこにもいるのですね」

「ゴッホはモネやルノワールのように最初から画家のいちを示したのではないのよ。むしろ、生きる手段、薬として絵を描くという営みだった」

「といいますと? 生きるために絵画を制作したのですか?」

「ええ。そうよ。命を立つまでね。彼を語るならば、3つの単語が関連してくる。愛、狂気、執念。ゴッホは絵画に限らずに、対象をあいさずにはいられない人だったから」

「それは芸術家らしい単語ですね」

「彼の愛は強烈で、相手を焼き滅ぼしてしまうほど、強かったため、その愛はほとんど、受け入れてもらいないわ」

「淋しい画家ですね」

「彼が有名に起こした事件は知っているかしら?」

「はい、あの耳切り事件ですね」

「よく知っているわね」

「芸術家なら誰でも知っていると思います」

「彼の愛は大きすぎるから起きた事件とも言えるわ」


 恵一は手を止めて、ツボを見つめる。

 光の当て方をどうしようか考えているのだった。

 そこで、中村会長は口を開く。

 

「わたしは、赤と緑で、人間の恐ろしい情念を表現したい」

「なんですかそれは?」

「ゴッホの有名なセリフよ。彼はその言葉を画商である弟に送ったのよ」

「狂気ですね」

「だから、狂気の画家なのよ。ゴッホは」

 

 中村会長は一度ウインクしてから、話を綴る。


「画家を志した当初は、暗いところで、労働者の絵を描いてたわ、でも、この手紙を書いたあとは、強烈な絵が描くようになったわ」

「まるで、自分を見つけたようですね」

「まさに、そう。キミが失ったものと同じよ」

「僕が失ったものですか?」

「そう、キミは過去に崇高の美を見たことあるのでしょう?」

「はい。僕にはそれを見たことがあります。言葉に表現できないですけど、それは様々な光をもっていました」

「じゃあ、恵一くん。わたしの質問に答えてほしい」

「はい。なんでしょうか?」


 中村会長はとある物を持ち出すと、口を開く。


「これは暗い、明るいもの?」

「……それは、明るいものですね」

「そうね、キミが失ったものはなんなのか、わたしにはわかったわ」

「で? もうわかったのですか? 

「そうよ。キミが言う崇高な美はこれだと思うわ」

「それはなんですか? 教えてください」

「まず、ゴッホの話を続けよう」


 中村会長はそういうと、そのものを仕舞った。


「ゴッホは意図せずに人間の心の深淵に迫るような作品を生み出していたのよ。風景、静物、人物、それらすべてがゴッホ飲めを通した世界でもある」

「画家はそうじゃないですか? 自分の目を通して描くのですから」

「そんなじゃないわ。ゴッホは狂気だと言ったでしょう? 彼飲めに見えているものは、狂っているのよ。精神異常者のようにね。だから、彼が描くものは誰にもマネできない唯一無二なのよ。キミと同じね」

「僕と同じ?」

「ゴッホの作品を紹介していくわ。まずは、馬鈴薯を食べる人々、ジャガイモを食べる人々、彼が本気で画家を目指すことになった最初の絵にもなるわ。32歳になって描いた絵でもある」

「すごいとしで描いていますね」

「貧しい労働者階級の家族の絵画。小さなランプの下で、夕食としてジャガイモを食べている絵。暗くて、悲しい絵でもあるわ。労働者を寄り添うような一枚の絵でもある。ゴッホは青年期に牧師を目指したこともあるのよ。そこで、貧しい人々を目当たりにし、たくましく生きていく彼ら二心を打たれて、描いた作品よ」

「ここに展示されていますかね?」

「残念ながら、展示されていないわ」

「残念です。暗い絵のゴッホを見てみたかったです」

「次は最後の作品。ここにも展示されているゴッホのひまわり。ひまわりは、複数の絵画の総称で、花瓶に活けられたひまわりをモチーフにしているのよ。太陽に向かって、咲く花に心を打たれたゴッホは必死にひまわりの絵を何枚も描いているゴッホの「ひまわり」は、単なる模写ではなく、それぞれの作品に独自のタッチや色彩が施されている。考察を重ねながら制作されたことがわかるわ。また、ひまわりはゴッホにとって、理想を追い求める芸術家の象徴であり、共同生活を送る仲間たちのために、ひまわりの絵で部屋を飾りたいという願望があったとされている」

「へえ、そんなメッセージがこまれているのですね」


 恵一はそう言いながらも、ツボの概要を完成させる。

 問題はその後の工程、色塗りの工程であるのだ。


「ああ、待って、それを塗る前にわたしが選択するわ」

「明るい、暗いのはどちらでもいいじゃないですか?」

「よくないわ。世界はもっと、崇高な美に満ちている」

「中村会長、さっきからなにをしているのですか?」

「キミに相応しい、やり方を模索しているのよ」

「僕に相応しいやり方ですか?」

「そう。絵画はね、キミが言う崇高な美はあるのよ。でも、それがわからないキミに選んでいるのよ。はい。明るい色と、暗い色」

「わかりました。この二色で塗ればいいのですね?」

「ええ。そうよ。頑張ってね」

「はい」


 その絵の具を受け取ると、パレットに濡らして、絵に色をつけだす恵一だった。


「作業をしながら、聞いてね。キミが言うなくしたものはなんなのか、わたしにはわかったわ」

「それはなんでうか?」

「キミが失ったのは、色なのよ」


 ここで、恵一は手を止める。


「なにを言っているのですか? 中村会長。この世界の色は2つしかないじゃないですか、明るいか、暗いか」

「それはキミの目を通した色よ。実際はこの世界は七色もあって輝いている」

「そんな馬鹿な」

「なら、キミはあのツボを何色に見える?」

「明るい色です」

「ぜんぜん違うわ。それはね、青色なのよ」

「あの? 青砥はどういう色ですか?」

「キミが塗っている色と同じ色」

「僕には違うがわかりません」

「なら、これをかけてみなさい」


 中村会長はそういうと、サングラスを取り出して、恵一の手に渡す。

 恵一はそのサングラスを受け取ると、そのまま着用する。

 すると……


「あ……」


 ……世界が変わった。


「自分の絵をみてごらん? ツボを見てご覧。そうではなく、この美術館にあるものを見てご覧。それは絢爛たる、無数伸びであり、キミが言う崇高の美が目の前にあるでしょう?」

「はい……これが、僕が見たかった美です。僕がずっと、子供の頃から失われた美なのです」

「キミは色盲なの。色を見えない目なのよ。だから、キミが作る作品は色が派手で、尊重されないのよ。キミの目を通したモノクロしかないから。でも、世界は違う。世界は崇高な七色で、絢爛な美があるのよ。世界はこのように出来ているの」

「これが……僕が失われた美なのですね」

「そうよ、そのメガネはキミのために作ったものよ。だから、遠慮無く使っていいわ」

「ありがとうございます。中村会長」

「どういたしまして」

「それで、会長は僕が色盲であるのは、いつから気づいたのですか?」

「キミの作品をみてすぐわかったわ。色盲であることにね。でも、キミにどう伝えばいいのか、困っていたわ。だから、このように回りくどい作戦にしたわ」

「作戦大成功ですね」

「そうね、キミが喜べばいいわ。さあ、作品を作り上げましょう。それから、もう美術館をもう一周しましょう。今度は色を見ながら、作品を鑑賞しましょう」

「はい。わかりました」


 そこで、恵一は中村会長と美術館を一周する。

 その後、恵み一が作り上げる作品は色鮮かやかで、様々な光をもらった。

 後ほど、彼は現代印象派の青年としられるようになったのだ。

 


はじめまして。

ウイング神風です。

始めて小説家になろうに投稿してみました。

作品が気に入ってもらえれば幸いです。

私自身、哲学が大好きな変態紳士なので、異論は認めます。

人々に楽しさを与えるような作品を執筆したいと思っていますので、

ごゆっくり精読していってください。

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