第九節:神使、起きたくないってよ。
翌朝。
目覚ましのアラームが5回目に鳴ったあと、私はようやく布団の中で片腕を伸ばした。
「……うるさ……現実、まだ続く感じか……」
体がバッキバキだった。特に、普段動かさない肩と腰。
もう一歩も動きたくない。ていうか今日、登校日ってどういう地獄?
スマホを開くと、**“東京都内で小規模な爆発音と騒音被害。原因は不明”**のニュースが上に出ていた。
ぼんやりそれを眺めながら、私は思う。
(……あれ、やっぱ夢だったんじゃね?)
部屋の向こうから、トントン、と控えめな音。
「ミコト~、起きてる~?」
ゆるっとした声。
扉を少し開けて、白い耳がぴょこっと覗いた。
「おはよう。ユキです」
「……ああ、夢じゃなかった」
テンション、0。
ユキはにっこり笑いながら私の布団にずかずかと入り込んでくる。
ぬくもりとモフみが私の理性を溶かしにきてる。
「ほらほら、起きないと。キリが朝食作ってるよ~。見た目ちょっとアレだけど、意外と味は悪くないよ?」
「やなフラグ立てるな……」
布団に沈む私の背中に、黒い影がすっと落ちる。
「こら寝るな。起きろ神使。新たな神域への調査、今日からだ」
「うわ、始業式の通知みたいなこと言ってくる……」
キリは既に、いつものごとく背中にちょっとした刀っぽいものを担いでいる。
ウサギの癖に準備万端すぎない?
「今日は“神域”のひとつ、北のほうに異変が出てる。早めに移動して調査した方がいい。神の気配もある」
「ちょ、まって。いま、“北”って言った? まさか――」
「うん、たぶん青森」
「新幹線で行くの……?」
「いや、ワープする」
「ファンタジーかよ!」
「うそ」
「うそかよ!」
私は頭から布団を被った。
昨日、神と契約した。
言霊の力が目覚めた。
世界の“裏”が見えるようになった。
――でも、これがずっと続くのかと思うと。
「……だれかこの設定、1回リセットして?」
「無理無理、それもう配信されてるから」
「この人生、バグってない?」
「バグじゃなくて仕様です」
「やめて公式感ある返し……」
現実逃避が通用しないのを悟りながら、私はモフモフに挟まれたまま、ぐにゃりと溜息を吐いた。
外ではすでに、光と影がせめぎあいながら一日を始めている。
けだるさと共に、でも確かに
――私はもう、知らないフリができない場所に来てしまったんだ。
ぐうたらJK VS ぐうたらはさせない兎
ファイ!
次節 神域巡行録が突然始まる編の開始です。