表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/45

第五節:静謐にして荘厳なる


突如として、世界が沈黙した。


ざわめきもクラクションも、工事の音も、カフェのBGMすらも——

まるでテープを巻き戻すように、静かに、丁寧に、音が消えていく。


そして——


「……チリン……」


静寂の中心に、ひとつの鈴の音が落ちた。

乾いた冬の空気をくぐり抜けるように、その音は優しく、確かに鼓膜を叩いた。

遠くから、風に運ばれてくる。けれど、なぜかすぐ傍で鳴っているようにも感じる。


「な……ん、だ……?」


キリが低く呟く。

その身体が、ぴたりと止まった。耳が、ピンと張り詰めている。


「この音……まさか……っ!」

ユキも、肩を震わせた。


再び、「チリン……」


まるで何かがこちらに近づいてくるように。


ひとつ、またひとつ——鈴の音が、徐々に、間隔を詰めてくる。


そして



——天に、裂け目が走った。



光が差し込む。だがそれは、太陽の光ではなかった。


白でも金でもない。夜明け前の群青に、仄かに紫を溶かしたような、神の色。


その光の中心から、**ひとつの“点”**がゆっくりと姿を現す。


「……行列?」

私は、そう思った。


最初は一人の影だった。


だが、その背後には、幾筋もの白い煙のような影が続いている。


まるで、神輿の渡御のように——荘厳に、静かに、時間と空間を裂いて、

“あちら”から“こちら”へ、存在そのものが歩いてくるような感覚。


風が止まった。


新宿のビル群が、まるで屏風のように沈黙している。


「……来る……!」


キリの声に、怯えが混ざっていた。


ついに、その“点”が地を踏む。


長い黒髪。


漆黒の衣に、揺れる帯。


その足元には、かすかな光が舞う。まるで、空気に散った花弁のように。


「——大国主命……」

ユキが、呟いた。


神は、立っていた。


私たちの世界の只中に。


その姿は、人とも、神ともつかない。


だけど、誰もが「この存在は“上”のものだ」と直感する。そういう重さがあった。


「……おい、ミコト」


キリが私を見た。

「お前、どうやらホンモノに見初められたっぽいぞ」

だがその“軽口”の奥には、尊敬にも似た沈黙があった。


神の視線が、こちらを射抜く。

その目は、悲しみにも似て、どこか温かくて——


「——藤原ミコト」


たったひとこと。


その名が呼ばれた瞬間、私は理解した。

この人は、ただの“神”じゃない。

この地、この世界の、根っこに関わる存在なのだ、と。


そして、もう私は——


日常へは戻れない。



今日も読んでくださりありがとうございます。

感想・ブクマ・評価・誤字報告、すべて励みになります!


東京にて大国主命おおくにぬしのみこと顕現です。次節では神との初めての対話です。はたしてぐうたらJKの反応は!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ