表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/45

第二節:白兎はパフェを狙う


新宿のカフェは、金曜の午後だってのに混んでいた。いや、むしろ金曜だからか。カップルと女子グループと、あと、インスタ映えを求めてさまようスマホ族が占拠する戦場。


私はその隅っこ、やたら天井が高いくせにやっぱり落ち着かないオシャレ空間で、新メニューの「スモーク抹茶チーズパフェ」なるものを前に、若干顔をしかめていた。


「……なんだろう、燻製の意味って……」


チーズ部分が明らかにスモーキー。スイーツの甘さと煙っぽさが口の中でケンカしてる。和解する気がない。


「でも見た目はかわいいよね! ミコちゃん、撮った? タグつけたらバズるかもよ〜」


向かいに座る友人・毛利リオが、パフェをスマホでパシャパシャしながら笑う。彼女はハイテンションでトレンドに強く、SNSでは“ゆるふわ量産型の皮をかぶった鬼才”と噂されるタイプだ。彼氏とデートの予定だったのに喧嘩してぷりぷりしながら合流した。さすが立ち直りが早い系女子。もう彼氏のことはすっかり忘れている。


「バズっても胃が喜ばないんじゃなあ……」

「食レポ系のネタにしなよ。“話題のパフェ、味覚が戦場”って感じで」

「炎上不可避じゃん……」


それでも一応、私もスマホを取り出して一枚撮った。ちょっと斜めからのアングル。グラスの中で層になった抹茶、チーズ、ベリーソースがキラキラしてる。見た目だけは本当に一級品だ。

そんなふうに、平和でビミョーな金曜日の午後だった。少なくとも、その時までは。


その「声」を聞くまでは——


「やっと見つけたよ」


耳元で、ふわりと響いたその声に、私は思わず肩をすくめた。


「ん? リオ?」

「ん? なに?」


友人はスマホに夢中で、聞こえていないようだった。え、じゃあ今の声、誰……?

私はなんとなく、ゆっくりと足元を見た。


——そこに、いた。


真っ白なウサギ。まるで雪みたいに滑らかで、ふわっふわの毛並み。そして、まっすぐ見上げてくるガラス玉のような水色の瞳。


「……もふもふ?ウ、サギ?」

「うん。そう見えるよね。でも、まあ、ただのウサギじゃないんだよねぇ」


その白ウサギが、喋った。


喋った?


普通に、当たり前のように、私に話しかけてきた。

「え、は?」


「ん〜……びっくりするのも無理ないよね。けどほら、落ち着いて? とりあえず、オレ、敵じゃないから」


ウサギはちょこんと座って、前足で器用に自分を指した。ゆるっとした、でもどこか懐かしい声。幼なじみに再会したような、不思議な親しみ。


私は静かにスプーンをテーブルに戻し、目を閉じる。


「寝てる……夢だこれは……」


「ふふ、そういう反応、久しぶりだなあ。でもね、たぶんそろそろ受け入れた方がいいかも。このあともっと不思議なのが来るから」


「は?」


その瞬間、横から黒い影がテーブルに飛び乗った。白いウサギと対照的な、鋭い目の黒ウサギ。漆黒の毛並みが光を吸い込んでいるようで、こっちは明らかにアヤしい。


「ユキ、無駄口が多いぞ。こいつ、もう見えてるなら話を進めろ」

「はいはい、キリはほんと堅いなあ。もうちょっと初対面の人に優しくしようよ」

「“神の眷属”に、無用な馴れ合いは不要だ」


「え、何それ、中二病?」


私の一言に、黒ウサギがぐっと詰まった。


「……ちっ、人間ごときに……」

「まあまあまあまあ。えっと、改めて。オレはユキ。で、こっちがキリ。オレら、神さまの“眷属”ってやつなんだ」

「……神の、眷属?」

「うん。で、君の名前——藤原ミコト、で合ってる?」


私は動けなかった。カフェのざわめきの中で、二匹のウサギが、確かに私を見上げていた。嘘みたいに鮮明に。これは夢じゃない。スモークチーズよりも、よっぽどリアルだった。


「……なんで、私の名前を?」


ユキが、ちょっと首を傾げて笑った。


「君は、“言霊の力”を受け継ぐ人だからさ。オレら、ずっと探してたんだよ。君のこと」


——その瞬間、背筋がぞくりとした。


空気が、変わった。


風のない室内で、何かが流れ込んでくる。世界の縫い目がふわりとほつれるような、そんな予感。

そして、私はまだ知らなかった。


この日、新宿のカフェで出会った二匹のウサギが——このありえない出会いが、日本全土を巻き込む“神の戦い”の、ほんのはじまりにすぎないということを。


連続投稿の2話目です!

感想・ブクマ・評価・誤字報告、すべて励みになります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ