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アルベルトは、帝国を守るための決断を下したものの、その決断がどれほど大きな意味を持つのかを痛感していた。帝国の首都、王宮では一刻も早く戦術を立てるために急ピッチで動いていたが、アルベルトにとって最も重要だったのは、何を「守るか」ではなく、どう「戦うか」だった。
「帝国を救うための戦いか…。私はただの錬金術師だったはずだが、どうしてこんなことになった。」
アルベルトは以前自分が使っていた作業場へ戻り、錬金術の道具を整えながら、何度も考え直していた。大公ヴァルドが言う「力が必要だ」という言葉を無視してはいけない。しかし、今や彼が手に入れたのはただの錬金術の技術だけではなかった。彼の体内には、大いなる力が宿りつつあった。
数日後、帝国の侵略軍が進撃を開始し、王宮は避けられぬ戦火に包まれようとしていた。アルベルトはついに決心し、再び大公の前に現れた。
「準備が整いました。」
大公ヴァルドはアルベルトを見上げ、ほっとした表情を浮かべたが、同時に緊張の色も見え隠れしていた。
「アルベルト、君が来てくれることを心から感謝する。」
「今さら感謝されても遅い。私は、帝国を救うためにここに来たわけではない。ただ、私の力が必要だと告げられたから来ただけだ。」
大公は少し顔を曇らせたが、アルベルトの言葉に異論を挟むことはできなかった。彼は無言で頷き、戦の準備を進めるよう命じた。
その日、アルベルトは帝国軍の前線に向かうため、強大な力を引き出すための最後の準備を整えた。彼は村での生活の中で、多くの錬金術を使って様々な改良を重ねてきた。その成果を、今、全て注ぎ込む時が来たのだ。
「私の力を見せる時だ。」
アルベルトは手のひらを広げ、ゆっくりと呪文を唱え始めた。その言葉が空気を引き裂くように響き渡ると、周囲の大地が震え、周りの木々が反応した。錬金術の力がその場で膨れ上がり、まるで大自然の力を操るかのように、アルベルトはその力を存分に解放した。
数分後、アルベルトは戦場に立っていた。その姿はまるで異世界から来た存在のようだった。彼の周りには、強力な錬金術で生み出した防壁と攻撃の呪文が形成され、周囲の兵士たちが驚きと畏怖の眼差しで彼を見守った。
「これが、私の力だ。」
アルベルトは静かに告げると、前方に迫る侵略者の軍に向かって歩き出した。その背後には、彼の力を信じる者たちが従い、彼の指示を待っていた。
侵略者の軍が最初に放った矢の雨が、アルベルトの周囲に弾け飛んだ。しかし、アルベルトは一切動じることなく、その矢を一瞬で無力化するための錬金術を発動させた。矢は、まるで霧のように消え失せ、敵軍はその現象に恐れをなした。
「どうだ、これが錬金術の力だ。」
アルベルトの声が、冷たく響き渡る。その時、侵略者の軍の指揮官が顔を歪め、叫んだ。
「なんだこれは…!魔法でもないのに、こんなことが可能だと!?」
だが、アルベルトは一切動じることなく、進み続けた。彼の手からは、次々と強力な爆発を生み出す錬金術が放たれ、侵略者の軍は一瞬で混乱に陥った。
数時間後、戦は終息し、侵略者の軍は壊滅的な被害を受けた。アルベルトの力が、いかに強大であったかが、誰の目にも明らかとなった。
その後、王宮に戻ったアルベルトは、大公ヴァルドと再び顔を合わせた。
「私の力を見たか。」
「…ああ、アルベルト、お前の力を、私は今、心から感謝している。」
大公は頭を下げ、今度こそ本当に心から謝罪をした。
「お前を追放したことを、悔やんでいる。私の過ちだ。」
アルベルトはその言葉を聞いても、特に感情を表に出すことなく答えた。
「謝罪を受け入れるつもりはない。だが、今後、私は再びこの帝国に仕えることはない。」
「ならば、どうしたいのだ?」
「私は、私の道を行く。今後も、私は誰にも縛られない。」
アルベルトはそう告げると、静かに王宮を後にした。彼の目指す先は、再び自らの力を試す場所だった。
そして、帝国はその後もアルベルトの伝説を語り継ぎ、彼の名は永遠に残ることとなった。かつて追放した者たちは、その力を恐れ、後悔しながらも、アルベルトを再び見上げることはなかった。