Chace history
「じゃ、作戦を説明するよ。リチャードやサイの大脳のサーバーはラングレーの本部にある。けど流石はCIA、ここにある装備で突入したとしても、破壊までの成功率は天文学的、確率を上げるなら皆殺ししかなくなる。それは流石に非現実的だよね。だから内側から侵入して、サーバーを外に出させる」
セイバーが作戦の説明を始めた。
「外に出す?サーバーなんてどうやって持ち出すんだ?」
サディアがセイバーの作戦の不可能性に疑問を呈した。
「確かに、現行の流動機械技術は巨大サーバーがあってそこで一括管理されてる。けど、私の元になったサクリファイスは違う。彼女は流動機械生命体って呼ばれてて、彼女自身がサーバーの役目を果たしてた。つまり超小型で運用可能で、万が一本部が攻撃された場合でも即座に持ち出せるようになってるの。この技術をリチャードに送りつける」
「なっ!?そんなことをしたら!!」
モルガンが声を上げた。
「そ、リチャードは手のつけられないヤバいやつになる。リチャードはこの技術に必ず食いつく。そして自身をアップデートして、奴自身がCIAの秘密サーバーそのものになる。ほらおじちゃん。コレにそのデータが入ってる」
セイバーはモルガンにUSBを渡した。
「・・・こいつがあれば、奴を?」
「おじちゃんなら分かるでしょ?リチャードはこの技術を欲しがらない訳がな・・・」
『パァンッッッ!!!』
突如銃声が鳴り響いた。モルガンの手にはハンドガンが握られ、セイバーの頭を撃ち抜いていた。周りにいた客たちが一斉に静まり返った。
「なっ!?モルガン!!何をっ!?」
咄嗟にサディアが銃を突きつけるが、モルガンも同時にサディアに向けて銃を構えた。
「任務完了。すまんな、俺に与えられた任務はセイバーと接触し、その技術を奪う事だ。お前らの始末も頼まれていたが、そっちはサイの仕事だろ?人の仕事を取ってはいけない」
「ひ、人殺し!!警察をっ!!」
モルガンが話してる途中、現状を理解した客たちが慌てふためきだした。
『ダァンッッッ!!ダァンッッッ!!』
モルガンは天井に2発撃ち込み、周囲を黙らせた。
「お前らも全員静かにしろ。俺はCIAだ、そしてこいつらは指名手配犯。本来ならここで始末を付けなきゃいけないが、昔のよしみというのもあるからな、ここは見逃してやるよ。セイバーだって今は修復作業に入ってるだけなんだろ?俺がコレをラングレーに持ち帰ればお前たちだけではどうしようも無くなる。そうだな、森の奥深くで静かに暮らせば良いだろう。そうすれば我々はもうお前たちを追う事はないだろう」
モルガンは銃を下ろして、外に向かって歩き出した。
「う、動くな!!裏切りもの!!」
「手を頭の後ろに回して膝をつけ!!」
そこへサンディとダニエルがモルガンに銃口を向けた。
「何のつもりだ?」
「モルガン、お前を殺人未遂の現行犯で逮捕する!」
サンディが更に銃を突きつける。
「殺人?セイバーの事か・・・分かってないな、そいつは機械だぞ?それに、お前たちで俺を抑えられるのか?」
「4対1だぞ!?逆にどうやって切り抜ける気だ!?」
そしてダニエルは、トリガーに指をかけた。
「やめろ2人とも」
だが、その2人を止めた者がいた。サディアだ。そしてテレサも銃を構える仕草はしない、サディアの指示に従っていた。
「何を言ってる!!今なら!」
「数は圧倒的にこちらが不利、周りの客のうちの10人はCIA、つまりはモルガンの仲間だ」
サンディとダニエルはこの時気がついた、周りにいる客。その中に客に扮した工作員が紛れ込んでいることに。
「・・・っ!!くそ、どうすれば!」
「セイバーを連れて、ここは引くぞ!」
サディアとテレサが駆け出した。それと同時に客に紛れ込んでいたCIAのメンバーがテレサたちに銃口を向ける。
「必要ない、任務は達せられた。後はサイが後始末をつける」
テレサたちの後を誰も追うことはなかった。
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一方その頃、ジョン・F・ケネディ国際空港。
サイはここに立っていた。
「ターゲットは・・・」
「お客様、何かお困りですか?」
死んだような目で周囲を見渡すサイに空港のグランドスタッフの女性が声をかけた。
「人を探している。彼女を見ているか?」
サイは一枚の写真をその女性に見せた。
「あれ?この人は確かニュースで・・・」
「CIA前長官、テレサ マーキュリー。カリフォルニア州、サンフランシスコ出身。身長176センチ、スリーサイズは・・・」
「お、お客様?そこまでの情報は別にいりませんが・・・」
「・・・?」
サイは首を傾げた。同様にスタッフも首を傾げる。
「失礼した。だが、君は彼女を見ている筈だ。そう、その瞳で確実に見ている。脳裏に焼きついていないだけだ・・・その目を見せろ」
サイは突然スタッフの顎を引き寄せ、じっとその目を見つめる。スタッフは突然の事で動揺し、サイから目を離せなくなった。
「すれ違ったトラック・・・ヴィンス・ロンバルディ・・・向かう先はバージニア州・・・だが」
「お、お客様・・・こんな所でそんな///」
スタッフはサイの顔立ちが整っている事と、このようなシチュエーションへの憧れもあったせいか、頬を染めてすっかりその気になっている。
「ここへ戻ってくる・・・お前、今日は暇か?」
「え?仕事が終われば・・・」
「俺と付き合え、拒否権はない」
「いや、その・・・」
スタッフは困惑気味になる。
「疑いの目、俺を危険視しているのか。ならばこの回答をやろう」
サイはとある手帳を取り出し、スタッフへ見せた。
「FBI?」
「そうだ、俺は奴を追っている。捜査に協力して欲しい、無論協力金は出そう。時間はあまりない、5秒以内に応えろ。俺と来るか、来ないか」
「は、はい行きます!!」
「ご協力感謝しよう、車は出せるな?まずはマンハッタン方面へ向かえ」
「わ、分かりました!」
サイとスタッフの女はマンハッタンへと向かった。
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そしてその頃ハイウェイの上 サディアの運転するトラックは南へと走っていた。
「兄さん!このままで良いのか!?セイバーちゃんも目を覚さないし・・・このままじゃ!!」
「分かってる。作戦の第一段階はコレで成功だろ?セイバー」
「ふふ、流石だねぇ・・・」
いつものおちゃらけた声でセイバーはむくりと起き上がった。
「な、大丈夫なのか?」
ダニエルは心配そうにセイバーに声をかけた。
「のーぷろぶれむ!!ぜーんぶ作戦どーり!私がなんであんなフードコートで機密情報まみれの作戦会議したと思う?」
「まさか、最初からあいつらが待ち伏せしていたのを知ってたのか?」
サンディは、驚いた顔で固まった。
「そゆこと。これで未来の技術はリチャードの手に渡った・・・サイの奴がここまで辿り着くにはまだちょっと時間はある。あいつが来る前に、さっさと作戦、第二段階に行くよーーっ!!」
トラックは更に南へとひた走る。そしてバージニア州へと入り、そこにある森の奥深くへとトラックは進んだ。
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バージニア州 ラングレー CIA本部
1人の男がここへ帰還した。モルガン・J・スタンリー、CIAの中でも古株の存在だ。モルガンはスタスタと真っ直ぐ本部の中を進む。そしてとある部屋の前で止まった。
「私だ。PT-MX SAVIRのデータを持ち帰る事に成功した」
「モルガン、よくやった・・・入れ」
部屋の中から声が聞こえ、扉が勝手に開く。奥には現CIA長官、リチャード ベルナルディが座って待っていた。
モルガンは部屋に入るとリチャードの前にある机にUSBメモリを置いた。その直後、テーブルの上にホログラムの映像が映し出される。だが、そこに映っているのは映像の類ではなく、アルファベットと数字たちの羅列が無限に広がっている。これはプログラム言語の類だ。
「なんだこの情報量は・・・このUSB自体も未来の技術だったのか」
モルガンはそこに映るあまりにも多い情報の量に目を見開いた。
「成る程、あのセイバーとか言う小娘。現在の技術ではどうしようもないと言いたいようだな。計算能力、速度共にあのセイバーは我々の
持つサイ、そして大元のスーパーコンピュータ。レッドクイーンをも遥かに凌ぐらしい。更にはこんな小さなUSBにそれらのデータ全てを詰め込めるとはな」
「どうされます?やはり始末をつけておくべきでしたか?」
モルガンはリチャードに問う。しかし、リチャードは鼻で笑っていなした。
「その必要はない、そちらはサイの役目だ。モルガン、サイは確かに現代の最高技術で作った存在だ。だとしても相手は未来の技術・・・そう簡単には越えられない。だが、奴には少し特殊な技術を注ぎ込んだ。無限進化だ。サイが未来の技術に対峙するたび、その技術を即座に戦闘用に変換し進化する。気がつけば、自動的に我々は未来の技術を超えるようにできているのだよ」
「それは、いささか少し危険過ぎるのでは?」
「その為に私がいる。忘れたか?私自身も一度は死に、舞い戻った存在。自身を更にアップグレードしてな。この途轍も無い情報も私は全てを理解出来た・・・もはや、流動機械に巨大サーバーは必要ない。私の後ろにあるコイツも、存在価値は今この瞬間無くなった・・・アップグレード完了、私自身がCIAそのものだ!」
リチャードは力強く言い放つと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「どちらへ?」
「決まっている、私の本来の役目を果たしに行くのだ。選ばれし者が支配する世界へ・・・モルガン、礼を言おう。そして私と共に来るがいい。君はこの世界を支配する権利を得た。君は『捧げられし者たち』の一員となり、この世界を支配しよう」
リチャードはモルガンに手を差し出す。
「・・・有難きお言葉です」
そしてモルガンはその手を握った。