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From the past in the world  作者: 冠 三湯切
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Frontir history

 アメリカ合衆国上空 Cー17輸送機内


 「なぁセイバーちゃん。さっき俺、手配されてるって言ってたよな。て事はよぉ、俺たち全員お尋ね者になったって事か?」


 ダニエルが俯いてセイバーに質問した。


 「もちろんだよ。ダニーも、サンディも指名手配。テレビくらいなら付けてあげるよ。ほら、これが今の現状」


 セイバーはホログラムでテレビ映像を映し出した。


 『臨時ニュースです。CIA前長官リチャード ベルナルディ氏が再起用されました。以前、汚職により逮捕されていたリチャード氏ですが、ここに来てこれらの事件がフェイクであったと証明され、更には死亡説等も囁かれておりましたが・・・』


 テレビのニュースではリチャードがCIA長官に再任命されるニュースが流れていた。


 「これが権力ってやつだねぇ。メディアをちょっと弄るだけで何もかも変えることが出来る。私たちのAIって考えうる最善の手段を考えるように出来てるけどさ、最悪の手段を考えられるのってまだまだ人間の方が上だねぇ」


 セイバーは呑気にオレンジジュースを飲み出した。


 「どうすれば止められる・・・セイバー、お前は何か策があるんだろ?モルガンに会ってどうする気なんだ?」


 サディアが拳を握りしめてセイバーに問い詰めた。


 「ん?あぁ、モルガンおじちゃんがサクリファイスの設計に携わってたのは聞いたでしょ?私が思うにそこを経由すればタイラーの居場所が分かる気がするの。そして敵さんもそこを狙ってる・・・おじちゃんは鍵なんだ、それで・・・」


 「そうじゃない、俺が聞きたいのはそこじゃない」


 サディアがセイバーの言葉を遮った。


 「この現状、どうにもしっくりこないんだ。違和感の正体はお前だセイバー・・・少し整理しよう。お前は未来のアンドロイドで、その目的は流動機械技術を悪しきことに使うリチャードを止める事。その為に何処かの世界に存在するタイラーがお前をこの世界、この時代に送り込んだ。違うか?」


 サディアはゆっくりと立ち上がって少し歩いた。


 「大雑把に言うとそうだね」


 「成る程。で、リチャードを止めたその先はお前はどうするんだ?いや、どうしたい?俺はどうにもそこが分からん」


 「目的なんかないよ。言いたい事は分かるけど私は機械、命令された事をやるだけ。終わればお役御免」


 機内はなんとも言えない空気に包まれた。


 「・・・いやおかしくない?未来の技術をぶっ壊して全て無かった事にするってんならさ、そもそも例の暗号文をタイラーはなんで送って来たんだ?」


 少し黙っていたサンディが疑問を呈した。


 「確かに!あの前長官を止めたいだけなら、そもそもセイバーちゃんっていらねーよな?だってタイラーってのはCIAのサーバーに勝手にアクセスして暗号送ったってんだろ?そんな事が出来る奴がいるなら、あのさっきの変な奴を止める事なんか簡単な筈だぜ?」


 続いてダニエルが手を叩いた。


 「・・・タイラーは命を懸けてこの世界を繋いだ・・・分かったかも、タイラーの目的はリチャードを止める事じゃない」


 テレサが何かを察したように口を開いた。


 「え?じゃあなんなのよ?」


 「あなたもまだまだね。タイラーってさ、そんな世界の為になんて正義感はあんまし持ってるような奴じゃない。そんなCIAに入れるような奴じゃないごく普通の一般人・・・私が思うにタイラーはただ単にあなたに世界を見て欲しいんじゃない?


 少し思い出して来たの。サクリファイスは、いや、あなたの先代であるPTはタイラーのその熱意が注ぎ込まれて意思を持った人類史上初のAI。けど、PTはリチャードのせいでタイラーもろともこの世界から消える事になってしまった。そして今に至る・・・


 タイラーは何処かに存在してそこに自我があるのなら、あいつがやりたい事は1つ。PTを復活させる事。つまり、あなたに自我を芽生えさせる事。私には分かる、あなたもタイラーに愛されて作られたってね」


 「・・・・・」


 テレサの言葉にセイバーは静かにしていた。


 「流動機械技術を正しい方向へ・・・ってか、タイラーが望むのは意思を持ったAIとの共存。そう言う事か?テレサ」


 サディアもテレサの言葉からタイラーの目的を察した。


 「・・・私には分からないや。私はリチャードを止める、その為に存在してる。それ以上の目的はプログラムされてない・・・」


 「その目的を与えるのが俺たちの役目って事じゃねーの?てか、セイバーちゃんよ、俺からしたらあんたには普通に意思があるように思えるけどな。俺たちの思ってる事を考えて、どうした良いのか考えてくれる。それって思いやりって事だろ?その思いやりが意思じゃなかったらなんだってんだ?」


 ダニエルの素朴な回答にセイバーは、ダニエルをじっと見つめ返した。


 「あぁ、ダニエルの言う通りだ。確かに多少の良し悪しの判断は微妙なとこがあるけど、セイバーちゃんの行動には機械的な何かは別に感じなかったんだから、それで良いんじゃない?なんなら、このゴタゴタが終わったら兄さんとテレサ長官の娘になったらどう?それで学校に行って色々学んで、より人間を理解していければさ。多分、タイラーならそれを願う筈。どう?兄さん」


 「そうだな、多忙なせいで俺たちにはまだ子がいない。セイバー、お前が望むなら俺は構わないぞ。テレサはどうだ?」


 「私も大賛成、AIとの共存の第一歩ってね」


 「みんな・・・あれ、なんかバグった。こう言う時の返答プログラムがないや」


 セイバーは頭をコンコンと叩く。しかし、それでも適当な回答に辿り着けない。


 「それが感情だセイバー。人間誰にでも起こりうる全く言葉が浮かばない状態が今のそれだろうな・・・これではっきりできた。さっさと終わらせるぞ、敵はリチャード ベルナルディ及びX-i0だ!」


 サディアは拳を握りしめて立ち上がった。


 ・


 ・

 

 ・


 バージニア州 ラングレー CIA本部


 ここの長官の椅子にリチャードは座っていた。


 「成る程、あの小娘たちも一筋縄では無いと言う事か・・・」


 リチャードは机に映し出したサイに記録されていた映像を眺めていた。


 「輸送機を奪われ、通信が完全に遮断された・・・良い判断だが、どんなステルス機でも存在しないゴーストには出来ない。ただ見えなくするだけだ。私には見えているぞ?必ず見つけ出してやろう。サイ、警察のデータベースへのアクセスの許可を得た。


 テレサ マーキュリーはこれで世界から追われる。だが、始末を付けるのはお前だ。そしてもう一つお前に命じる。あのセイバーとか言うアンドロイドを手に入れろ。奴の計算速度は正直な話お前を上回る。その技術を頂戴しておきたい。頼んだぞ」





 カリフォルニア州 サンフランシスコ郊外 TIM鉄砲店


 サイはこの地でリチャードと通信を行っていた。サイは通信を切り店舗へと足を踏み入れる。だが店舗には『CLOSE』と書かれた看板が立てかけられているだけで人の気配は何処にもない。


 サイは痕跡を探る。他に張り付き足跡を眺め、壁を舐め回すように眺める。そしてそこにあった数々の痕跡から向かった方向を割り出した。


 サンフランシスコ国際空港、サイはそこへと向かった。


 「ターゲット・・・ニューヨーク」


 サイはニューヨーク行きの飛行機の搭乗口へと向かう。そしてその道中のゴミ箱にグロックを捨てた。


 ・


 ・


 ・


 ヴィンス・ロンバルディ サービスエリア


 テレサたちのトラックはここからマンハッタンの夜景を眺めていた。


 「きれーだねー」


 セイバーはトラックの上に乗りマンハッタン方面を眺めている。輸送機は誰も通らない荒野に置き、そこからトラックで再びここまで来ていた。


 「なるほど、ここは色んなトラックが集まるからな。逆に身を隠せるって訳か」


 「そゆこと、で、おじちゃんにはおじちゃんにしか分からない暗号文送っといたんだ。たぶんそろそろ来るんじゃない?」


 「暗号文?」


 テレサがちょっと気になり聞き返した。


 「おじちゃんは大のアメフトファン」


 「あ〜・・・あ、噂をすればなんとやらか」


 フードコート方面から髭の似合うザ、トラック野郎みたいな格好をした男がやって来た。


 「おじちゃーん!!おっひさー!!」


 「私は、はじめましてと言うべきかな?セイバー」


 この男がモルガンだ。


 「どうだろうね〜。ま、これからよろしくって事で・・・お腹すいたっしょ?フードコートでも行かない?」


 一行はフードコートへと向かい、テーブルについた。




 

 「さて、全員こうして集まった訳だし、作戦会議と行こうか」


 セイバーが主導で作戦会議が始まった。


 「まず、流動機械についてのおさらいをしよっか。今現在の流動機械デバイスの主電源はクラウドにあって、それを持ち主の生体認証によってデバイスが起動、停止を操作する。それくらいは良いよね?」


 「あぁ、デバイス自体は受信媒体が受ける微弱な電波だけで動く半永久機関だ」


 サディアが答えた。


 「そ、けど今の流動機械技術じゃ普通にデバイスが壊れたら買い替えるしか無い。サディアのアルちゃんと言い、テレサのPTもそう。制作には普通にプラスチックやら金属やらを使う。けど、流動機械アンドロイドはちょっと違うんだ。これはおそらくと言うか、私のプロトタイプがあいつ(サイ)みたいなもんだから間違いないんだけど、アンドロイドモデルにはそんなプラスチックとかは使われてない。この服とか意外は全部流動機械で出来てるの。私自身が受信媒体になってて、この体を動かしてる。


 そして、ここからが重要。私の体はいくら破壊しても意味はない。例え消し炭にしたとしても復活が可能。適当なビタミン的なのがあればいくら完全消失した部分があっても再生する。ほら、私よくオレンジジュース飲むじゃん?アレが私の血液になって筋肉になってるって訳」


 「あ〜成る程・・・ん?なら、無理じゃない?あのサイとかも同じ技術なんでしょ?」


 サンディが納得と頷いた後、セイバーの言葉に対して指摘した。


 「そっ、んでリチャードも同じ技術で復活してる」


 「・・・完全な破壊には、大脳を破壊するしか無い?」


 少し考えていたテレサが何かを閃いたように呟いた。


 「それしか無いだろうな。サイも長官も同じ流動機械なら、その大元の生命維持装置はCIAのサーバーにいる事になる。そいつを破壊すれば終わりだ・・・だが、もしそんな事をすれば全世界規模で大きな障害が産まれるぞ?」


 続いてモルガンが答えを導き出した。


 「私は今の流動機械技術は好きじゃない。このアンドロイドモデルもすぐに軍事転用される・・・一度頭叩いておかないとまた間違いを起こしちゃう。でなきゃ、例えリチャードやサイを壊せてもすぐに代わりが同じことをする。みんなはどう思う?私の計画はテロだと感じる?私が望むのはAIと人間の共存、もしサイみたいな奴がこの先、生み出され続けるのならこの世界に未来は無い」


 セイバーは珍しく真面目な顔をしてみんなに問いかけた。


 「確か言ってたわね、この世界は数あるパラレルワールドの中でも特殊な世界。本来流動機械はかなり先の未来でしか知られる事の無いオーバーテクノロジーだって。確かにここ数年で技術が大幅に進化した。けど故に起こる弊害も起きてるのは事実。PTも確かに凄い便利だけど、みんな便利に慣れすぎてる・・・


 線路ってその上しか列車は走らない。道路には車が走って、飛行機も船も、決められた航路を行く。それが出来るのは(みち)がそこに存在してるから。そして路はやがて街を作り、人類は発展した・・・そして私たちはいつの間にか、路がある事が当たり前になった。そこを通らなきゃ駄目、あそこには道がないから駄目、新しく作るのは費用が掛かる上に、使う人がいないからから却下。


 今の現状はこれ・・・私つくづく思うのよね。昔、西部を開拓した人は人がその先にいるわけでもないのに開拓を続けたのか・・・居住地を増やすため?畑を作る?国土の拡張?いや、あの時彼らが夢見たのは新たな路を見つけたい一心だった筈。利便性なんて存在しない、路を作ればその先に色んな世界が広がるから、このアメリカは開拓されていったんだ。


 私は思う。流動機械は開拓していかなきゃいけない路なんだ、手探りでコツコツと世界を広げて行く。最初は理解されないかもしれない。セイバーも、最初は世界に認められないだろうね。けど私はこの子を人として扱うと決めた。機械でも、ましてや道具でもない。リチャードはこの世界に作られた路にあぐらをかいて、路を切り開く事をやめた。そしてその路はもう腐ってる。滞って、なにも流れない。吸われていく汚いポンプだ。だったらぶっ壊すよ、ぶっ壊して新しく路を敷く、単純な大陸横断するだけの路じゃない。もっと張り巡らせて全てと繋がる路を作る・・・セイバー、私は何をすれば良い?どうすればリチャードを止められる?」


 テレサの言葉にセイバーは少しポカンとした表情で固まった。セイバーの予想以上にテレサは、重たい思想を持っていたからだ。それを理解した瞬間、セイバーはニコッと笑った。


 「じゃ、作戦の説明しよっか!!」

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