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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

前世持ちの聖女は苦悩する

作者: 馬場克念

**********************

聖女にもいろんな態様がありましょう。


癒やしを得意とする聖女様もおられるでしょうし、

浄化を得意とする聖女様もおられれば、

政治型の聖女、商いを得意とする方、

守られ愛され型聖女も居られますし。。。


…拳一つで戦闘職に就いておられるような、

暴力装置型聖女様も斯界には多いものです。


 この様な昨今の聖女界の風潮においては、

こちらの聖女様はとても不器用な生き方を

選択する方だなと思いました。

by ○○

**********************


 私は聖女の家柄に生まれた。それは間違いないし、

私の母も祖母もそれなりの光属性魔法を使えたし、

代々のご先祖様だって、聖女とは名乗れずとも、

それなりに活躍した人ばかりだ。


 私自身だって光の魔力を授かっている。五才のこの日、

卒園鑑定するために訪れた王宮では、 間違いなく水晶は

光の魔力を感知した。


それなのに。ああ、それなのに。


 「珍しくもないですな」

 「まぁ傍流とはいえ、聖女系の男爵家ですしな」

 「そちらの四男でも降嫁させますか」

 「降嫁って(笑」

 「ああ婿でしたな、失敬失敬。不要王子のリユースてか」

 「はっはは。あまった王族捨て場ですよ」


 失礼な!私は廃棄王子処理場かっ!

まったくこの国の王家はだめだめだ。

どいつもこいつもダメダメだ。


あんとき、やっぱりちょん切っておくべきだったか。

前世での不始末がここに祟ったというところ。

五歳にして私の精神は、すでに枯れきっていた。

ええい、こんなとこ、二度と来るもんか。ぺっぺっぺっ。


我が国が何という正式名かは忘れた。

覚えるのも恥ずかしいような名前だったはずだ。

聖うんたらかんたら大王国とか、そんな感じ。

周辺国はだれもそんな名前を呼ばないし、そもそも

国民ももはや「聖女国」としか呼ばない。


 国民と役人が優秀だからなんとか国としての体裁を

保っているけれど、王家も貴族もみーんなダメダメだ。

こんなの何か間違っている。立てよ、国民。

王家と貴族を倒すのだ~。


 「あんたのとこも貴族でしょうが」

 「また貧乏聖女がなんかいっとるがな」

 「もう五歳なんだから、おとなになりましょう」


 正ウルスラ幼稚園の同窓生たちもみーんなダメダメだ。

志が低い。みんな庶民の癖に貴族に不満はないのか。革命だ。

闘争だ。イッツナンセンス。


 我々は主張するぅ、旧態依然たる王侯貴族のぉ~横暴ここ極めりぃ。

今こそ、保守反動のぉ現体制を倒し、労働者階級のぉ正義を~貫くのだぁぁぁ。


 「庶民ですけど、お金持ちですし資本家ですしぃ」

 「庶民ですけど、べつにお給料に不満ないし、パパもやさしいし」

 「結局、この国は安定してていいのよ」

 「「そうよね。とくに不満ないよねぇ」」


 ブルジョア階級めっ。

最下級貴族の怨念を込めて私はぺっぺっする。そこら中にぺっぺ。

 

 「ちょっと。よしなさいよ、汚いわよ」

 「まったく。よかったじゃない、王族と結婚できるんでしょ、一応」

 「うらやましいよね、ほんと。」


 それぞれ、水の魔力、火の魔力、氷の魔力に目覚めたらしい同級生どもは余裕

の笑みである。実に悔しい。なんで私は使いものにならない光の魔力しかないのか。


 「いやいやいやいや」

 「使い物にならないのは、あんたでしょ」

 「光の魔力っていったら」

 「回復も身体強化も攻撃魔法も浄化も」

 「「「むしろ、できないことなんてなにもなくない?」」」


ぺっぺっぺっ。私はつばを吐く。そこら中につばを吐く。


こんな力いらなかった。こんな力絶対無駄だ。無意味だ、ぺっぺっぺ。

「うわ~汚い」とかなんとか喚きながら、同級生たちが一斉に離れていく。

小石なんか拾って投げてきた。仕方ないから、打ち返す。カキーンカキーンと打ち返す。オラオラっ。


これが光魔法拳だ。聖女の拳はダイヤモンドより硬いんだぞ。オラオラ。


 「ちょっと、危ないわね」

 「璧の肌に傷でもついたらどーすんの」

 「あんたと違って、私たちは普通の女の子なのっ。わすれてない!!」


 くっそ。五歳児のいうことがいちいち小憎たらしい。ああ、聖女の力が、前世の記憶が私を孤独にする。ええい、静まれ我が魂よ。荒ぶる魔力よ。


 「もう。また始まった」

 「前世話はもういいから」

 「はいはい、あきた、あきた」


――ひどい奴らだ。言葉も満足に話せない1歳児クラスからの付き合いなんだぞ。

もっと聖女に優しくしろ、こら。ああ言葉も話せなかったあの頃の方が、心が通じていた気がする。

みんなあんなに素直でかわいかったのに…こんなになるんだね。女の友情なんてこんなもんか。グスン。

 

 「前世持ちが、なにをいってるんだか」

 「あんた一才から文字盤で先生と会話してたでしょ」

 「そうそう、こっくりさんの板みたいなの使ってた」

 「「「あれって、不気味だったよねぇ」」」


 おまえらだって1才児の記憶がバッチリ残ってんじゃん。

それだって大概だぞ、おかしいぞ、へんてこなんだぞ。

もっと五才児らしく純真にたどたどしい幼児語話せや、癒やしにもならん。

聖ウルスラ幼稚園はどうなっとるんじゃ。教育がなっちょらんっ。

 

 「それは思うわ」

 「あんたをみてると特にね」

 「でも先生は前世の記憶のせいだっていってたよ」

 「「「まさに責任転嫁の教育放棄っ!」」」

 

 この天才児どもめ。おまえらは前世の記憶もない癖に、まったく。

 ともかくも、こうして私たち聖ウルスラ幼稚園天才児コースの卒業式は

つつがなく終わったのだ。


 王宮に来ることももうないし、こいつらとも二度と会うことはないだろう。

ないかもしれない。ないよな?おい?


**********************


 あれから十年たった。もう15歳だ。

くっそ長い貴族コースの中等義務教育課程を終え、ようやく私は独り立ちする。

いわゆる中卒で結婚だ。ああ、つまらない。王位継承権993位の下位王族が私の夫だ。

みたこともないが。一応年の近い、なんとか王の代に分かれた5孫目の王族とかいう触れ込みらしい。

別にいいけどさ。


 大体、この国は王族が多すぎる。いったい何人いるんじゃ。

それだけ豊かな国だということだろうが、さすがにね。貴族家の数より王族が多いなんて

冗談みたいな話もある。数えたら実際そうかもしれない。それもこれも前世の私がポコポコ

王族を産んだのが原因だから、あまり文句も言えない。それもこれも全部、私のせいなのだ。


 千年前、私こと聖女と将来の夫となる勇者は、脳筋の騎士団長と脳筋の賢者と脳筋のシーフを引き連れて魔王を倒した。別に恨みもないし、魔族が人間狩りとかしていたわけじゃない。どちらかっていえば、人間の側が豊かな土地を求めて魔界に攻め込んだ。冷静に考えればひどい話だけれど、千年前はそんなことちっとも思わなかった。今はこんなに賢い私だけれど、当時はちょっと脳筋だった。力こそ正義って感じな時代だったしね。そして私や騎士団長はそれを体現した存在だった。犯すぞ、おんな、とかいって殴りかかってくる騎士団長を、やれるもんならやってみな、と殴り返す日々。あいつ、本当は私のことなんてなんとも思ってないくせに、性欲だけは向けてきたんだ。そりゃ、殴るよ。


 そんな殺伐としたわたしたちのチームだったけど、いざ戦闘となれば見事な連携でバッサバッサと魔王どもを倒していった。8つか9くらいは国を滅ぼして大陸一つをまるっと手に入れた。そして人間界から大量移民。勇者は勇者王となり、聖女様と(くな)がり、末永く幸せに暮らしましたとさ。なお騎士団長は最後に決闘を申し込み、返り討ち。シーフと賢者はね、それぞれいい人を見つけてどっか行きました。シーフのやつ、たまに私の聖服盗んでたくせに。

 

 「おお勇者よ、やはりおまえこそ王にふさわしい」

 「真に勇気を持ちたるもの、人はそれを勇者と呼ぶ」


 なんか私たちの結婚式のときにそんなこと言った気がする。

騎士団長はなぜか号泣してたな。そして私は勇者との間に15人の子をもうけた。勇者も光属性、私も光属性だから、生まれた子もほぼほぼ光属性。レアだったはずの光属性が一気に拡がったのは確実に私たち夫婦のせいだ。あと、勇者は私が妊娠中、隠れて外に五十人からの隠し子をつくってた。そりゃそんだけ王の隠し子がいれば、王侯貴族がわらわら跋扈する世になるわね。それでも当時はまだ光属性持ちは王族の証、なんて言う時代だった。実際、私は亡国の王女だったし、勇者も王位継承権3位くらいの、大国の王子だったはず。今じゃ拡がりすぎて、庶民でも貴族でも三人に一人は光属性もってるけどね。

 

 勇者は癒やしの勇者とか言われて、調子くれてたし、私も光の聖女だし、産めよ、増やせよ、大地を覆え、なんてそれっぽい教義で新興宗教つくっていったりして、あんまり勇者を責めることはできなかった。隠し子ばれしたときだって、三日三晩ハサミをチョキチョキしながら、王都を走り回っただけだ。結局、泣いて謝るので取りやめたし。ま、癒やしの勇者なんだし、ちょん切られてもちょっと痛いだけで、自分でくっつけられるはずなのにね。勇者は根性なしの癖に逃げ足だけは速かったなぁ。総じて勇者の子は、どいつもこいつもいろんなところで子供作るし、ほんとまとめてちょん切っておけばよかったと振り返る次第である。


 あれ、よく考えたら勇者のやつ、戦闘でも日常でも役たってないな。戦闘は部下の騎士団長任せだし、火力は聖女である私が一番だし、戦略とか方針決定とかは賢者がやってたし、索敵とかシーフの独壇場。あれ?なんで勇者パーティとか言われてたんだろ?あれ?


 なかなか旦那となる継承権993位の王子様がいらっしゃらないので、前世の思い出を振り返り、振り返りして総括していたら、今日も日が暮れた。993位どのは「ごめんなさい、僕には勇気が足りませんでした」なんて置き手紙して、どっかに逃げた。現在、王家をあげて捜索中である。相変わらず、逃げ足だけは速い一族だな、ほんと。


**********************


 「冗談じゃないぞ」


993位こと,この俺、アッシマーは現在全力逃亡中だ。

アッシマー。いい名前だろ。だが絶対にやつに知られるわけにはいかない。

やつは前世の記憶持ち。しかも、だ。初代聖女の記憶持ちというではないか。

そんなのと、結婚なんてできるわけがない。冗談じゃない。俺は逃げる。

魔界の果てまで逃げて逃げて、逃げ場がなければゲートを越えて人間界だ。


 この俺も低位とはいえ、王族の一人。光魔法の適性もあれば、市井では

めったにないという前世持ちも発現しやすい。俺は当然前世持ち。


前世の記憶を隠して楽して生きよう。

そう決めて静かに生きたのに。なんで?今更前世のかーちゃんと

結婚しなくちゃならないんだよ。やってられるか。


あのばばあ、俺が14歳でお付きのメイドを孕ましたとき

ハサミもってチョキチョキしてきたんだぞ。こえーよ。


「あ、しまったー」


 母ちゃん、脅すつもりだったんだろうけど、手先が滑ってちょっと切れた。

すげー泣いた。そのときから俺のあだ名はアシマーだ。生まれ変わってアッシマー

なんて本名つけられたのも、絶対、前世の呪いだ。この名前、母ちゃんの耳に入ったら

一気にいろんなことを思い出すだろう。その上で、今世の俺の所業も断罪するはず。

まずいって。俺、今、75人くらい彼女いるし…。

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